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『魔族』と呼ばれる存在

最終回となります

 リンアンへの移動。

 その間すごかった。


「ピヨピヨ、私がいない間なにがあったの?」

「……まあ、大変だったんですよ……」

 ピヨピヨが遠い目。


 馬車に乗っている最中だと言うのにレン様が鞭を持って、ヤン様と特訓。

 めっちゃ怒鳴ってる。


「元気になられたのは幸いだけど元気すぎません?」

「……ショウサの方々が懸命に薬草の改良をしていただいたんです。それが効きまして」


 私は本当は二人を止めようとしたのだが、ピヨに声をかけられ、今は薬草を煎じている。


「移動中も薬草のスープが飲めるように、様々工夫して下さったんです。それでも手間はかかりますから」


 薬草を煎じながら話を聞くと、要は王位継承の儀式の練習していたら、ヤン様が全然出来なかったのでこんなことになったらしい。


 おかげで私が帰ってくるまで移動することもなく、延々と訓練をしていた、と。


「出来てないんだけど」

「……あれでも大分マシには……」

 椅子から座って立つだけなのに、全然出来てない。あれ教え方も悪い気がするんだけど。


「そら揺れる馬車で立てって言われても、ふらつきますわな」

「……まあ、ヤン様はそれ以前の問題が……」

 そうなんだよねー。


「ヤン様が王というのもねぇ。心配だよね」

 不敬だとピヨに怒られるだろうなぁ、と思いながら口に出したのが、予想外にピヨは深刻な顔で頷く。


「……側で見ていて……正直……」

 うん。まあねぇ。

「それでもレン様の体調考えたら早くって思ってはいたんだけど……」

 横目で怒鳴るレン様を見ながら


「元気そうじゃない?」

「ここまで元気になったのは最近の話です。この移動でどうなるかは心配です」

 確かに。そのために薬草煎じている訳でしてね。



 それから馬車に揺られること10日。まだ半分ぐらいの工程である。

 なのだが


「……ここまで来ておいてなんだ。という話なのだが……」

 レン様が深刻な顔で話す。

 要は


「心配だ」

 ヤン様に色々教えてはいるけれども、まったく身についているように思えない。


 そしてなによりも

「……皆の献身のお陰で元気でな……」

 ヤン様への王位継承をするためにリンアン目指してはいるのですが、本当にヤン様に託して大丈夫か?

 という。


「……あの、正直な話ですが、元々を考えればヤン様はまだ幼いわけです。今すぐ王位を継ぐ必要はなかった。レン様のご体調と、トハンの影響を考え早めの即位を決断されたわけですが、実際問題、今すぐ即位する必要は……」

 私の意見に皆が頷く。ヤン様まで頷いてるし。


「とはいえ、もう即位の儀式はリンアンで準備している」

「文字通り『即位の儀式』でして。よく考えたらレン様の即位の儀式もリンアンという王都でしていない訳ですから。レン様の即位の儀式でも別に誰も困らないかと」


 そしてなによりも

「コウルとアレンの野心もあります。ここでヤン様の即位に慎重になれば、ますます身を慎むでしょう。一番心配だったのが、ヤン様の即位で自暴自棄になられることだったので」

 アレンもコウルも、割とちゃんと従っている。


 今回も一緒に移動しているのだが、彼等に従っている女官達からも最近はなんの苦情も来ない。


「……それにしても、ここまで来て……」

 レン様は悩まれるが

「今回はあくまでも後継の確定という事で。後継の儀式まではしたらどうでしょうか? いつでも交代可能な状態にしておくと言うことです。レン様のご体調がまた厳しくなれば即座に交代できると……」


 レン様は悩まれながらも

「……そうするか……」



 ショウサの人達は突然押しかけた私達に対して、とてもよくしてくれていた。

 王族なのに偉ぶらないから。

 王族なのに優しいから。

 そしてなによりも

「ちゃんと私達の文化を大切にしてくれているから」

 とはよく言われた。


 ヤン様とレン様は虫は食べなかったが、薬草での治療を採用していたのはとても励みになったらしい。


 そこらへんの好意が結び付いたんだとは思う。

 レン様への薬草の改良は凄い勢いで進み、寝たきり状態だったレン様は立ち上がって怒鳴るぐらいに元気になっていた。


「しゃおーーーー」

 半泣きのヤン様。

 元気になったレン様はヤン様をスパルタで育てようとしているので、ヤン様がボロボロになっていた。


「……王位を伸ばしましたし、もう少し優しくして頂くようにお願いしてみますから……」

「つらいよーーーーーー」

 泣いてるヤン様。

 性格的に向いてないんだよね。我が国の明日はどっちだ。


「一つ一つ憶えていきましょうね。ゆっくりでいいですから」

 そう言って頭を撫でると、嬉しそうに頭を胸に埋めてきた。



 リンアンでの儀式だが、なんの混乱もなかった。

「とりあえず先にレン様の即位の儀をやりますから」としたらみんな納得してくれたのである。


 それはともかくリンアン。

 大都会。旧王都どころではなかった。

 ものすごい都会。

 人々が溢れている。そして大歓迎された。


 一回も来なかったので心配されていたらしい。

 とりあえずのレン様の即位というのも安心材料だった。

 やはり混乱期に幼帝は心配の要素だったのだ。


 即位の儀も猛訓練の結果か、やることを大幅に減らした成果か、滞りなく終わった。


 そしてショウサに帰る段階で、やっぱり止められました。

「……その、王都にいつまでも王がいないというのも……」

 そらそうだ。


「見ての通り体調はだいぶ回復した。もう少し療養したら戻ってくる」

 ということでショウサに帰ってきた。



 ショウサに帰ってきてから問題が2つ。

「とりあえず清どうしましょう?」

「現実的には和睦だが……」

 レン様はかなり悩んでいる。目の前で妻と親を殺されたんだからそうなんでしょう。でも

「……旧西軍は大分勢力を失ったと聞いた」

「はい。ソンケワン将軍は討ち死に。ウェイン将軍率いる軍のほとんどはトハンに帰りました……残るはリジンジョウ将軍率いる軍勢と、旧順軍のザンリ将軍です。ザンリ将軍は正直……信用はそこまでできませんし……。ミィンジャオ軍は守るのが精一杯です」

「……停戦やむなしか。その間に軍事訓練だな。できれば俺が執権を握っている間に片をつけてあげたいが……」


 こちらは停戦。


「それと父にあってお話したと思いますが、トハンにヤン様を連れていかねばなりません……」

「……ああ。いや、あれが本当に本人なのか、俺にはわからんのだが……」

 父はショウサで待っていたのだが、レン様に紹介しても半信半疑のままだった。


「ひどいことはされないと思いますし、トハンが協力的になれば今後に有利ですから……」

 正直行きたくはないが。でも清との関係考えればなぁ。


 というわけで行くことになったのだが、歩いてなんてらんないわけで。

 お迎えがきました。

「メガミサマ、オムカエニキマシタ」

「私は虎が良いんですが」

 ちゃんと虎にまたがったウェインさんもいるのだ。虎でいいじゃない。


「アニキ、オソイ。イツカカカリマス」

 5日。いや、十分早いです。


「私は虎がいい」

「ワガママイワナイデドウゾ」


 そう言って無理やり押し込まれる。

「あれ?ヤン様は?」

「フタリシカ、ノレマセン」

 見ると、ヤン様はウェインさんの脇に抑え込まれてる。


「いや、あの。乱暴されても困るのですが」

「アレガアンゼンナノデス」


 結局声が枯れるまで絶叫してトハンに到着。

 ヤン様が着くまでいつものように洞窟内でお経浴びせられるという嫌がらせをされたあと。


「しゃおーーーー」

 半泣きのヤン様。

 3日である。

 速い。

「アニキ、ガンバリマシタ」

 ウェインさんがなんか疲れた顔をしている。


 そして長老さんたちが集まり

「では儀式を……」

 うむ。


「いいですか? 儀式をしますが見ないように。声が聞こえればよいはずです」

 そう、ここらへんの抜け道を父に探させたのである。その結果

「別に目視の確認はいらん」となったのだ。

 声を響かせるというのも嫌なのだが


「シャオ、なんかすごい寝床だねー」

 そう。洞窟の奥になんだかわからないほどでかくて豪華な布団が用意されていた。

 ここでやれってことでしょうね。ええ。

 なんか私がいたときから奥でごそごそやってんなー。とは思っていたけれど。


「とりあえず、わざわざヤン様に来て頂いた理由はですね……」

 みんなの前で説明するのが嫌だったので、ここで説明。

 ヤン様は顔が真っ赤になったが

「うん! じゃあいっぱいしようね!!!」



 いっぱいしよう。

 その言葉のとおり、めっちゃしていました。

 しかも、一回出したらスッキリして少し寝る

 また起きて再開。こっちが大変だったわけですが、なによりすごかったのは表。

 目で見えないので、黙って聞き耳立てているようなのだが、声が止まるとでっかい声でお経。

 ヤン様が起きるとまた黙る。


 その繰り返しで私は寝れてない。


「ねむーーーい」

 まあ正妻ですからね。これぐらいは全然良いんですが。毎回生殺しみたいなのも慣れた。


 身支度を整え洞窟の外に出ると、皆が涙を流して喜んでいた。


「我らから選ばれなかったのは残念ですが! これでトハンの悲願は達成されました!!!」


 悲願は達成されたそうです。眠い。



 トハンへの友好関係はとりあえずなんとかなりそうだった。

 清とも一時休戦。

 そしてなによりもレン様が元気になったのだ。


「皆のおかげだ。本当にありがとう。我らはリンアンに向かうがこの恩は生涯忘れぬ」

 私達はリンアンに行くことになった。

 リンアンにもショウサの薬草は必要だが、それは送ることでなんとかなるとなった。


 王都から追放されて以来、ずっと過ごしていたショウサを離れリンアンに向かう。


 その準備をしていたとき

「すべては終わった。私もこの世界と別れを告げる」

 父。

「死ぬ必要はないのでは?」

「もはや死は遠ざけるものでも、近寄るものでもない。もうこの世界でやることは尽きた。それだけだ」

 深く沈んだような目。

 私は反論も思いつかない。


「……お母様によろしくね」

「ああ」

 私は背を向ける。


 そこに

「シャオ様! ライディラ様大変です!!! 北で、『魔族』が!?」

 魔族?


 私はキョトンとしているが、振り向くと父は青ざめた顔をする。


「ま、まさか……。いや、全ては教義通りだったのだ。であれば……」

 父の震えた声。


「魔族って?」私の問いかけに

「ソンケワンとその兵です!!! 清の王都で蘇り暴れまわっていると!?」

 は?


「『魔族』とは、破壊の女神のために戦い死んでいった兵が死後蘇る存在だ。ソンケワンはその教義を聞きかじっていた。死後も暴れまわれるように願い、あのように戦い抜き、死んでいった。女神信仰の教義はなにからなにまで正しかったのだ」

「つまり!? なにが???」

「……まあ、我らにとってはなにも変わりませんね」リジンジョウさん。


「うむ。魔族は破壊の女神の尖兵だ。シャオと、その伴侶のミィンジャオにはなにもせんよ」

 つまり?


「女神信仰は正しかったのだ。盲言でもなんでもない。それだけだ。ソンケワンは復活したか。少し語り合いたいな。語ってから死ぬか」

「お供します。私も平和の夜には不要な存在です」

 リジンジョウさん。


「あの! あなたはともかく! リジンジョウさんさん! 本当にお世話になりました! あなたのおかげで私達は救われたのです!!!」

 大声を出して頭を下げる。


 父の献策だろうがなんだろうが

 このひとがいなかったら間違いなく滅んでいた。


 ソンケワン、ウェインの二人では意思の疎通もできなかった。

 このひとのおかげで私達は……


「ありがとうございます。その言葉、長兄に伝えます。きっと喜びますよ」

 そう優しくほほえみ、二人は去った。




「あんのバカおやじーーーーーー!!!!!!!」

 リンアン移動後北の惨状が明らかになった。


『魔族』と呼ばれた存在は北で大暴れをしていた。殺してもしなない。不死身の軍隊。正確には殺せるらしいがその身体能力が異常。

 そして、その『魔族』に国の区別なんてついてないらしい。当たり前のようにミィンジャオ国の北方でも暴れまわっていた。


 その結果清とミィンジャオは正式に和睦。『魔族』を退治するために協力することになった。


「まだ和平は遠いようで」苦笑いするリジンジョウさん。

 このひとは父の最後を見届けて帰ってきた。


「ソンケワンに会いましたが性格は悪化してましたね。殺されそうになりました。『死ねば魔族になれるんだよーーー!!! 射精もんだよーーーー!!!』とか発狂してまして」

 ミィンジャオと清の連合軍で魔族と戦う。

 和平は遠い。

 私の夫になるヤン様はまだ幼く頼りない。


 考えることは多い。多いのだが。


「私は動けないわけでして」

 まさかの懐妊。

 授かってしまいました。


 時期的にはトハンなんだよなー。いやーなんだろ。怖い。


「魔族はなんとかします。シャオ様はお子さんを無事に……」

「ええ。お願いします」


 ちなみにレン様の女官たちも懐妊。時期的には思いっきりレン様の子。

 皆涙を流しながら喜んでいた。


 そして正妻はピヨ。


「おめでとー」

「……ありがとうございます。しかし、よく妊娠できましたね……」

 それは思うよ。


 幸い魔族は北で暴れているだけで南下する様子はなかった。

 一人ひとりは強力でも、数は少ない。


「この子達には平和を見せてあげたいね」

「……そうですね」

 お互いのお腹をさする。


 王都から追放されて、女神と拝められて、まだ事態は混迷しているけれど

「きっとさ、世界に完璧な平和なんてないんだよ。いつもどこかで争いは起きる。それが大きいか、小さいか。遠い出来事か、近い出来事か。だからせめて、この子達の周りだけは平和が訪れるように。頑張ろうね」


 そう言って私達は微笑んだ。

シャオの物語はこれで終わりです。

様々投げっぱなしに見える展開もあると思いますが、この話は「悪役令嬢に転生しましたが、部下達がチンピラすぎて怖い」の世界の前日談という設定です。

途中で出てきた「女神信仰」「破壊の女神」そして「魔族」という設定は、この話を下敷きにできています。

話としての直接的なつながりはないですが


36話に及ぶ話にお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言]  とても、おもしろかったです。  作者様 お疲れ様です、ありがとうございました。  後日談だったと最後にかかれていたので、前編を読まねば。
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