9.推理
食事を取りながら、ジャニィは自分の任務について一通り王子に話した。
王子は驚いていたが、一人旅じゃ不安だったので、すごく嬉しいと、的外れな感想をもらしていたが、ジャニィの任務については理解したようだった。
食事が済み一段落すると、ジャニィはテーブルに座り手帳を広げた。
「なあ、王子、ちょっと聞いてくれないか?」
ジャニィはベッドで寝転ぶ王子に向かって言った。
「昼間話したことは覚えているか?」
「うん? なに?」
王子は寝転びながら、顔だけをこちらに向けた。
「紋章のことだが……」
「うん、それがどうかしたの?」
「屋敷を調べながらも、ずっと考えていたんだが……、こういうのはあると思うか?」
王子は、ジャニィが真剣な顔つきになるのを見て取ると、体を起こし、ベッドの上で胡坐をかいた。
「まず、墓もなく、焼け跡に骨もないシンクフォイルが生きていると仮定する。そして、お前の紋章を奪ったのも、シンクフォイルだとすると、シンクフォイルが『真王の証』を手に入れる権利を得たことになるよな」
王子は少し考えてから「そうだね」と言った。
「で、その紋章を持ったまま旅をして、言葉を刻めばヴォーアムの王になれる。奴も王族だから刻むことは可能だろう。で、ここがちょっと引っ掛かるんだが……、例えば、お前が生きたままで、シンクフォイルが言葉を刻めば、シンクフォイルは王になれるのか?」
そこまで話すと、ジャニィは王子の返答を待った。
王子は右上の中空を見つめながら何やら考えているようだ。
「うーん、やっぱり無理なんじゃないかな? いくら『真王の証』を持っていたからって、僕がいれば、やっぱり僕が王になるんじゃないかな?」
「そうだよな……、そこなんだよ。もし俺がシンクフォイルで王の座を狙っていたのなら、紋章を奪うだけじゃなく、お前を殺してるんだよな……」
ジャニィが平然と言うと、王子は少し身を引く仕草をした。
「ジャニィ……、怖いこと言うね……」
ジャニィは、王子の方をチラッと見ると、「ああ、悪かった」とだけ言って続けた。
「だとすると、紋章を奪ったのは、シンクフォイルじゃないのかもしれないな?」
ジャニィはそこで、手帳に目を落として考え出した。
すると、王子が急に何かを閃いたのか声を上げた。
「あっ! そういえば、夜中寝ているときに一度だけマスケスが来た気がするよ」
「なに? 本当か?」
ジャニィは顔を上げた。
「うん、そうか、あの時に紋章を取られたのかも……、でも、なんでマスケスが紋章を取るのかな?」
王子が首を傾げている。
「祭事長か……、例えば、祭事長が紋章を奪ってシンクフォイルに手渡す。そして、シンクフォイルには、お前が死んだと吹き込めば、あの真面目なシンクフォイルのことだ。きっと責任感から自分が王になると言うだろうな。そうなれば、シンクフォイルがお前を殺すことはないな。でも、そうすると、祭事長はなんのために、そんなことをしたんだ? それに祭事長がお前を殺さなかったことも納得できないな……、やっぱり、お前が生きてることが謎なんだよな……」
ジャニィは右手のペンをクルクルと回しながら再び考え始めていた。
「酷いなー、ジャニィは僕をそんなに殺したいわけ? あっ! 僕が死んじゃったら、ジャニィの任務も失敗になっちゃうじゃん! 護衛なんでしょ? それでいいの?」
王子が笑いながら言った。
任務? 俺の任務か……、確かに俺の任務を知っていたのはエレファン王と祭事長だけだ!
そうか! そういう可能性はあるかもしれないな。
ジャニィは手帳に何やら書き込むと、考えをまとめ始めた。




