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Journal Journey ~魔王罪として処刑する~  作者: 柚須 佳
第10章 王宮書記官の旅5 真暦1499年6月
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2.北区

 ジャニィとはぐれてしまったアイソレシアは不安の中にいた。

 少しは慣れてきているオボステム市だが、勝手知ったるとまでは程遠い。

 ジャニィの家の周辺はともかく、少し離れてしまえば、一つ角を曲がるだけで、途端に自分の居場所が分からなくなってしまう。

 村に比べると、建物がどれも似通っていることが原因なのではないか? と、心の片隅で冷静に分析している自分自身に少し驚きもしていた。

 そうね! 北区はオーク様式で建て直された家が多いみたいだよ。

 って、オーちゃんが言ってたわね。

 ……だから似通っているのかしら?

 アイソレシアは無意識に猫の手を握り、それをポンポンと顎先に当てていた。

 あっ! じゃあ、区が違う! フッカってユガレスの王様だったわね? ならば、ジャニィは市庁舎区に向かったのかしら?

 ぼんやりと、そんなことを考えていると、歩道の隅から、こちらをじっと見つめる中年の女性の姿があった。

 なにかしら? と思っていると、突然声を掛けられた。

「あれ? もしや、ジェニーちゃん?」

 ジェニーちゃん? 私が?

 あっ、いや、ジェニーって、ジャニィのお姉さん!

 えっ? でも……。

 そう思っている間にも、女性はツカツカと近寄ってきた。

 そして、アイソレシアの前にやってくると、ゆっくりと腰を折り、マジマジと顔を見つめてきた。


「あっ、あのぉ……」

 なんとなく気恥ずかしい気持ちになり、顔をそらしていた。

「あら、やだ、そうよね、ジェニーちゃんじゃないわよね」

 そう言うと、女性は、丸めていた背中を伸ばして、口元に手をやって笑いだした。

「ごめんなさいね、でも、そのベレー帽を被っている姿が、子供の頃のジェニーちゃんにそっくりだったもんでね。思わず声をかけちゃったのよ」

 どういうこと? 急にそんなことを言われても……。

 アイソレシアがモジモジとしていると、尚も女性は続けた。

「ほんと、ごめんなさいね。でも、凄く似てるわ! あっ! もしかして、ジェニーちゃんの娘さんとかかしら?」

「あっ、いえ……」

「違うのかい?」

「いや……親戚です。従姉妹なのよ」

 なんだか、ぜんぜん違うと言うのも気が引ける感じがして、思わず嘘をついてしまった。

「あら、そうなのかい! やっぱり!

あっ、じゃあ、ジャニィ坊ちゃまも知っているのかい?

懐かしいわねぇ、坊ちゃまは元気かい?

ヴォーアムの騎士団に入ったって聞いたことがあったけれど……」

 ジャニィ坊ちゃま?

 アイソレシアが不思議そうに首を傾げた。

「あらあら、そうよね。いきなり、こんな話をされても困るわよね! 実は私、10年、いや、もう少し前だったかしら、ジャンセンさんのお宅で、家政婦をしていたことがあったのよ。

ほら、あそこのご主人、ジェニスさんでしたっけ? あちこち出稼ぎやらで、留守にすることが多かったでしょ? だから、家事のお手伝いに、ってね……」

 アイソレシアの表情を見て、なにを勘違いしたのか、女性は身の上話を始めていた。


 女性の昔ばなし自体には、興味は湧かなかったが、ジャニィのことを、ジャニィ坊ちゃまと呼ぶことだけが気に掛かった。

 でも、そうなのか……この人はジャニィを知っているのね。それも、ずっと昔の、ジャニィがまだ子供だった頃から……。

 そうよね……。

 もうずいぶん長く一緒にいるように感じていたが、まだ半年程度なのだ。

 あの村から連れ出され、ジャニィとオーちゃんと一緒に、たくさんの世界を旅してきたと思っていたが、まだ、1年も経っていないのだ。

 アイソレシアにしてみれば、あの夏の夜の出来事は、遥か遠い昔のように感じられるが、世界の時間は、どうやら、もっとゆっくりと、流れているらしい。

 そして、その流れは、決して途切れることなく続いている。

 いくら、頭の片隅に追いやり、途切れた向こうの世界の出来事として処理しようとも、やはり、世界はそれを許してはくれない。

 父と母と、慎ましくも幸せに暮らしていた、あの村はもう存在しない。

 事実としては、廃村として残っているのだろうが、アイソレシアの思い出の中にある、あのダムイの村は、もうどこにもないのだ。

 そう思うと、アイソレシアは途端に寂しさを感じた。

 そして、抑えきれない悲しみに襲われた。

 目に涙を浮かべ、押し寄せる負の感情に耐えようとした。

「あらあら、どうしたのかい? 急にそんな顔されたら、おばちゃん困っちゃうよ。何か悪いことでも言ってしまったかい?」

 先ほどまで陽気に話をしていた女性が、屈み込み、アイソレシアの顔を覗き込んだ。

「そう言えば、まだ名前も聞いてなかったね、お嬢ちゃん、お名前は?」

 ああ、なんだか、この感じも、ジャニィと初めて会った時と似ているわ。

 こんな気持ちの中で、一方的に質問をされていたっけ。

「アイソレシア……私は、お兄ちゃんと、ジャニィと、はぐれてしまって……」

 そこまで言うと、アイソレシアは、ワンワンと泣き出してしまった。

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