今度こそ相談を
おまたせしました。
……えーっと、なにこれ? いったいどうしたわけなんだ?
唖然としながら、オレは目の前で謝るイーゼを見る。
そんなオレの様子に気づいていないのか、イーゼは再び頭を下げる。
「我が……、我が間違っていたのだ。だから……ごめんなさい、なのだっ!」
「ハッ!? ちょ、ちょっと待って、ちょっと待って! イ、イーゼ! いったい、どうしたんだよ?!」
もう一度頭を下げるイーゼを見てようやく思考が追いついてきたらしく、ハッとしていったいどうしたのか問いかける。
というか、いったい何があったんだ!? 昨日まであんなに強情になってオレの話なんて聞く気がないと言った感じだったのに。
もしかして、一晩経って落ち着いた? いや、それだけじゃ無いかも知れない……。だから、何があったのかを聞くべきだ。
多分だけど、オレが眠らされていた間に何かあったに違いないのだから。
そう思いつつ、オレ自身落ち着かせるためにイーゼへと問いかける。
すると……。
「分かったのだ。答えるのだ。……昨日のことだったのだ」
その前振りとともに、イーゼが昨日何が起きたのかを語り始めた。
……若干興奮しながら語るイーゼだけど、その内容をオレは噛み砕くようにキチンと聞いていく……のだが、何というか地球ではありえないだろうなと思える内容だった。
我々、と言うとマザー的な存在がイーゼの前に現れた?
もしかしたらだけど、イーゼの魔力を受けた世界樹に我々って言うのが繋がった。と考えるべきなのだろうか?
何というか流石異世界と言うべき状況だと思いつつも、そのお陰でイーゼがちゃんと話を聞こうとしているのだから感謝するべきだろう。
……でも、別の言い方をするならば、イーゼが悲しみのあまりに見た幻覚かも知れないとか思ってしまう。
だけど、それは現実であることを知らしめる物がイーゼの手にはあるのだ。
「これは、我々が我に与えてくれた戦う力なのだ! だから、我も助けに行くのを連れて行って欲しいのだ!」
そう言って、イーゼは話を終えて自信満々に薄い胸を張る。
……薄いな。エルフ、本当に薄いな。……っと、ちょっとその弓を《鑑定》させてもらおうか。
――――――――――
アイテム名:イーゼの弓
品質 :特級(EX)
説明 :
イーゼのために、世界樹が用意した武器。
矢は自身の魔力を使用するタイプの物のため、番える必要は特に無し。
※イーゼ専用武器のため、彼女以外に扱うことは出来ない。
特性 :非破壊武器、心器
――――――――――
「……うわぁ、壊れ武器だ」
「? よく分からないけど、この弓は凄い力を感じるのだ。我々が与えてくれた武器だから、間違いないのだ!」
「ああ、そうだな……。けど、まあ……勝手に飛び出さなくて安心したよ」
呻くオレを見ながらイーゼが自信満々に答え、それを見ながらオレはホッと息を吐きながら頭を撫でた。
その瞬間、彼女は驚いた顔をした。
「っ!!? な、なにを、するのだ……?」
「あ、わ、悪い……。なんつーか、褒めて欲しそうだったから……つい、な」
そう言って、オレはイーゼの頭に乗せた手を放そうとする。
けれど、その放そうとした手がガシリと掴まれた。
「え、えーっと……イーゼ?」
「何というか、初めての感覚だけど……やめなくても良いのだ」
「は……はあ……」
イーゼの言葉に困惑しつつも頷きながらオレはしばらく頭を撫で続けた。
そして、その撫で続ける行為は……樹之命さんが目覚めるまで続いたのだった……。
◆
「仲直り出来て良かったです」
「あー、はい、ありがとうございます?」
満面の笑みを浮かべる樹之命さんに対し、オレは何と言うか返事に困りつつそう言う。
というか、この様子からして……昨日の口論を気にしてたんだろうな。
少しだけ申し訳ない気持ちになりながら、改めてオレはイーゼを見る。
「それじゃあ、気を取り直して……話し合いを始めたいと思うんだけど、良いか?」
「大丈夫なのだ」
「うちも大丈夫です」
2人の言葉に頷き、オレは話を開始することにした。……というか、オレが進行で良いのか?
そんな不安を抱きつつも、話を始める。
「まず最初に、オレたちが行う最終目標を言わせて貰う。オレたちの最終目標は、奴隷商船に捕らえられているっていうエルフたちの救出だ」
「はい、それは知っています」
「みんなを助けたいのだ」
「だけど、その奴隷商船に行くまでにはきっと強力なモンスターが大量にいるはずだ。なのにオレたちは現状3人だけだ」
オレの言葉に2人は頷く。
それを見ながら、オレは閉じた右手を前へと出すと、人差し指をピンと立てる。
「そのために必要だと思われる行動の一つ、オレたちの仲間を集めること」
「仲間……、お前たち以外にも居るのか?」
「はい、元々多くの人たちと一緒に船で来ていましたからねぇ」
キョトンとしながら問いかけてくるイーゼへとオレたちは頷く。
というか、戦力強化と同時にピンチになっているかも知れない仲間たちの救出も兼ねている。
……そういえば、雪火のやつは無事だろうか? ……無事だろうなー。というか、そういうことにしておく。
「で、だ。この大陸のマップの全体像は分かっていないだろうけど……、今分かっている分を一度埋めるか」
「そうですねぇ。それじゃあ、パーティー要請の承認をお願いします」
「分かった。……上手く出来れば良いけど」
そう言いながら、少しばかり不安だったオレだったが目の前に表示された半透明のパネルを見てホッと息を吐いた。
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プレイヤー【樹之命】さんからパーティー要請が来ました!
≪承認≫ ≪却下≫
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正直なところ、パーティー要請自体……【†SSS†】時代でもまったくと言って良いほどしたことが無かったので、出来るのかが不安だった。
……友達がいなくて悪いかチクショウ!
何かそんな声が聞こえた気がしたので、オレはそう心の中で切り返す。
とと、承認を押さないと! 慌てて≪承認≫を押すと樹之命さんのほうにも承認通知が届いたらしく頷いているのが見えた。
……そんなオレたちを見ながら、何をしているのか分かっていないながらもイーゼが羨ましそうに見ているのに気づいたが……、今は気づかないフリだ。
いや、けど……イーゼもパーティーに入ってたほうが良いんだよなぁ……。
仕方ない。物は試しだ。出来るかどうか分からないけれど、イーゼに向けてパーティー要請を送ってみる。
すると……。
「お、おぉっ!? な、何かが目の前に出てきたのだ!?」
「あ、出来たのか? イーゼ、とりあえず慌てずに出てきたそれの≪承認≫を押してくれないか?」
突然驚き始めるイーゼに、要請が遅れたことに驚きつつもオレはイーゼに対しそう言う。
すると、彼女に起きたそれがオレの仕業であることに気づいたらしく、無表情ながらジトーッとオレを見つめる。
「お前、イタズラは酷いと思うのだ」
「イタズラのつもりは無いんだけど……、ちょっとパーティーに入れるかを試したかったんだよ」
「よく分からないけど、すごく酷いやつなのだ」
そう言いながら、イーゼはむすっとしながらオレが言ったように≪承認≫を押したらしい。
事実、半透明のパネルに『【イーゼ】さんがパーティーに加入しました!』と表示されている。
「まあ、とりあえず準備は完了だ。ってことで、マップを表示するからな」
「はい」
「マップ?」
「ああ、エルフたちには無いのか、それとも理解していないだけ……なのか分からないけど、見たほうが速いよな」
頷く樹之命さんと首を傾げるイーゼ。そんな二人を見ながらオレはマップを表示させる。
すると、オレたちの前に半透明の大判のマップが表示されて短い一本線で大陸の形が表示されるのだが……だいぶ空白が多いな。
だけどオレとイーゼが歩いて向かっていたイワンというエルフの集落までの道と、樹之命さんの飛ばされる前に辿り着いた港がある集落の場所は表示されている。
パーティーを組むときの魅力の一つって、これだよな。マップの統一化。……要するに、互いが互いの行ったことがある場所のマップを埋めてくれる機能だ。
それを見ながら、オレはイーゼを見る。
「なあ、イーゼ。お前は何処にどの集落があるのか……分かるか? イーゼ?」
「これが、このルーツフ大陸の形なのか? 何処にどの集落があるかは……、我もイワンが言っているのを話半分で聞いてたぐらいだが……確か、こことここに……あるらしいのだ」
ああ、これまでは出て行った奴らの場所なんて知るか状態だったんだし、まったく聞いていなかったんだな。
名前を付けられたために柔らかくなったイーゼを見つつオレはその様子を思い出しながら、彼女が指したマップのあたりを見る。……って、何か光点がついている?
もしかすると、そこに集落があるのかも知れない。そう思いつつ、表示された光点を見ていると……マップの埋められていない箇所に幾つかの光点が表示され始めた。
「え? これって……、集落のある場所か? もしかしてイーゼが知ってたのか?」
「わ、我は知らないのだ。……もしかすると、我々が教えてくれたのかも知れないのだ」
驚くオレがイーゼに訊ねると彼女も戸惑いながら首を振っていたが、一つの可能性を浮かべて嬉しそうに微笑んだ。
そんな彼女の様子を見ながら、もしかしたらエルフの根源が手を貸してくれたのかも知れないと思いつつ……、何処かでほくそ笑んでいる邪神の姿が浮かぶ。
……まあ、どちらでも良いか。
「とりあえず、目的地が分かった。そして、最終目的地はここ……ってことで良いよな?」
「ですねぇ。というよりも、みんなを助けて、仲間に引き入れて一気に……って所でしょうか?」
オレが指差す港のある集落を見ながら樹之命さんが頷きながら、こうなったら良いなと言うことを口にする。
「だったら、とりあえず……何処から回る?」
マップを見ながら、オレは二人に向けてそう訊ねた。
こうして、オレたちのエルフ奪還作戦は幕を開けたのだった。
次回は別視点になるかも知れません。




