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Journal Journey ~魔王罪として処刑する~  作者: 柚須 佳
第7章 印刻の鎧 真暦1498年10月
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6.収穫祭の鶏の名を

 どうやら、心地の良いリズムを刻む、アンの寝息に誘われたのか、王子も寝入ってしまっていた。

 気が付けば、辺りは薄暗く、小屋の気温も下がりつつあった。

 どこか遠くで、犬が吠えたような気がした。

 いや、それほど遠くはないのか?

 王子がそう思っていると、鳴き声は、どんどんと近づいて来ているように感じた。

 それに伴い、砂地を歩く人の足音まで聞こえてきた。

 誰かが犬を散歩でもさせているのか?

 いや、そんな訳はない!

 王子は飛び起きると、傍らで眠るアンに声を掛けた。

「アン、起きろ!」

 大声を上げるわけにはいかない。

 王子は、アンの肩をゆすった。

「起きるんだ、アン!」

 アンは目元を擦りながら、「どうしました。まだ、暗いじゃないですか」と、寝ぼけたことを言っている。

「しっかりしろ、誰か近づいて来ている。昼間の漁師かもしれん」

 王子がそう言うと、アンの顔が引きつった。

「どっ、どうしましょう」

 アンが、あたふたとしている。

 そうこうしている間にも、足音が大きくなってくる。

 さらには、男たちの話声まで聞こえてきた。

「もう、ごごんしがないぞぉ」

「いや、でも、昼間見たときには……」

 声の主が、小屋の裏手から、入り口の方へ移動して来るのが分かる。

「そん時さぁ、たまたま、どごがさ、出ていたのがもしれんべ」

 この訛りのある話し方は!

 王子は、聞き覚えのある声に焦りを感じた。

 アンを抱えて、ここを出るには、既に遅すぎる。

 そこの窓からアンだけでも逃がすか?

 いや、そんな時間はもうない!

「アン、木箱の中に隠れろ!」

 王子が、そう言うと、アンは素早く跳ねた。

 と、同時に小屋の扉が開いた。


「ん? まぁた、おんめぇがぁ!」

 顔を覗かせた男は、やはり、先日の漁師だった。

 しかし、今回は、どうやら二人組らしい。

 王子を投げ飛ばした、あの怪力な老人の姿は、見当たらない。

 代わりに、痩せこけた馬面の若者が付き添っているようだ。

 で、あれば、いざとなったら、力づくでも……。

 と、王子は身構えた。

「いんやぁ、ならちょうどええ、人魚さぁ、どした? あれさぁ、オラたちのもんだ。返してけれ」

 ちっ、やはり、こいつらはアンを……。

「知らんな」

 王子は、白々しくも言い張った。

「馬鹿ゴゲ! そんな訳、あるがぁ! わりぃごたぁ言わねぇ、今なら許してやるけ、早くだせぇ」

「だから、知らんと言っているだろ? 聞こえなかったのか?」

 王子は、強気な姿勢を崩さなかった。

「強情なやつだぁ、なんだべ、そうまでする? おんめぇにさぁ関係ないごとだべ?」

「そうだな、お前らの蛮行を見なければ、こうやって対峙することもなかったろう」

「蛮行?」

「とぼけるな、なんで、アンにあんなことをした?」

「アン? なんだべ?」

 そう言うと、男たちは顔を見合わせていた。

「お前ら! 名前だ! 人魚の名前だよ! それすらも知らなかったのか?」

「名前? やっぱ、おんめぇさぁ馬鹿なのけ? いちいち魚に名前なんて付ける訳ねぇべ。

なんだべ? おんめぇさぁ、どごの生まれだ? その髪と目ぇの色がらすっと、ヴォーアム人け? んなら、おんめぇさぁ、ヴォーアムの収穫祭で食う鶏に、いちいち名前ばぁ、付けるべか?」

 何を言っている? 収穫祭の鶏だと? まさか! こいつらにとって、アンは、収穫祭の鶏と同等ということか? そんな! こいつらは、アンを食うとでもいうのか?

 バカな! ありえない!

 冷静な王子ですら、このときばかりは、正気ではいられなかった。

「ふざけるな! 蛮族が! やはり、お前たちは!」

 王子は、声を張り上げると、幻真の剣に手をかけた。そして、素早く抜刀すると、その勢いで、目の前の老人に切りかかった。

 ヒュンっと、剣が空気を裂き、その先端が老人の鼻っ面をかすめた。

「おっ、おんめぇ! いぎなり、なんばぁ! ジッ、ジライ、やっちまえ!」

 そう老人が声を上げると、背後に居た、ジライと言う名の馬面の男が、素早く躍り出た。

 そして、背負っていた銛を手に構えた。

 ユガレスの槍兵の構えか?

 王子が、そう思った瞬間、銛の刺突が迫ってきた。

 まずいぞ! 背後には、アンが!


 王子は、咄嗟に、その銛を体で受け止めた。

「うっ……」

 声すら出なかった。

 深々と胸に、銛が突き刺さっている。

 体の中が、燃えるように熱い……そして、息が……。

 王子が膝から崩れ落ちる。


 すると、馬面の男が、王子の顔に足をかけ、勢いよく銛を抜いた。


 血が噴き出した。

 ドバドバと噴き出す自身の血が、どこか噴水の様に思えておかしく見えた。

 床に倒れる寸前、木箱の隙間から、こちらを伺うアンと目が合った。

「あぁ、アン、すまない……」

 しかし、その声が、アンに届くことはなかった。


 ――


 その瞬間、アンの悲鳴が聞こえた。

 なんだ?

 振り向くと銛は、勢いよく、背後の木箱に突き刺さっていた。

 どういうことだ? 私は……銛に刺されて……。

 なぜ、避けている?

 困惑の中、王子は、自身の鎧が、青白く輝いていることに気が付いた。

 が、今は、それどころではない!

「アン!」

 王子が、振り返ると、木箱の縁から、血が滲みだしていた。

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