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握って結ぶ

お待たせしました。

 樹之命さんの話を聞き終え、まず最初にオレは思った……。

 あ、あの邪神……なんて面倒臭いことをしやがったんだと……。

 だって、これをどうにかしないと行けないのは確定で、限られた時間で条件のどれかを開放することで勝利するというけれどそれは完全な勝利ではなく状況的な勝利だ。

 しかも、助けることが出来たとしてもその後すぐに作業だぞ作業。

 拘束されていたのに、助けられて「さあ、今からエルフっぽい家を作りましょう」何て言えるわけが無い。

 きっと邪神シャマラもそれは分かっているはずだ。


「……ってことは、エルフを奴隷にしたいって馬鹿が諸悪の根源か……」

「え、えっと、エルサ……さん?」

「あ、ああ、悪い。少し相手側の行動にイラッとしてただけだから」

「そ、そうですかぁ……。けど、これから如何するんですか?」


 どうやらかなりしかめっ面をしていたらしく、不安そうな表情で樹之命さんがオレを見ていたけれど、その表情の理由が分かったからホッとしつつ、これからのことを訊ねてくる。

 これからのこと……か。


「すぐに動く……ということをするにしても、周りはこれだから少し落ち着こう」

「え? 周りって……へあっ!? か、囲まれてますよぉ!? 戦わないと!!」

「大丈夫、ここはホームらしいからモンスターは入ることが出来ないみたいだ。そして武器を出すことも出来ない」

「……あ、そういえばそうでしたね」


 どうやらオレと話すことに集中していたらしく、泉の周りがこうなっていることに気づいていなかったようだ。

 改めて周りを見た樹之命さんがギョッとしながら慌てふためき出した。

 なのでオレはこの泉のことを彼女に話す。

 すると安堵したのかホッとしながら、先程の出来事を思い出したらしい。

 ……その表情を見ながら、オレはあることを思い出した。


「ああ、忘れてたけど……。ここに居るのはオレだけじゃないぞ」

「え? あの、それってどう言う……」

「うぅ……、頭がまだくらくらするのだぁ……」


 オレの言った言葉の意味を尋ねようとした樹之命さんだったが、オレが言うようよりも先にフラフラとしながら寝床から姿を現した。

 言わずとも分かるだろうが、顔色を悪くしたE-0だ。

 ……そういえば、話をしてたから気づかなかったけど、少し時間は過ぎてたんだったな。

 空を見上げると、燦々と輝く太陽が天辺に見えているから……たぶん、昼だろう。

 そう思っていると、驚いた様子で樹之命さんがE-0を見ているのに気づいた。


「えっ、ええっ!? エ、エルフ!? な、なんでエルフがここに居るんですかぁ!?」

「……ああ、そういうことか」

「…………人が増えているのだ。お前は誰なのだ?」

「え、えっと、う、うちは……その、えっと」


 話を聞いていて思い出したけれど、たぶん殆どのエルフが港のある集落か奴隷商船のほうに監禁されているんだろうな。

 だとすると、E-0にエルフたちが監禁されていることを伝えるのは今は止めておいたほうが良い……よな?

 下手をすると飛び出してしまいそうだし。

 だから、オレは慌てる樹之命へと黙るように人差し指を口元に当てて、ジェスチャーを送ってからE-0の説明をする。


「彼女は、樹之命さんだ。ある事情でオレと同じように泉に突き刺さったんだ」

「え? エルサさんも突き刺さってたんですかぁ!?」

「なるほど。分かったのだ。突き刺さった仲間同士仲良しになるのだな」

「そうそう」


 良かった。納得してくれたようだ。

 オレの自己紹介を聞き、E-0は納得して頷く。

 樹之命さんのほうはオレも突き刺さっていたことを知って驚いているようだが、気にしない。

 そう思っていると、オレはどうやら甘かったようだ。というよりも、E-0を舐めていたようだ。


「という言葉で誤魔化される我々ではないのだ。お前、いったい何があったのだ?」

「…………ちっ、このまま騙されていてくれたらいいものを……!」


 ジトッとした瞳でオレを見ながら、E-0が顔を近づけ……威圧を込めてくる。

 そんな彼女を見ながら、オレは舌打ちをしつつごまかすことに失敗したことを悟る。

 というか、イワンというエルフの集落に行ったら燃えてたんだから気になるよな普通。

 仕方ない……、言うか。そう決意をしながら、口を開こうとした瞬間――クゥという音が周囲に響いた。


「……あー……、話をする前に、ご飯にするか?」

「それが良いみたい、ですねぇ……」

「……仕方ないのだ。本当ならば色々と話を聞きたいけれど、ご飯にするのだ」


 気まずそうに口を開いたオレと樹之命さんだったが、腹を鳴らしてしまったE-0も恥かしかったようでプルプルとしつつ平静を装っているようだった。

 なので、その件には触れないようにしつつ、オレは食事を用意することにした。

 ……もちろん、果物ではなく米を炊くのだ。


「え、これって……お、お米っ!? お米ですかぁっ!? 見つけたんですね!!」


 水でジャブジャブ洗い始めているそれを見て、樹之命さんが興奮したように言う。

 どうやら、というか日本人は皆お米を待っていたんだ。

 心からそう思いながら、ついさっき行ったように米を炊き始める。

 そしてその側で、炊き終わったら行うための道具をインベントリから取り出す。


「これは……皿と塩、ですか? ああ、なるほど、お米の味を楽しむかつ話し合いをするときにこれは良い物ですね」

「これだったら、話し合いをしつつ楽しめるだろ? ……ってよりも、炊き立てご飯は食べたから、次はこっちにしたくてさ」

「な、なるほど……」

「まあ……あとは、緑茶があったら良かったんだけど、切らしてて紅茶しかないんだよな」


 そう言いながら、オレは焦げないように火力を調整し始める。

 ……そんなとき、天の声。というよりも隣から助け舟が出された。


「ああ、緑茶でしたら持ってますよぉ」

「ほ、本当かっ!?」

「はい、うちは紅茶や烏龍茶系よりも緑茶派なんですよ」


 樹之命さんがそう言うが、何というか凄く様になっていると思う。

 きっと、家は和な感じの造りで縁側でズズズと緑茶を飲んでるんだろうなー。

 そんなことを考えながら、オレはご飯が炊き上がるのを待っていた。


「……よしっ、これで良いかな? ……良いみたいだな」

「わぁ、ご飯ですよご飯! 遂にご飯革命ですよぉ!」

「美味しそうなのだ」


 火から放して蒸らした鉄鍋の蓋を開けると、昨日も見たあの素晴らしい炊き立てご飯がオレたちの視界に飛び込んだ。

 艶々とご飯が立っているのを見ながら、樹之命さんも喜びの声を上げる。そして、ある意味ご飯革命だな。

 E-0も淡々とだが目をキラキラとし、口元から涎を垂らしているが……本人は気づいていないだろう。

 そんな彼女たちの様子を見ながら、濡らした木のしゃもじを突き刺して底から混ぜ合わせていく。

 すると、鉄鍋の底のおこげとホカホカご飯が混ざり合って行き、嬉しさがこみ上げてくる。


「さて、それじゃあ始めるとするか」

「始めましょうかぁ」

「何か始めるのか? 炊き立てご飯を食べるのではないのか?」

「炊き立てご飯も良い。けど、それ以上に美味しいご飯の食べ方があるんだよ」

「そ、そうなのかっ!? き、気になるのだ!!」


 オレの言葉にE-0は興奮した様子で近づいてくるのだが、たぶん本人は気づいていないんだろうな。

 そんな彼女の様子を見つつ、オレは笑みを浮かべながら、水を入れた木のボウルへと手を入れて軽く濡らす。

 そして、手の平の上へと用意した塩をパラパラと振りかけてから、軽く両手を合わせ木のしゃもじを持つ樹之命さんへと差し出した。

 すると木のしゃもじで適量のご飯をすくい上げた彼女はオレの手の平へと置いた。


「熱っ、熱っ! よっ、ほっ、っと!」


 手の平に炊きたてのご飯の熱さが伝わり熱くなるけれど、我慢しつつ置かれたご飯を手の平で丸めて固めていく。

 だけど、固めすぎず……中はふんわりするように、優しく丸めていく……ただし崩れないようにしつつ。

 ぎゅっぎゅっと、握るたびにご飯は形を作り出して行き、もうそろそろ止めておかないとご飯が潰れてしまうと思いながら……握り終えたご飯を皿の上へと置いていく。

 ……塩おにぎりの完成だ。


「……何なのだ、これは?」

「おにぎりだ。……あー、ただ単にご飯を固めただけの料理だと思ってるな? 食べてみたら分かるぞ」

「そう……なのか? だったら、いただくのだ」


 ジーッとおにぎりを見ていたE-0だったが、まるで騙されたと言わんばかりの雰囲気だったのでオレは食べてみることを勧める。

 オレの言葉に、どこか疑いながらもE-0はおにぎりを掴むともぐりと口を付けた。

 もぐ、はむはむ……もぐもぐ……。

 小動物のようにおにぎりを食べるE-0をしばらくジッと見ていたが、半分ほど食べてから彼女は顔を上げた。


「ちょっとしょっぱくて、固いけどふんわりするご飯なのだ」

「……口に、合わなかったか?」

「炊き立てご飯と同じ感じがするのだ。……だけど」


 ――何だか、我々の胸の奥ががポカポカしてくるのだ。


 どこか嬉しそうに、E-0はそう言った。

 そんな彼女の様子を見て、微笑ましく感じながら……オレは残りのおにぎりを作ることを始めた。

 そして、ホカホカご飯が熱くて手がヒリヒリしたけれど皿いっぱいの塩おにぎりは完成した。

 ……けど、海苔もあったら良かったな。これが終わったら、海苔を作るプレイヤーも居ると信じたい。


「さて、それじゃあ食べるか。……いただきます」

「いただきます」

「いただきます?」


 皿に乗った塩おにぎりを前に、オレと樹之命さんはやり慣れたように手を合わせて、声を出す。

 E-0もオレたちの真似をするのだが、この行為の意味は分からないらしい。

 今はまだそういう習慣が無いんだろうな、エルフには。

 そんなことを考えながら、オレは塩おにぎりを1個手に取るとパクリと口を付けた!

 ほのかな塩味と、手で握ることで生まれたモッチリとした食感。そして、中のフワッとしたご飯特有の食感が口の中に広がっていく。

 ……ああ、美味い。


「美味しいですねぇー、作り手の温かさを感じますよぉ」


 しみじみと樹之命さんも呟き、その言葉に同意する。

 やっぱり手作りのおにぎりって、相手の気持ちが篭っているよなぁ……。

 心からそう思いながら、食べていたおにぎりを食べ終えると二個目を手にする。


「そして、おにぎりやご飯ものには緑茶ですよね」


 そう樹之命さんが言うと、彼女はインベントリから急須を取り出すと同じく茶筒を取り出した。たぶん中には緑茶が入っているのだろう。

 期待していると予想通り緑茶だったらしく、急須へと入れられていく。

 そして彼女は本格派だったらしく、何時の間にか沸かされていたお湯を急須にそのまま入れるのではなく……幾つかの湯呑みへと入れて温度を下げてから、急須に入れるということをしていった。

 こぽこぽとほんのり温かい湯飲みへと緑色の緑茶が注がれ、周囲に独特の香りが立ち……E-0が不思議そうな顔をしながら緑茶を見る。


「はい、えーっと……E-0さん」

「ありがとうなのだ、お前」

「あはは……。はい、エルサさん」

「ありがとう、樹之命さん……ずずっ、あぁ~……やっぱ、ご飯には緑茶が一番だぁ」


 いや、ほうじ茶とかそば茶、玄米茶、番茶もありだよなぁ? ……だけど、オレは緑茶だな。

 心で結論を出しながら、オレは緑茶を飲む……のだが、E-0にはそれが分からなかったようだ。


「うぅ……、何だか渋々で苦いのだ……」

「あ、あらら、緑茶は厳しかったですかぁ」


 今にも緑茶を吐き出しそうにしながら顔を顰めるE-0に樹之命さんは苦笑をした。

 ……どうやら、E-0というかエルフは果物ばかりだったから、こういうお茶は苦手なのかも知れない。または彼女だけだろうか?

 そんな疑問を抱きながら、オレは残りのおにぎりを食べることにした。

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アルファポリスでも不定期ですが連載を始めました。良かったら読んでみてください。
ベルと混人生徒たち
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