6.孤独
アルバが息を引き取ったのは、それから数分後の事だった。
体中から血を流し、苦痛に満ちた表情でカッと目を開き、絶叫に近い叫び越えを発すると、その咆哮はしばらく続いた後、ゆっくりと萎むように声は去っていった。そして、最後に大きく息を吐き出すと、そのまま静かになった。
マスケスとシンクフォイルは、その壮絶な死に様を成す術なく見続けることしかできなかった。
シンクフォイルはアルバの手を握ったまま、一緒に死んだのではないかと思うくらい、しばらくの間ピクリとも動かなかった。
虚ろな目はアルバの顔を見つめて、そこからボロボロと大粒の涙をこぼしていた。
マスケスはシンクフォイルを見つめながら罪悪感に囚われていた。
一日の内に身内を二人も亡くし、孤独となった男を哀れんでいた。
幼少の頃から知るこの男が、半島統一のために犠牲となることが、未来における平和への道と頭では理解していたが、やはり目の前の一人の人間の不幸を見過ごす、いや見て見ぬふりをすることが苦痛だった。
しかし、既にマスケス自身の手により物語は開始されたのであり、自身の手によって始めたのなら、自身の手でこの物語を完遂せねばならぬことを、今一度心に誓い、感情を捨ててでも実行しなくてはならないのだ。
シンクフォイルが孤独なのであれば、マスケス自身もまた世界のために孤独なのである。
胸に秘めるこの書物が、もはや真実であれ、虚偽であれ、そんなことはどうでもよい。
己の行いが後の世で悪と評されようが、自身の願う平和な世界が多少の犠牲の上に築かれようが、それが結果的に正義であるのなら、今この心に積もる汚物のような堆積が己を滅ぼす肥やしになろうが、それは自覚をもって受け入れるしかないことなのだ。
未来を信じるその希望が、手段により束縛されてはならないのだ。
この定められた束縛の世界を動かす車輪と成り得るのは、今、目の前にいるシンクフォイルだけなのだから……
「シンクフォイル殿」
マスケスは優しく声を掛けた。
「シンクフォイル殿、お気持ちは分かりますぞ、しかし、いつまでも手を握っているのは得策ではありませんぞ」
マスケスの言葉にシンクフォイルは反応しなかった。
「シンクフォイル殿!」
マスケスが語気を荒げると、やっとシンクフォイルはアルバの手を離した。
そして、のそりと振り向くとマスケスを見つめてポツリと言った。
「アルバが……、妹が……、死にました」