6.死とは
王子がイソダムの家の扉を開けて中へ入ろうとすると、突然大声で中からイソダムが叫んだ。
「王子! ダメです! 家の中へは入れないでください!」
「なぜだ?」王子はそっとジェニーの身体を床に置きながら聞き返した。
「そのジェニーさんの身体はちょうど冷凍保存されている状態です。中に入れてしまえば身体そのものも死んでしまいます」
イソダムが戸口までやって来てそう説明した。
「また分からないことを。冷凍保存だと? ちゃんと説明してくれ」
王子はそう言ってジェニーの身体を再び担ぎ上げた。
「まずは外へ行きましょう」そう言ってイソダムと王子は家の外へ出て行った。
王子はジェニーの身体をそっと雪の少ない軒先へ置いた。
「ここでいいか?」
「いいでしょう? 出来れば少し雪を掛けておいてください」
「雪を? 可哀想だろ?」王子が反対する。
「可哀想でも仕方ありません。保存ですよ。」イソダムが言う。
「しかし、足のところを怪我してるんだぞ。大丈夫なのか?」
王子はジェニーの太ももの部分を指して言った。
「まあ、これくらいなら大丈夫でしょう。生き返らせる時に肉体も少し遡るはずですから」
イソダムはあっさりとそう言って続けた。
「では、王子。今度は氷のドームを作るために氷の芯を集めて来てください」
「氷の芯だと? なんだ? それは?」
「氷の精霊の心臓みたいなもんですよ。これを五つ程集めて来てください」
「何に使うんだ?」
「ジェニーさんを生き返らせるには氷のドームが必要なのですよ。そこに光を集めて虹を作ります。その先は分かるでしょう?」イソダムはちらっと王子の方を見た。
「爆発か?」王子はやれやれと言う表情だ。
「で、それで本当にジェニーが生き返るのか?」王子が尋ねる。
「ええ、そもそもジェニーさんは死んでいる状態ですが、通常とは少し違います」
「と言うと?」王子が促す。
「ジェニーさんの肉体はここにありますが、本質はまだ未来にあります」
「本質? 魂みたいなものか?」
「そうですね。なので未来にあるジェニーさんの本質部分の時間を遡らせます。そうすれば元の身体と一致して生き返るでしょう」
「相変わらず分かりにくいな」王子が不平をもらす。
「そうですか? では、そもそも死とはなんでしょう?」イソダムがまた講義を始めた。
「考えたこともないな」王子が答える。
「死とは肉体時間の停止です。ですが本質である部分、王子の言うところの魂のようなものには時間の停止はありません。なので、すごく簡単に言ってしまえば魂の時間だけが過ぎ、肉体がついてこれなくなること。これが死となるのです。なのでジェニーさんの場合も基本的には死なのですが、本来とは逆で肉体だけが過去に戻ってしまった状態です」
「なるほどな。なんとなくは分かってきたが、お前の講義のおかげで、ずいぶん暗くなってきたぞ。氷の芯は明日でも大丈夫か?」
王子は冷え込み始めた空気を吸い込み少し咽せた。
「そうですね……、問題ありません。明日でも大丈夫でしょう」
イソダムはそう言うと王子を家の扉へ促した。