13.旅立ち
東の空が紫色に染まり、夜が明けようとしていた。
マスケスは、馬車の荷台に積んであった『印刻の鎧』を取り出し、それをシンクフォイルに着させていた。
「マスケス、これは、どういうものだ?」
シンクフォイルは鎧の片口を触りながらマスケスに尋ねた。
「ふむ、ヴォーアム王家に伝わる鎧ですぞ。なんでも、身に着けていると、自分の死を予兆し、その幻を見せるという言い伝えがありましてな。本来は王として戦に出向く際、身に着けるものですな。しかし、今時は戦など少ないですからな。王が王子の身を案じて、この旅に持たせたものですな」
マスケスは、鎧を着るために一度外していたシンクフォイルの銅の剣を拾い上げていた。
「なるほど……、父が私の身を案じてくれているのか……、ありがたいことだな」
「そうですぞ、くれぐれもお体には、お気をつけなされ」
「ああ、大丈夫だ、この盾もあるからな!」
シンクフォイルは、そう言うと、左腕の『白虹の盾』を小さく展開させた。
「ほう……、やはり、その盾は……」
マスケスは、盾を中心に青白く光るベールを見つめていた。
「防御は完璧だな」
シンクフォイル少しだけ笑みを浮かべると、マスケスから銅の剣を受け取った。
そして、荒れ地を照らし出した朝日を見つめていた。
「さて、日も登り始めた。私はこのまま『真王の証』を探しに行くとしよう」
マスケスは歩き出すシンクフォイルを呼び留めた。
「王子、最後に一つ、お許しを頂きたいが、よろしいですかな?」
「なんだ?」シンクフォイルが振り向いた。
「シュラバリーのお屋敷ですが……いまだ病魔が漂っている可能性がありますな。よそ者が足を踏み入れてしまうと危険ですぞ。そこで、忍びないとは思いますが……、焼き払ってしまいたいが、いかがですかな?」
マスケスは朝日に輝きだした邸宅を遠目で見ていた。
シンクフォイルはマスケスにつられて邸宅の方を見ると、しばらくの間、物思いにふけるように見つめていた。
「ああ、構わない。燃やしてくれ。私の思い出と共に」
マスケスは、その表情と言動に少しの危うさを感じたが、今や王子となったシンクフォイルを信じるしかなかった。




