嫉妬の果て・3
お待たせしました。
一斉にオレたちに見られていることに気づいたブシドーは恥かしいのか頬を染めながら、オレたちを見回す。
だが、いったい自分が何かをしたのか? それが分からず首を傾げつつ……彼女はオレたちに向けて口を開いた。
「な、なんだ……? いったいどうしたというんだ?」
「あ、いや……。ブシドー、だよな……?」
「お前という奴は……、拙者がブシドーじゃなければなんだというんだ?! っと、大丈夫だったか?」
「あ、ああ……。あり、がとう……」
オレの言葉に吠えるブシドーだったが、すぐに自分が抱いているサンフラワーさんのことを思い出したのか彼女を下ろした。
サンフラワーさんはブシドーの髪色を凝視しつつも、何時もの口汚いような「サンキュー」や「あんがとよ!」などではなく頬を赤らめながら礼を言っている……あるぇ?
サンフラワーさんの彼女らしくない(?)行動にギョッとしながらも、オレはブシドーが本当にブシドーなのかと疑った理由を口にした。
「や……いや、その髪……」
「髪? 拙者の髪がいったいどうかし…………ぬ、ぬをっ!? せ、拙者の髪が銀色になっているっ!? な、何故だ!!」
「いや、オレに聞かれても分からないって」
目を見開き驚いている彼女を見ながら、オレはそう口にする。……のだが、心の何処かでもしかしたらという可能性が浮かんでいた。
その可能性、それは……あのとき、ブシドーを助けるために行った行動だ。
オレのこの体は一応半神らしい、……そんな血を受け入れたら何が起きても可笑しくない。
……だったら、ニィナは――同じように血を飲んだニィナは変わらないのだろうか? そんな疑問を抱いたのだが、何か条件があるのかも知れない。
そういうことにする。というか、今は悩んでる暇はないだろう。
「――っ!! 全員、散開!!」
気配を感じ、上を見るとプルプルと怒りになのか分からないけれど体を震わせたジャイアントアニマステラが拳を上げているのに気づいた。
なので、声を上げると即座に反応してくれたのか、彼女たちがばらけてその場から逃げ出していく。そしてその直後にジャイアントアニマステラの拳がオレたちが立っていた場所に打ち込まれた。
『アアモウ! マタ、邪魔ガ入リマシタワ! ケド、ワタクシガ全テヲ壊スコトニハカワリアリマセン! サア、覚悟シテクダサイナ!!』
「く――っ!! こいつ、さっきよりも反応が速くなってる!? もしかしなくても、あの巨体に慣れてきたってことなのかっ!?」
『ソノ通リデスワ! ワタクシノ力ヲ思ウ存分、味ワイナサイナ!!』
オレの予想が当たっているらしく、ジャイアントアニマステラはドスドスと地面に拳を打ちつけていく……って、主にオレが狙われてるんですけどーーっ!?
いや、怨みの対象がオレならオレを狙うのは分かる。……だったら、オレが引きつけておけば良いってことか?
そのほうが周りが狙われる心配はないだろうし。
降り注ぐジャイアントアニマステラの拳をかわしながら、オレはそう考える。
……が、回避することとは別のことを考えていたからだろう。拳を回避したと同時に放たれたもう片方の拳への対処に遅れてしまった。
「しま――っ!?」
『死ニサラセデスワーーーーッ!!』
轟ッと力の篭った拳がオレ目掛けて落ちていくのを見る。……まあ、一撃喰らったとしても酷いことにはならないだろう。
けど、痛いのは変わりないんだろうなぁ。そう思いながら、オレは痛みを覚悟しながら両手をクロスさせて少しでも衝撃を吸収させる。
「エルサ、危ないっ!」
「っ! ブ、ブシドーっ!?」
『ギャアアアアアアッ!? イ、痛イデスワーーーーッ!!』
だがそんな決意とは裏腹に、オレの危機を感じたのかブシドーが振り下ろされた拳の手首へと飛び掛ると同時に黒刀を振り下ろした。
ブォンという空を斬る音が耳に届き、直後地面に向かって振り下ろされようとしていた腕がブシドーが黒刀を走らせた辺りからずれていくのが見えた。
けれど斬りおとすことは出来なかった。それに気づいたブシドーはオレに向けて叫んだ。
「蹴れ! エルサッ!!」
「っ――わかった!! てりゃあっ!!」
ブシドーの考えを即座に理解し、オレはずれ始めつつもなおも近づいてくる拳を見据えると――軽くジャンプするとともにローリングソバットを打ち込んだ!
足の裏にドゴッという生肉を蹴りつけるような感触を覚え、生理的にゾワッとする感覚を覚えるが何とか堪えつつ蹴りを打ち込む。
その衝撃とともに、ブチブチという千切れる音が耳に届いた瞬間――ジャイアントアニマステラの悲鳴とともにオレを狙おうとしていた腕は千切れて何処かへと飛んで行った。
『ギャアアアアアアアアアアッ!! 腕ガァ! ワタクシノ腕ガァァァァァ!!』
「うわ……、本当に現在のステータスを見るのが怖いな……。って、もう再生しようとしてるのかよ!」
雄叫びとともに腕を押さえるジャイアントアニマステラだったが、斬られ蹴り落とされた腕の先がアメーバという感じに伸び始めて再生していくのが見え、ウンザリする。
というか、どう対処するべきか……? 一番は相手の心を折るべきなんだろうけど、何か無茶苦茶嫉妬しているからか簡単には折れないだろうな……。
「どうするべきか……」
「何を悩んでいるんだ、さとる?」
悩んでると何時の間にかオレの近くへと移動していたブシドーが声をかけてくる。
っと言うか……。
「あ、ブシドーか。って、ここで本名は……」
「聞こえないよう小さく言ってるから大丈夫だろう? それでどうしたんだ?」
……結構心配してたみたいだし、少しだけ本名を呼ぶのは良いか。兎に角、今はアレを止めるのが先だ。
そう考えながら、オレは腕を再生させているジャイアントアニマステラを見る。
「今斬り落とした腕、再生しているだろ? 再生し終えるかその前に襲ってきそうだから、どうするかって考えてるんだ」
「そうか……。だったら、再生する間も無く切り刻めば良いだろう?」
「……物騒なことを口にしているけど、それが出来ないから言ってるんだよ」
本当は出来るかも知れないけど、再生を上回れたらこちらが不利になってしまう。だからそう口にする。
「なるほど……。けど、一人だったら……ではないのか?」
「ブシドー?」
「さと……エルサ、お前も短いながらも武者小路流を学んでいたのだから、『神楽』は知ってるだろう?」
「『神楽』……っていうと、共同で行うあの技……?」
ブシドーの言葉にオレが尋ねると、そうだと言わんばかりに彼女は首を振る。
『神楽』、その名前は一応聞いたことはあるし、行っているのも新春行事で見たことはある。……あるのだが、やれるかと聞かれたら不安しかない。
何故なら、『神楽』という技は二人の息が合わさって行われる武者小路流の奥義ではないけれど、実力が伴っていないと互いが互いを斬ってしまうという危険な技だった。
「けど、出来るのか? それに、効果があるようには思えないんだけど……」
「出来る。それに再生を上回れるならば、それ以上の速度で切り刻めば良いんだ!」
「…………分かった。けど、オレの攻撃に当たるなよ? オレ自身も気をつけるつもりだけど、当たったら洒落にならないからな?」
ブシドーの目が燃えてるような錯覚に陥ったオレだったが、同時にこれは却下するのは難しいという結論に至った。
だから、折れることにし……注意を口にする。
その言葉にブシドーは……。
「心配するな。さとる、お前は拙者を傷つけることは無い。そう、信じているからな」
「……ブシドー……」
自信満々に微笑む彼女を見ながら、オレは彼女を一度だけ抱き締める。
突然のことで驚いたのか、ブシドーの体がビクリと跳ねるのを感じたが……繋がった状態で内緒相談を開始する。
『雪火、本当に……気をつけてくれよ?』
『っ、さ、さと……!? わかった。気をつけよう。……だけど、それ以上に……お前となら『神楽』が舞える。拙者はそう思えるんだ』
顔を赤くしていた雪火だったが、すぐに精神を整えたのか真面目な顔でこちらを向くと……確信したようにこちらを見た。
……その表情を見ていると、本当に出来るかも知れない。そんな思いがムクムクと湧き上がるのを感じる。
その感情を滾らせたまま、オレはインベントリから鋼鉄製の刀を取り出すとブシドーへと頷くと……二人同時に駆け出した!
『ナンデスノ、ナンデスノォ! タカガ一人増エタカラトイッテ、何カ出来ル訳デハナイデショウ!? トットト、死ニナサイナ!!』
オレたちが駆け出すと同時にようやく腕の再生が完了したのか、ジャイアントアニマステラはオレたち目掛けて拳だけでなく足も使って踏み潰し始めようとしてきた。
駄々っ子のような暴れっぷりを避けながら、オレたちは左右に分かれると一気にジャイアントアニマステラへと距離を詰めた。
「「はあああああっ!!」」
オレとブシドー、二人の声が合わさると同時に地面を踏み締めると同時に鞘に収められた刀を一気に抜き放った。
抜き放たれた刀は地団駄を踏んでいた足首を走り抜けた。
直後――、腐った肉の臭いを撒き散らしながら足首がずれる。……だが、オレのほうの足首は切断した先から腐った肉のような泥を撒き散らしながら斬れたのだが、ブシドーのほうは最後まで斬れなかったようだ。
『アギャアアアアアアアアアッ!!』
「くそっ、まだ足りないか……!」
「ブシドーッ!」
「気にするなっ! 今度こそは上手くやってみせる!!」
心配するオレを他所にブシドーは、オレの期待に応えてみせるとでも言うようにそう口にすると、バランスを崩し倒れたジャイアントアニマステラへと駆ける。
そんな彼女の様子を見ながら、信じるしかない! と考えると少し遅れて駆け出した。
駆け出し、二つの刀の軌跡が交互に煌きながら、バランスを崩したジャイアントアニマステラの体を斬っていく。
斬られる度にジャイアントアニマステラから悲鳴が洩れるが、今は気にしない。
腿、腰、胴、肩へと駆けながら、回りながら……剣舞をするように刀を振り回し、切り裂いていく――そして、倒れた体を起き上がらせようとするジャイアントアニマステラの両腕を肩の辺りから斬りおとすと、オレとブシドーは首へと狙いを定めた。
「合わせるぞ、ブシドー!」
「ああ、エルサ!」
「「はああああああああっ!!」」
腹の底から声を上げ、力を込めるとオレとブシドーは同時に首へと刀を振るった。
ズドッと激しくも鈍い音を立てながらジャイアントアニマステラの首は刎ねられ、首があった箇所から血の代わりに腐った肉の臭いがする泥が撒き散らされた。
……鼻を摘みたいのを押さえながらそれを見ていると、再生する気配は無いように感じた。
……が、油断は禁物。そう考えながらオレはそれをジッと見ていた。




