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Journal Journey ~魔王罪として処刑する~  作者: 柚須 佳
第九章 年輪の仮面(真歴一四九八年二月)
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4.病魔

 部屋の中は王宮の一室を思わせた。

 普段マスケスが王宮で寝室として使用している部屋と作りが似ていた。

 扉の正面やや右よりに暖炉があり、その横には窓がある。

 そして、暖炉の前には小さなテーブルと椅子があり、さらにその手前には天蓋付きの大きなベッドが置いてあった。ベッドの足元のスペースを挟んで扉から見て左側の壁は一面が書棚になっており、そこにはびっしりと本が置いてあった。また、ベッドの頭側にある壁の手前には、大きな肖像画が掛けてあった。

 マスケスが部屋に入ると、その肖像画の下で、ベッドへ向けて屈み込む男の姿があった。


「シンクフォイル殿、こちらにいらしたのですな」

 マスケスが屈み込む男をシンクフォイルと呼ぶと、その男はゆっくりと振り返った。

「マスケス先生? いついらしたのです?」

「今ですぞ、遅くなりましたな」

 マスケスはそう言いながら、シンクフォイルの傍へ近寄っていった。

 すると、シンクフォイルはすぐさまベッドへ視線を戻し「アルバが……」と、小さく呟くと、ベッドの上でぐったりとしている少女の手を握った。


 どうやら少女は重篤なようである。

 顔面は蒼白で頬はこけ、呼吸は荒く、額からは大粒の汗が噴き出している。そして、その汗にまみれて、目からは赤い涙を流していた。

 枕元には、その流した涙の後が血だまりとなり、どす黒く変色していた。

 その変色したどす黒いものは、枕元だけではなく、首元や胸元、腰から脚にかけてまで、まるで少女の体を縁取る様にシーツを汚していた。


 マスケスは体中から血を流し熱にうなされる少女を、シンクフォイルの肩越しに見つめていた。

「シンクフォイル殿、先日お渡しした薬は使いましたかな?」

 マスケスがシンクフォイルの背中に問うた。

「ええ、使いましたよ。しかし、ダメです!」

 シンクフォイルは立ち上がり、マスケスと向き合った。

「全然効きませんよ!」

 シンクフォイルは拳を握りしめ俯いた。

 マスケスはシンクフォイルの肩に手を置き、慰めるように言った。

「そんなことないですぞ。アルバ殿はきっと大丈夫ですぞ」

「そんな……、父やダウリカもアルバみたいに血を流して死んでいったんですよ! 同じですよ! 先生、アルバを、妹を助けてください……」

 そこまで言うと、シンクフォイルはマスケスのローブを掴んで泣き崩れた。

「御父上も……、ボーモンティア様もお亡くなりになったのですな」

 マスケスは肩を震わせているシンクフォイルを見ながら続けた。

「大丈夫ですぞ、アルバ殿はまだ生きておられる。薬を足しましょうな」

 マスケスはシンクフォイルを立ち上がらせると、ウェストのポーチから小瓶を一つ取り出すと、アルバの枕元へしゃがみ込んだ。

 間近で見るアルバの顔は死人の様で、激しく呼吸するたびに目元から赤いものが滲みだしていた。そして時折呻くような声を漏らしていた。

 マスケスがアルバの頭を抱えて少しだけ起こしてやると、血で染まる目を半分だけ開けた。

 すると「先生?」と苦しそうに小さく呟くのが聞こえた。

「アルバ殿、これを飲めば楽になりますぞ」

 マスケスは小瓶をアルバの口元へ運び、吐き出さないよう少しずつ飲ませてやった。

 傍らに立つシンクフォイルは、何もできない自分自身の不甲斐無さに唇を噛んでいた。

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