散り散りのメンバー・4
お待たせしました。
一方そのころ、無事な二組は……。
「ホゥッワッチャアアアアアアア~~~~~~ッ!! アチャチャチャチャチャチャチャーーッ!!」
四人掛けのテーブルの一席に座る我の視線の先では、チャイナドレスを纏い紫色の髪を団子状に纏めた女性アバターの嵐牙殿が素っ頓狂な掛け声とともに調理場で料理を行っていた。
普通ならば彼女のその奇声にドン引きしそうになるだろうが、その素っ頓狂な奇声を聞かないようにしていると普通に料理を行っているだけである。
……そんな彼女は我が見ていたことに気づいていたのだろう。人懐っこいような笑みを浮かべながら、一度こちらを見てきた。
「流星サン、ちょっと待つヨロシ。もうすぐ晩御飯が出来るカラ!」
「……分かった」
彼女に頷きながら、我はどっかと座ったまま視線を彼女から外すことにした。
幾ら本物の体ではなくアバターとはいえ、女性の体をマジマジ見続けるというのもやはり失礼だからな。
そう思いながら、我は先程彼女と合流したことを思い出す。
――ゴメン、ワタシ……勝てなくて、集落見捨てて……逃げてきたヨ。けど、手伝わせて欲しいヨ……。
突然現れた彼女は、今にも泣きそうな表情で彼女は我にそう言って手伝いをさせて欲しいと言ってきた。
そのとき、我自身も数多くのモンスターを相手にしているものだから渡りに船と思いながら頼ませてもらった。
……けれど、彼女はいったい何を考えているのだろうか?
生憎と我は疎いため、そういう女心には詳しくはない。
だから何も言わずに我らはモンスターを蹴散らしながら、減った体力や魔力を回復させるために休める場所を集落内で探した。
その結果、どうやらホームであろうと思われる場所へと入ると……案の定ホームだったらしく、モンスターたちは境界の外で怨めしそうに我らを睨み付けていた。
そんなモンスターたちを見ながら、ホーム内に建てられている家の中に入ったのだが、中には誰も居なかった。
多分だが、モンスターたちが押し寄せる前にエルフたちは捕まり、そのときこの家で暮らしていたエルフもここには居なかったのだろう。……その結果、捕獲されたのだ。
「他の集落はどうなっているのだろうか……?」
ポツリと嵐牙殿に聞こえないように呟く我は先程表示された告知を思い出す。
《――告知。プレイヤー『ブシドー』がイーゴの集落を開放しました。》
《――告知。エルサ一団がイーナの集落を開放しました。》
ブシドー殿といえば、あの時代劇に出てきそうな雰囲気をした少女侍だったはず。
そして、エルサというと……海に投げ出された公式ではAIが動かしていると紹介され、実際のところは分からないあの少女だ。
確かあの森宮の娘のアバター……いや、樹之命殿は側に憑いてるであろう下級神と会話していたのだろうが、あの少女の中身は人の魂と言っていた。……ということは、我らの世界の人間であることに間違いはないだろう。
……機会があったら今度聞いてみたいものだな。
「はい、お待ちヨッ!」
「ぬ?」
嵐牙殿の声とともにコトンという皿が置かれる音が響き、考えが中断させられる。
どうやら時間が過ぎていたらしい。そう思いながら、視線をテーブルに向けると……餃子らしき料理が皿に置かれていた。
……いや、どう見ても餃子だな。
「これは……」
「疲れたときは、餃子が一番! 出来立て熱々で、脂がとってもジューシー! 味付けは塩胡椒だけど、チャンとしているからどうぞどうぞ、食べるヨロシよ!」
「う、うむ……。では、いただこうか……」
有無を言わさず早く食え。そんなオーラを纏わせながら、我に餃子を勧める。
……仕方ない。勧めていることだから、食べることにしよう。
ちなみにアバター『流星』を操作……ではないな、中に入っているが正しいか。
中に入っている我、ゴードン=ライオネルは日本滞在暦は10年以上あるためハシの使い方も普通に出来る。
なので我は置かれた箸を掴むと、器用に束ねて焼かれた餃子を1つ解し……それを摘むと口へと運ぶ。
カリモチッとした皮の食感とジュワッと広がる肉汁とその味に思わず……。
「むっ!? これは……美味いではないか!」
「当然ネ! ワタシ、自分の母国の料理は得意ヨ!!」
餃子を口に入れて驚く我に対し、嵐牙殿は自信満々にそう口にする。
そうか……、ならばキチンと味わおう。
改めて餃子を箸で掴むと味わうように口へと運ぶ。
フライパンで焼かれた面はサックリとした食感で、蒸された上部はモッチリとした食感の皮。
中の肉は倒したモンスターの中に居た兎と鹿、そして狼だろうか?
噛み締める度にジュワリと口の中に野性味溢れる脂が広がる。だが、嫌いな味ではない。
それに、インベントリの中に持っていたであろう玉葱が混ぜられているからか、濃すぎる脂を中和してくれている。
味付けは塩胡椒だけ、そう言ってはいたのだが逆にそれが素材の味を引き立て、口の中を餃子一色へと染め上げていく。
この味、これには……。
「……ビールと、ご飯が欲しい味わいだな」
「うん、その気持ち分かるヨ! はぁ……、本当、おこめが見つからないかなぁ……? 炒飯も作りたいヨー」
嵐牙殿が頷き、すぐに項垂れるようにしてこめを夢見る。
そんな彼女の様子を見ながら、我は餃子を食べ勧める。……が、やはり餃子だけでは物足りないのは事実だ。
そう思っていると、彼女もそれが分かっているようでスープを出してきた。
「はい、焼き餃子だけだと物足りないヨネ? だから、水餃子も作ったヨ!」
「…………そうか」
これは、餃子が続くのだろう。
そう思いながら、我は食事を食べ進めることにした……。
◆
――――― 雪火サイド ―――――
「はぁ……はぁ……はぁ…………。……あ、ああ~~……疲れたー……」
夕日が落ちかけようとしている中で、拙者は最後の一振りとともに迫り来るモンスターの体を両断した。
モンスターは雄叫びを上げる間も無く、その命を散らし素材へと変化した。
すると、それを皮切りにするかのように拙者の瞳には集落の端から何か透明な膜が広がってくるのが見えた。
その膜が集落全体を覆いきった瞬間――。
《――告知。イーゴの集落が開放されました!》
《――告知。イーゴの集落は集落全体がホームになりました!》
こんな告知が拙者の前へと表示された。
ということは、あの集落を覆っていたのはホームの境界だったのか?
そう思っていると、更に半透明のパネルが拙者の前へと表示される。
そこには……。
~~~~~~~~~~~
称号:一騎当千――を獲得しました。
称号:魔物殺戮者――を獲得しました。
~~~~~~~~~~~
「な、なな、なんだこれはぁっ!?」
何というか、色々と酷すぎる称号名だと思う。
心の底から思っていると、今度は長文が一気に表示された。
――~~――~~――~~――~~
モンスターを全滅させたので、自動回収機能が発動します。
・ルーツフオオカミの毛皮 × 30
・ルーツフオオカミの牙 × 20
・ルーツフモリノクマサンの毛皮 × 20
・ルーツフモリノクマサンの右手 × 5
・ルーツフウサギの毛皮 × 6
・ルーツフウサギの前脚 × 2
・ルーツフジカの毛皮 × 7
・ルーツフジカの角 × 4
――~~――~~――~~――~~
他にも色々と出ているが、慌てながら拙者はその表示を閉じる。
いったい、これは何なのだ?!
初めて表示された物に、驚きが隠せないのだが……それよりも疑問に思うことがあった。
それは……。
「拙者の体……いや、ブシドーの体に何が起きているのだ? あれだけのモンスターを対峙したというのに疲れると同時に力が湧き上がってきたではないか……」
小さく呟きながら、拙者は先程の戦いを思い出すのだが……あの感覚は異常だったと思う。
何故ならば、並み居る敵を握り締めていた黒刀・禍津日で一刀二刀で切り伏せて行き、最終的には舞うように一刀につき一体を倒しながら駆けて行った。
今までの拙者ならば、きっと道半ばで倒れてしまったかも知れない。だからそれほどまでにステータスが上昇したことを拙者は自覚する。自覚するのだが……。
「いったい何が原因なのだ? この禍津日の力、というわけではないだろう。幾ら邪神が寄越して来たからと言って、ズルはないはずだ」
では一体何故?
疑問に思う拙者の頭の中に、不意にあのとき邪神が見せた拙者とか、かけ……えるさとの、出来事が過ぎるが……あれは違うはず。違うはずだ……!
そのときの行為を思い出し、拙者の顔が熱くなるのを感じ……頭をブンブンと振るう。
「と、兎に角……! これからどうするべきかを考えるのが先だ……! 後は、体力の回復も……だな」
呟くと、拙者はインベントリの中からクッキーを取り出すとそれを食べ始める。
……肉などを食べるのが一番かも知れないけれど、甘い物を食べたい気分だったのでこれで良いと思う。
事実、サクサクとした食感とともに口の中に広がる甘味は拙者の体を解して行く。
それを口にしながら、何時までも外に居るべきではないと考え……この集落の長の家だと思われる家の中へと入らせてもらった。
中は争ったからか、荒れてはいたが……幸い壊れた様子は無かった。
だから拙者は、心の中で謝罪をしながらこの家を一晩の宿とさせてもらうことにした。
とりあえずは……、誰かに会うことが出来れば良いのだが……会うことが出来るだろうか?
「いや、会おう。会うべきだ! 会えないなんて思うんじゃない!!」
少し不安を抱き始めた自身を鼓舞するように、大きな声でそう叫ぶと気合を入れる。
そして、翌日のための英気を養うために、一通り軽い食事を取り終えてからこの場に居ない長に謝罪し……ベッドで眠りにつくのだった。
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