嫉妬の果て・4
お待たせしました。
そして、その考えは当たっていたといえば当たっていたようで、首と四肢が切り落とされた胴体からズズズッと顔が現れ始めた。
うわ……っ、気色悪……! 心からそう思いたくなるのも当たり前だろう。イメージで言うならば、ゴムシートに顔を押し付けたような状態がジャイアントアニマステラの背中の中心に現れたのだから。
『ウアアアア……、許セマセンワァ……。許セマセンワァ……! オノレ、オノレ、エルササン……! 貴女ヲ殺スマデワタクシノ怒リハ消エマセンワァ……!』
「うわぁ……、正直言って見習いたくないぞこの嫉妬っぷりは……」
血走った瞳でオレを睨みつけるアニマステラ本体だと思われる顔に頬を引き攣らせながら呟く。
そして、その怒りが原動力になっていますといわんばかりに、切り落とされた手足と首の先がウゾウゾと再生し始めた。
……が、突如ビクッとアニマステラの顔が引くついた。……何だ?
『アッ、ガッ……!? ナ、何デスノ……? コレ、ハ……? ワタクシガ、ワタクシデハナクナル……? 消エ、ル……?! ジ、ジ・ゴールド! アナ、タ、ワタクシニ、何ヲ……!!?』
「何が、起きてるんだ……?」
何が起きているのかはまったくわからない。だが、何かやばいことがアニマステラの中で起きつつある。それだけは理解出来ていた。
そして、その鍵を握っているであろうジ・ゴールドへとオレたちは視線を移す。
すると……ジ・ゴールドは、笑っていた。それもとても醜悪な笑みを浮かべてだ。
「うしゃしゃ、お前さんが言ったんじゃろう? エルサを倒したい、何が何でも倒したいってのう。じゃから、無数のモンスターの肉体と魂を混ぜ合わした物を素材として提供してやった。じゃから、単にお前さんがそれらを御せなくなったということじゃろ?」
『ナ、ナ……!? ジ、ジ・ゴールドォ! 聞イテイマセンワ! ワタクシ、ソンナコト一度モ聞イテイマセンワァ!!』
「そうじゃったかのう? 歳のせいで忘れっぽくなってしまってたようじゃのぉ……うっしゃっしゃ!」
絶対に言う気がなかったな、このジジイ。そんな言葉がここにいるメンバー全員の心の中に芽生えたであろう光景だった。
そうこうしている間に、アニマステラの体に何かが起き始めたらしく、ビキバキという音が響き始めた。
『アギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!! ドウシテ、ドウシテワタクシガ、コンナ目ニ遭ウンデスノ? 許セマセンワ……。ソレモコレモ、全テ……ジ・ゴールド、ソシテ……エルササンノセイデスワ……! 許セマセンワ、許セマセンワ、許セマセンワ、許セマセンワ、許セマセンワ、許セマセンワ、許セマセンワ、許セマセンワ、許セマセンワ、許セマセンワ、許セマセンワアアアアアアアアアアアアアアア!!』
骨が砕け、再生し、肉が裂け、繋ぎ合わさる音が響き、アニマステラの体が変化していくのをオレたちは呆然と見ているのだが、歪み始めている顔からは怨嗟の声が洩れ続けていて恐怖しか感じない。
そして、その怨嗟が混ざり合うようにして、アニマステラの姿は段々と変化していく。……だがそれは……。
「これは……人間じゃ、なくなってる……?」
「おいおい、マジィぞこれ……魂にも直接ダメージ逝ってるだろ?!」
「しゅうあくな姿、なのだ……」
「エルサ、これは……不味くないのか?」
口々にアニマステラの変容に対する感想を口にしているのだが、その表情は痛々しいものを見るようなものだ。
……当然、オレもそんな表情をしている一人で、手を出そうとはしなかった。
そして、途中で攻撃する機会を見失った結果……アニマステラは完全なる変容を遂げた。
その姿は、様々な動物を繋ぎ合わせたような2メートルほどの姿だった。
頭はオオカミ、胴体は腕を含めてクマ、下半身は多分片方がウサギでもう片方がシカだろう。そして……頭の左右からはシカの角が生えていた。
何というか、不揃いなモンスターにしか見えない。
「何というか……鵺といった感じですねぇ……」
「ああ、キマイラって感じだな……」
樹之命さんとサンフラワーさんの二人が変わり果てたその姿に、自分たちの記憶にあるものを呟く。
ぬえ、というのにはあまり聞き覚えはないけれど、キマイラだったかはゲームで聞いた覚えがある。確か、色んなモンスターがチャンポンになってるモンスターだったはずだ。
けどアレは言いえて妙だな。そう思いながら、アニマステラだったものを見ていると……赤く濁った瞳がオレへと向けられた。
「っ!! 何か、ヤバイ……くっ!?」
ゾッとする寒気を覚えた瞬間、オレは手に持った刀を前へと突き出した。
瞬間――アニマステラだったそれは、オレに向けて体当たりをしてきた。
このままだとシカの角がオレの体を突き刺すことになってしまっていたが、突き出された刀によって角の突き刺しへの対処は出来た。
『――GURRRROOOOOOOOOOOOOOO!! 死ぃネエエエエエエエエエエエエエエエエ!!』
「しゃ、喋ったっ!? もしかして、会話が出来るのかっ!? ――っくぅ!」
オオカミの口から唸り声とともに怨みに満ちた声が洩れ、オレはギョッとしつつももしかしてと思い始める。だが、声をかける前に体当たりにオレの体が耐え切れず吹き飛ばされてしまった。
ダメージは無い、けれどこの吹き飛ばしは厄介だ。そう思いながら、再び刀を構えようとする……が。
――パキンッ!
そんな音を立てながら、刀の刀身がポキリと折れると完全に修理出来なくなったことを知らせるようにオレの手の中から柄ごと刀は光の粒となって消えて行った。
「な……!? 耐久力はまだあったはずなのに、何でっ!?」
突然のことに驚き、焦るような声を漏らす。……が、もしかしてという可能性にオレは気づく。
……まさか、あのアニマステラだったモノには……武器破壊属性が付いているっていうのか?!
そんな嫌な予感を覚えつつ、もう一度試すことを考えてインベントリからナイフを取り出した。
大量のモンスターを蹴散らし、壊れたら何度も新しいのを取り出して使い続けている何の変哲もない鉄のナイフだ。
それを片手で握り締めるとオレは野球の投擲をするように、一気にアニマステラだったモノ……まあ、アニマキメラで良いか。それへと投げつけた!
轟っ! と風を切る音と共にナイフはアニマキメラ目掛けて飛んでいく。その高速で向かってくるナイフにアニマキメラの体がビクリと驚きで跳ねるのが見えたが気のせいだろう。
――だがその瞬間、オレは見た。
グルンとオオカミの頭が動き、向かってくるナイフへとシカの角がぶつかり合った瞬間――角に淡い光が纏いつくのを。
そして、角とぶつかり合ったナイフは光の粒子となって消えて行った。
「……次だ」
確証は得られない。そう考えながら、驚きを隠しつつ冷静を保ち……今度は2本のナイフをインベントリから取り出すと力いっぱい投げつけた。
1本はギャリリッという音を立てながら角とぶつかり合い消滅したが、もう1本は左腕にぶつかり……ボバッという破裂音と共に突き抜けていった。
って、力いっぱい投げたらそうなるな……! そう綺麗に消失した左腕を驚きながら見ていたのだが、ズズズッとどこぞの緑色の触角生えた宇宙人な感じに左腕が生えてきた。
『GA――――ギィやああああああああああAAAAAAAAA!!』
「武器破壊は角についてるってことか……けど、再生スピードはついさっき戦ったときよりも上、みたいだな…………」
「エルサ、どうするのだ?」
考察しながら、アニマキメラを見ていたオレだったが、ジッとしすぎていて不安と思ったのかブシドーが近づき声をかけてきた。
「どうするべきか……。魔法ぶつけても何か再生しそうだし、というか効き目無さそうだし……下手な武器使ったら簡単に壊されそうだし……」
「ああ、見ていてわかったが、アレには武器破壊と再生能力があるようだな?」
ブシドーの言葉にオレはコクリと首を振り、アニマキメラを見る。
痛みに慣れていないのか、生え変わった左腕を押さえているのだが……怒り狂った瞳でこちらを見続けている。
これは、どうやって対処するべきか……。
そう悩んでいると……オレたちとは違う方向から緑色の矢が放たれた。
放たれた矢はアニマキメラに突き刺さったのだが、たいしたダメージは与えられなかったようだった。
だが、ターゲットとするには十分だった。
「なっ!? イ、イーゼ!?」
「何をしているのだ! ボーっとしてたらお前が倒されるのだ!」
「そ、そういう問題じゃない! 不用意に攻撃なんてしたら――!」
『GOOOOOOOOOOOAAAAAAAAA――生意気ナエルフメェエエエエエエエエ!!』
ギロリと血走った瞳がオレからイーゼに移り変わると、アニマキメラは彼女に向けて突進を開始した!
それと同時に、オレもイーゼへと駆け出す。
速く、早く! 少しでも速く! そう心から叫びながら駆けるが、オレが手を伸ばした瞬間――彼女の体が宙を舞った。
「イ、イーーゼェェェェェェェェ!!」




