6.調査
ジャニィと王子は、小屋の横にある墓を調べていた。
どうやら、即席で作られた墓だが、犬用ではないみたいだ。
ジャニィの目の前にある木材には、ダウリカと彫られていた。
「おい、これ人の墓みたいだぞ。ダウリカだって。そっちは?」
ジャニィは右側で同じように墓を調べていた王子に問いかけた。
「うん、こっちはボーモンティア様の墓みたいだよ。でもなんで、こんななんだろ?」
王子が疑念の表情を浮かべていた。
「普通じゃないよな? 荒れ地の領主ったって、一応王族だろ? こんなちっぽけな墓じゃないだろ、普通は……」
「そうだね。普通なら王宮の墓地に埋葬するはずなんだけど……」
王子は腕を組んで何かを考えているようだった。
「ねぇ、ここにあるのは、ボーモンティア様とダウリカって人の墓でしょ? たぶんだけど、ダウリカってのは、この小屋を使っていた執事だと思うんだよね。で、アルバはマスケスが連れて行ったんだよね?」
「うん? そうだな……」ジャニィは王子の方を見た。
「じゃあさ、シンクフォイルは?」
王子に聞かれ、ジャニィは辺りを見回したが、シンクフォイルの墓らしいものは見当たらなかった。
「ないな……、シンクフォイルの墓がないってことは、この墓を作ったのはシンクフォイルってことか? じゃあ奴は生きてるのか?」
「だよね!」王子の顔がパッと明るくなった。
「いや、そうでもないか?」
ジャニィが、自身の発言をすかさず否定した。
「あっちを見てみろ。あの焼け跡、シンクフォイルは向こうで焼け死んでるかもしれないぞ」
「えっ! そんな不吉なこと言わないでよ!」
王子が遠目で焼け跡を見ながら言った。
「じゃあ、向こうの屋敷をもう少し調べてみるか」
ジャニィは王子を促すと、先ほどの焼け跡へ向って歩き出した。
「あっ、ちょっと待って!」
ジャニィが振り向くと、慌てた様子で王子が自身の体のそこかしこを触っていた。
何やってるんだ? あいつは? ジャニィがそう思っていると、王子が叫び声を上げた。
「うわ! ないよ! ジャニィ! 『王家の紋章』がないよ!」
「何がないって?」
ジャニィは踵を返して王子の元へ戻った。
「なんだよ? 何がないって」
「『王家の紋章』だよ。ここに入れてたのに無くなってるんだ!」
王子が胸倉に右手を突っ込んで、ワシャワシャとまさぐっている。
「旅で言葉を刻むっていう、あれか?」
「そうだよ! あれがないと『真王の証』を得たことにならないんだよ!」
「なんで、そんな大事なもん失くすんだよ? 小屋の中にでもあるんじゃないか?」
ジャニィがそう言うと、王子は一目散に小屋へ駆け込んで行った。
まったく、相変わらずポンコツ王子だな。あの頃からちっとも変ってないな。
ジャニィは場違いと分かっていながら、なんとなく微笑ましい気持ちになった。
しかし、それと同時にマスケスが言っていたことが引っ掛かった。
民のために一刻も早く王になる?
本当にそんなことを言うのか? この王子が?
そこへ、青い顔をした王子が小屋から飛び出してきた。
「ジャニィ……、やっぱり無いよ……、どうしよう……」
王子が情けない声で失望を顕わにした。
民のため? 嘘だろ?
ジャニィは王子の姿をまじまじと見つめていた。