あれから2ヶ月……
お久しぶりです。
とりあえず、新章開幕となります。
コーン、コーン、カーン、カーン、と木槌が振るわれる音が家の外から町中に響き渡り、それを目覚まし代わりとするようにしてオレは目を覚ます。
「んっ……、んんっ……。くぁああ……」
まず体を起こし、体を解すために軽く背伸びをして……今のオレの見た目とは似合わないような顎が外れそうなほど大きな欠伸をひとつしてから、ベッドから這い出し、窓に近づきカーテンを開ける。
太めの木の棒にわっかを通して作られたカーテンレールが走り、光を遮っていたカーテンが開け放たれ、外の景色が露わとなった。
視界には所謂ログハウスと呼ぶような建物が立ち並び、その先には簡易的な港と修理途中の船と広大な海が見えていた。
まあ簡易的、と言った港だがレンガ造り……とはいかないけれど、海水に強くなるように処理を施した硬めの木々で造られているため頑丈となっている。
「ふう……あれからずっと働きづめだったけど、ようやく形になったなぁ。……本当、長かったけどちょっとだけ短くも感じられるような2ヶ月だった」
そう呟きながら、オレはあの日捕まったテラっさんや捕らえられたエルフたちの奪還を行ったときに見た集落以上で町未満な壊された掘っ立て小屋のような家々を思い出す。
あのときの掘っ立て小屋は、何というか……3匹の子豚の長男が次男の材料で造ったような家ばかりだったよなぁ。やっぱり知識はあっても技能がなければ上手く行かないっていうことなんだろう。
……と思っていると、事件の解決をテラっさんたちに任せてしまったことを思い出し、かなり落ち込みたくなった。
というか、オレはあの日からしばらくはロリッ子状態だったんだよなぁ……。今は戻ってるけど。
「まあ……、あの時のことはみんなと話をして、しばらくは考えないようにして、条件をクリアした際に表示された告知に推奨されたように町造りに勤しもうってことにして、落ち込まないようにしてたんだよなぁ……」
項垂れていたオレだったが、あのときブシドーや他のみんなと話し合ったことを思い出していた。
同時に彼らの釈然としない上に悔しそうな表情も思い出される。
やっぱり、みんなも悔しかったんだよなぁ……。……そういえば、アニマステラって無事なんだよなあ?
――コン、コン。
……と思っていると、部屋の入り口がノックされる音で意識が現実へと引き戻された。
そして、ノックしてから少しだけ間をおいて、外の人物が声をかけてきた。その声はしばらくぶりに聞く声だった。
『エルサ、起きているか?』
「あれ、ブシドーか? 今目覚めたところだけど……、どうしたんだ? というか、街復興は?」
『そうか、ならば入っても良いだろうか? それも含めて話をしたい』
「ああ……、別に構わないけど?」
扉越しに掛けられた幼馴染の声にオレは返事を返すと、部屋の扉のノブが回され……ギィと音を立てながら扉が開かれ、ブシドーが中へと入ってきた。
そして、扉が閉められると……ブシドーは落ち着いたといわんばかりに、ふぅ……と息を吐き出した。
「久しぶりだな、元気だったか? とは言っても、2ヶ月だけどさ」
「ああ、拙者は元気だったぞ。さとるのほうは……元気そうだな。それに、姿もあの愛らしくも可愛らしく抱き締めたら甘い香りがしていたものから元に戻ったようだな? こんなことならば、もう少し抱き締めて映像を残して置くべきであった」
「あ、ああ……。というか、何だか精神を疑うような台詞を聞いたんだけど? あと、この場で本名はちょっと……」
「気にするな。それほど疲れているということだ」
「まあ、2ヶ月ずっと町造りをしてたら疲れるのも当たり前だな」
そう言いながら、ブシドーはベッドに座ると体を深く沈み込ませる。
そんなブシドーの様子を見ながら、オレは窓近くの壁に背を預けて返事を返す。
こんな会話をしていると気づくだろうが、全員が同じ集落で町造りをしていたわけではなくプレイヤーは個々に分かれてそれぞれの集落の町造りを行っていたのだ。
オレはこの港がある集落を担当し、他のプレイヤーたちはそれぞれが飛ばされた集落を担当していた。……イーゼ? 彼女は元々の住処だった泉を整えながら、時折オレのところに泊まりに来ていた。
今にして思うと、何だか犬が自分の物だとマーキングしているようにも見えたな。
だけど他のプレイヤーたちは忙しかったのか、この2ヶ月会うことは無かった。
だからだろう、久しぶりに見るブシドーの顔を……リアルと大差無い雪火の顔を見ていると、オレは不意に生前を思い出し、しんみりしたのは。
「っ!? ど、どうした、さと――エルサ!? 突然涙を流してっ!!」
「え、い、いや、別に……なんでもない。ただ、ちょっとだけ……久しぶりに会ったからか、お前の顔が懐かしくって……さ」
オレの視線に気づいたブシドーが心配そうに問いかけて来たため、しんみりした感情と流れる涙を拭うために袖で目元を軽く吹いてから頭を軽く振るう。
その言葉に、ブシドーは何を言っているのか理解したようで、一瞬何とも言えないような表情を浮かべたが、空気を読んでくれる幼馴染だと信じていると、すぐにそちらも気配を断ち切ってくれたようだった。
そんな彼女の対応に感謝しつつ、改めて彼女に訊ねることにした。
「それで、朝にいきなりやって来てどうしたんだ?」
「……エルサ。お前忘れたのか? ちゃんと約束していただろう?」
「? なにをだ? 約束??」
ジーッとオレを見るブシドーに対し、オレは首を傾げる。
というか、何かあったか? 約束約束……ううむ、わからん。
そうオレが思っていると、今度は呆れ返ったようなため息が漏れ出した。……というか、普通に呆れている。
「忘れているのなら、思い出してもらおうか……。今日でそれぞれ分かれて町造りを始めて2ヶ月だ。そして、もう少ししたら他のメンバーも集まって、集会場となっているこの一階で反省会と報告会を行うこととなっていただろう?」
「え…………あ、ああ~~。そうだったそうだった!」
思い出した。あのとき幼女になったことで手いっぱいだったけれど、みんなと話し合ってもう一度集まろうって決めていたんだった。
というか今日だったんだな……。ううん、スケジュール帳っぽい物あったら良いかも知れないな。
今度、時間があったらちゃんと作ってみようか。
っと、今はそんなことを考えている場合じゃなくて。
「分かった。それじゃあ、着替えて下に行けば良いか?」
「ああ、そうしてくれ。ではまた後でな」
「また後で」
言いたいことを言い終えたのか、ブシドーはベッドから立ち上がると部屋から出て行った。
それを見届けてから、オレも着替えを始め……5分と経たずに部屋から出るのだった。




