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Journal Journey ~魔王罪として処刑する~  作者: 柚須 佳
第一章 幻真の剣(真歴一四九八年八月)
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10.廃村

 夕暮れ、王子は川向こうの隣村に辿り着いた。

 水辺が近いせいか、遠くでカエルの鳴く声が聞こえる。

 王子は村を囲う柵を跨ぎ中へ入った。

 木造の家と家の間をすり抜け、井戸の前にやってきた。

 この井戸を中心に家が立ち並んでいることから、ここがこの村の中心部だとわかる。

 王子は辺りを見回したがやはり人影はなかった。

 先ほどから感じていたが、やはりここは廃村なのだろう。


 隣村の魔物、そんな物がいるのだろうか?

 王子がそう思うと、十メートルくらい先の暗がりに何か動くものが見えた。

 王子は注意深く近づいていった。


 井戸の位置からではよく見えなかったが、近づいてみれば、なんてことない大きめのカゴが風に揺れているだけだった。

「脅かすなよ」と恐怖心を払うべく毒づいた瞬間、カゴの中から何かが飛び出した。

 あまりの出来事に王子は尻餅をついた。

 が、素早く横に反転し、今自分を飛び越えって行った物体の方を見上げた。

 そこには、巨大な狼の獣が、あの青白い揺らめきを纏い二本足で立っていた。

 眼光は鋭く、腕はダランとおろしているが鋭い鉤爪が不気味に光っている。


 魔物だ。王子は立ち上がると、幻真の剣を抜き、魔物に向かって走り出した。

 魔物は後ずさりすると、方向を変え背中を向けた。

「逃すか!」王子は勢いに任せて跳ね上がると、そのまま幻真の剣を魔物の背中に振り下ろした。パァーンと弾けるように辺りが一瞬光ったかと思うと、目の前には動かなくなった魔物が横たわっていた。

 魔物の背中はぱっくりと割れ、赤い血がドクドクと流れ出ている。

 こいつが村に現れた魔物か?

 納屋の死体の傷を見る限り、この鉤爪でやられたように見えるが……。


 王子が魔物の死骸を見ていると、さらに井戸の横からこちらを見ている魔物がいることに気付いた。王子はハッとしたが、すぐに幻真の剣を握り締め構えをとった。

 何匹いるんだ? ここは廃村ではなく、魔物の村なのか?

 王子はそんな事を思いながら、井戸の横の魔物に近づいて行った。

 さっきの奴に比べれば、少し小さいな。

 王子は、間合いに入ると一気に切りかかった。

 魔物は左腕で剣を受け止めようとしたが、閃光とともに腕は切り落とされた。

 その瞬間、怯える表情を見せたかと思うと、魔物は一目散に逃げ出した。


「待てぇ」王子が魔物を追いかけ、半分腐りかけた廃屋の横までやって来ると、突然窓から飛び出してきた魔物に飛びつかれた。

 魔物に抱き付かれる格好でそのままゴロゴロと転がり、魔物に抑え込まれる形で止まった。

 鉤爪が飛んでくる。やられる。

 そう思った瞬間、王子は咄嗟に持っていた幻真の剣で顔を塞いだ。

 パァーンとまた閃光が走り、その衝撃で魔物が弾け飛んだ。

 後方へ飛ばされる魔物が光の中、一瞬だけ人のように見えたが、王子はすかさず立ち上がり、転がる魔物に突進した。

 幻真の剣が魔物の脇腹に突き刺さると、もう一度弾け、一瞬の閃光の後には魔物の死体があった。


 王子は荒い息を整えながら、辺りの様子を伺った。

 神経を研ぎ澄ませ、家々の暗がりに目を向けると、そこにはいくつかの光る目があった。

 襲ってはこないが、見られている。

 王子は恐怖心を押し殺して、光る目が宿る家々へと向かっていった。


 木の家、石造りの家、廃屋、納屋、至るところを調べ上げ、そこに住み着く狼人間どもを一匹、また一匹と殺して回った。


 そして、最後の魔物を倒した頃には、朝日が昇り始めていた。

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