表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Journal Journey ~魔王罪として処刑する~  作者: 柚須 佳
第七章 印刻の鎧(真歴九九九年一月)
58/87

11.オーロラのクレバス

 ああ、私はこんなところで何をやっているのだ?

 部屋に一人残された私はこれまでの出来事を振り返っていた。

 真王の証も得られず、半島をふらつき、挙句にフッカ王を見失い。ジェニーまでこんな目に合わせて……。何も達成出来ぬまま日々だけが過ぎ去って行く。

 私は本当にヴォーアムを背負う王に成れるのだろうか?

 私はテーブルの上のボトルから、ウォッカを勢いよくグラスに注ぎ、一息に飲み干した。


 ――


 オーロラが発生する日まで、私とイソダムは、ジェニーの為に過ごした。

 イソダムが幻導力でジェニーの見ている世界を少しだけ調整し、パニックに陥らないようにしているらしいが、私にはそれがどういうものなのかは分からなかった。

 だが、次第にジェニーは持ち前の明るさと好奇心を取り戻し、ちょっとした疑問があると、私やイソダムにしつこく質問をした。それはやはり一〇歳の子供特有の行いにも見えたが、私には新聞社で、はしゃいでいたジェニーの顔と重なり少しの辛さを覚えた。


 また、ある時には、イソダムが喜んで私に報告してきたこともあった。

 子供は吸収が早い。それに疑うことを知らないから、幻導力を扱うには理想的だ。さらに大人の体力があるジェニーは難なくやってのける。これは期待ができますよ。


 そんなものなのだろうか?


 自分で選んだ記者の道を強制的に捨てさせられ、見知らぬ土地で子供に戻り、また一から別の道を歩みさせられる。これは幸福なことなのだろうか? 何も分からぬジェニーの顔は幸福そうに見えるが、将来、何かのきっかけで私のことを思い出した時はどう思うのだろうか? きっと激しい憎悪とともに恨みの念を抱くのだろう。そんなことも分かりつつ、私は一人で未来に逃げ帰る。この卑怯さを許してくれとは言わないが……、せめて私の顔くらいは覚えておいてもらいたい。そう思うのは私の我儘だろうか?


「イソダム!」

 私は庭先でジェニーと楽しそうに遊んでいるイソダムを呼んだ。

 イソダムは振り返り、じゃれるジェニーをなだめて私の元にやってきた。

「なんですか? 王子?」

「イソダム、これをジェニーに」

 私は白熊を撃ち抜いた真っ赤なジェニーのレインボーガンをイソダムに手渡した。

「これは?」

 イソダムは初めて見る未来の技術に目を丸くしている。

「レインボーガンだ。未来でジェニーが使っていたものだ。今のジェニーには危ないものだが、きっと大きく? いや精神的に大人に戻った時には必要になるだろう。だから、時が来たらおまえからジェニーに渡してやってくれ。それまでは、お前の研究対象にしても構わんが、決して壊すなよ」

 イソダムは興味津々でレインボーガンを眺めている。

「これは……、なるほど! 凄い技術ですね」

「だろうな。私の時代でも中々珍しいものだからな」

「武器としてもそうですが、原理が素晴らしい! これなら新しいエネルギーが考えられるかもしれません」

 イソダムの学者の目が輝いている。


「そうかもしれんな。それもジェニーからの贈り物だと思って大切にしろよ」

 私は最後に小さな願いを込めてそう言った。


 三日後、北雪の高台に今年初めてのオーロラが輝いた夜、大地に巨大なクレバスを刻んで、私は未来へ帰って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ