3.行方
ジャニィはマスケスの後方にある王子の馬車を確認した。
先ほどと変わらず、アルバの遺体が倒れ気味に馬車に座っているだけで、やはり王子の居る様子はなかった。
「ところで、祭事長、王子はどこにいるのですか?」
ジャニィがマスケスに問いかけると、マスケスは一瞬だけ顔を曇らせた。
「うむ、王子ですな……、王子は『真王の証』を得る旅に出られましたぞ」
「えっ、こんな状況なのにですか?」ジャニィは驚いて聞き返した。
「こんな状況だからかもしれませんぞ。王子はこの病を憂いていましたからな。それにこの病が国中に広がることを恐れてましてな……、民のためにも一刻も早く王になると決意されておりましたぞ」
「王子がですか?」
ジャニィは子供の頃から知る王子の顔を思い浮かべた。
「そうですぞ、立派になられましたな」
マスケスは感慨深げだが、やはりジャニィには、あの王子の言葉とは思えなかった。
「そうですか……、で、その王子はどちらに向かわれましたか? 祭事長も知っての通り、私は王子の護衛を行わなければなりません」
ジャニィがそこまで言うと、マスケスは何かを思い出したような顔になった。
「そうでしたな、ジャンセン君。後をつける係でしたな。王子はこの先の十字路を北に向かわれましたぞ」
マスケスは後ろを向き街道の先を指さした。
「十字路? シュラバリーの屋敷へ向かう手前の十字路ですか?」ジャニィは確認した。
「そうですな。その十字路ですな」
「そうですか、ありがとうございます」
ジャニィが礼を言うと、マスケスがお願いがあると言ってきた。
「ジャンセン君、御者をお借りできませんかな?」
「御者を? なぜです?」
「ふむ、夜通し看病しておりましてな。このままだと手綱を握ったまま眠ってしまいそうでしてな……」
ジャニィには、珍しくマスケスが弱音を吐いているように見えた。
「ああ、そういうことですか。分かりました」
ジャニィは遠巻きに馬車の上からこちらを見ていた御者を呼びつけると、ことの経緯を説明した。
「では、祭事長、私は王子の後を追いますので、これで」
「ふむ、では王子をお願いしましたぞ」
「ええ、祭事長もお気をつけて」
ジャニィはそう言って馬車へ戻っていった。