↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Journal Journey ~魔王罪として処刑する~  作者: 柚須 佳
第10章 王宮書記官の旅5 真暦1499年6月
PR
77/110

5.形見

「離しなさい!」

 アイソレシアは覚束ない手つきで、真っ赤なレインボーガンを、ユガレス兵の額に突きつけた。

 するとユガレス兵は、上目遣いでレインボーガンを見遣ると、突然、ヒィ~と、情けない声を上げて、一目散に逃げ去って行った。


「大丈夫?」アイソレシアが、猫の手をジャニィに差し伸べる。

「ふぅ、助かったよ」ジャニィは、アイソレシアの猫の手を握り立ち上がると、服の汚れを手で払った。

「しかし、なんだったんだ? あいつは?」

 ジャニィは、ユガレス兵が走り去った方を見ながら呟いた。

 すると、背後から、アイソレシアが抱き着いてきた。

 そして、顔を背中に埋めながら、「ジャニィ」と呟いている。

「なあ、アイソレシア、お前まで、どうしたんだ? っと、その前になんで、お前がここにいるんだよ?」

 ジャニィが、アイソレシアを引き離すと、猫の手で涙を拭いながら、アイソレシアはボソっと言った。

「だって……だって、ジャニィと……」一緒に居たかった、とは、アイソレシアには、言えなかったようだ。素直じゃないな……。


 結局、現れたと言っていた、フッカ王を見ることは叶わなかった。

 オークオコイ軍が辺りを塞ぎ、人払いを行っていたからである。

 ここまで、厳重な警備体制を敷くことにも不思議だったが、なぜ、ユガレス王の亡骸を、オークオコイ軍が取り仕切っているかの方が疑問だった。

 あの後、オークオコイ軍にも話を聞こうとしたが、ヴォーアムの書記官服を着ていたことに思い当たり、それは止めた。

 代わりに、辺りの野次馬を数人捕まえて、話を聞いてみたが、明け方、時計塔のあった辺りの空が、急に明るくなったと思ったら、突然フッカ王の死体が降ってきた、と口々に言っていた。

 そんな不思議なことがあるのか?

 爆発後、行方不明だった王が、空から降ってくるなんてことが?

 ただ、それ以上のことは、何も聞き出せなかった。

 しかたなく、ジャニィとアイソレシアは、トボトボと二人並んで、来た道を引き返していた。


「なあ、アイソレシア、しかし、なんだって、そんな物騒なもんを持ってんだ?」

 ジャニィは、いまだ抱きしめるように抱えている、アイソレシアのレインボーガンを見据えた。

「これ?」

 と、アイソレシアは、それを猫の手に持ち替えて続けた。

「小さい頃に亡くなったお母さんの形見。と言っても、凄く古いものらしいから、矢が出るかは、分からないのだけど」

 そう言うと、見てみる? とでもいうのか、ジャニィの前に突き出した。

 ジャニィは、それを受け取り、しげしげと観察した。

 赤黒く光るそれは、だいぶ年季が入っているのか、ところどころに錆が浮いている。

 銃身自体にも、大小様々な傷があり、確かに古いもののように見えた。

 しかし、それをひっくり返し、握りの底の部分を見ると、『J・F・J』と刻印があった。

「まさか!」

 ジャニィは、思わず口にしていた。

「なに? 急に! びっくりするじゃない」

 突然の大声に、アイソレシアが目を丸くしている。

「なあ、アイソレシア、このレインボーガン、姉さんのに、そっくりだ」

 その時、なぜかジャニィは消息の分からない姉が、もうこの世にはいないのかもしれないと感じた。

「えっ? そうなの? でも、これは正真正銘、お母さんの形見なのよ」

 アイソレシアは、そう言うと、ジャニィの手から、レインボーガンを取り上げた。

「あっ! それより、知ってる? 今日って、クレバスの日らしいのよ。オークでは、祝日みたい」

「ああ、オーロラのクレバスだろ? それは知ってるが、祝日だったのか?」

「そうらしいわ、クレバスが出来たことで、北雪の高台の西側が、ユガレスからオークの領土になった記念日みたいなのよ」

「へぇ、詳しいな」

「これも、こないだオーちゃんに聞いたことなんだけどね」

 アイソレシアは、パン屋の店先を見つめていた。

「だから、買っていかない? あれ」

 アイソレシアの指差した先には、『オーロラのクレバスケーキ』なる物が並んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。