拗れる話し合い
お待たせしました。
「「「ごちそうさまでした(のだ)」」」
空になった皿を前に、オレたちは手を併せてその言葉を口にする。
手を併せることと、食後の掛け声はまだ慣れていないながらもE-0も行う。
それを樹之命さんが驚いた様子で見ていたけれど、オレが教えたのだろうと納得した様子であった。
そして食後の緑茶をオレと樹之命さんは普通に飲み、E-0は……間違った外国人な感じに緑茶に牛乳と砂糖を注いだら飲めたらしく、抹茶ミルクならぬ緑茶ミルクを飲んでいた。
湯飲みの中身をすべて飲み干し、ふぅ……と息を吐いてからオレは二人を見る。
「それじゃあ、話し合いを始めたいと思うんだけど……良いか?」
「はい、良いですよ」
「……その前に聞きたいのだ。この土地でいったい何が起きているのだ?」
ああ、そういえば……E-0にはキチンと何が起きているのか説明していなかったな。
それを思い出しながら、オレと樹之命さんは目配せをしてからオレたちはこの地でいったい何が起きているのかを語っていく。
とは言っても、オレよりも話の主体は樹之命さんである。……オレは何をしているかって? E-0の胴体にロープを結んでるだけだ。
「……お前、何故我々の腹に縄を巻きつけるのだ?」
「何故って……、お前が樹之命さんの話を聞いてすぐに飛び出していきそうな気がするからだ」
「心外なのだ。我々が話を聞いて、すぐにでも飛び出すとでも思っているのか?」
無表情ながら何処と無くプンスコと怒っている風なE-0だったが、樹之命さんから話を聞いていくと段々と厳しい表情へと変化していった。
そして、邪神が提示したこの争いの勝利条件とエルフたちの現状を彼女が口にした直後――。
「っ!! ――へ、へぶっ!? う、動けないのだっ!!?」
「そら当たり前だろ? お腹をロープで縛っているんだから、動けないに決まっている」
「は、放すのだっ! お前、今すぐ我々を解放するのだぁ!!」
「駄目だ。放したら、お前はすぐにでも他のエルフを助けに行こうとするだろ?」
「当たり前なのだ! あいつらは我々から離れて行った。それでも彼らは我々の仲間なのだから、助けに行くのは当たり前なのだ!!」
「……その心意気は良いと思う。だけど、オレにはお前がここから出たら……すぐにモンスターたちに捕まるようにしか思えない」
そう言いながら、オレは泉の周囲を見渡す。
……未だモンスターたちが、唸り声を上げてオレたちが出てくるのを今か今かと待っているように見えた。
というか、さっき異常に増えていないか? 森の奥のほうからもギラギラとした瞳が見えるんだけど?
こんな所に、E-0が飛び出して行ったらどうなるか? ……決まっている。操られているモンスターに捕まって奴隷一直線か操られていないモンスターの餌になってしまうかだ。
そんな未来が頭の中を過ぎる中で、E-0は必死に助けに行かせて欲しいと訴えていた。
「大丈夫なのだ! あいつらは、我々が攻撃しない限り襲ってこないのだ!! 今までだってそうだったのだっ!!」
「……何時もはそうだろうけど、今はあいつらは操られてるんだ。だから、不用意に飛び出そうとするんじゃないって言ってるのが分からないのか?!」
「っ!! い……、嫌なのだ! 我々は、我々はみんなを助けに行くのだ! 行きたいのだ!!」
必死に危ないと告げているオレだったが、オレ自身の説明不足とE-0の今までの経験……そして仲間を助けに行きたいと言う想いが強すぎるからか、彼女は駄々をこねる子供のようにまったく話を聞こうとはしていなかった。
そして、そんな頑なな態度に話し合って如何するかを決めることを考えていたオレは、少しばかりイラッとしてしまったらしい。
だから……。
「E-0、お前分かっているのか!? お前が行っても、ただ単に捕まるだけだ! 良かったな、きっと泉の外に出た瞬間、モンスターに捕獲されて他のエルフと同じように奴隷になって、お前はみんなと仲良く売られるだろうよっ!!」
「エ、エルサさん、ちょっと落ち着いてください……!」
「そ、そんなこと……そんなこと無いのだ……。そんなこと……」
オレの言葉を咎めるように樹之命さんが声をかける。
だけど、オレは止めるつもりは無い。
ビクッと震えながら、E-0はオレの言葉を否定しようとする。
けれどオレは更に追撃を行う。
「それに言っておくけど、話を聞かない上に戦う力も無いお前を、オレは……オレたちは連れて行く気はない。だから如何するかの話し合いを終えたら、オレはお前は動けないようにぐるぐる巻きに拘束して寝床に放り込んでおくつもりだ」
「!? な、何故なのだ! 我々は……我々は我々だった者たちを助ける義務があるのだ!!」
「義務だの助けに行きたいだのどうだの言ってるけどなあ……、お前は戦う力が無い、なのに助けに行きたい。それはただ駄々をこねているだけなんだっての! そもそも、何で助けに行きたいんだ?!」
「そ、それは……それは、我々は我々だったからで……」
怒鳴りつけるオレが怖くなったのかどこか怯えたようにE-0はオレを見ていた視線を反らし、地面を見始める。
どうやらオレはかなり怖い顔をしているようだ。
そんなことを考えながら、オレは話を続ける。
「我々が、我々がって、もういい加減にしろ! もう、我慢の限界だ! 駄々をこねるし、話し合わずに飛び出そうとする! 今のままじゃ危ないから話し合って、どうにか出来る状況へと持ち込もうと考えているのにだ!!」
「そ、それはエルサさんも……ひぃ!!」
オレの言葉に反応するように樹之命さんがぽそりと口にするので、睨みを効かせる。
すると、怖かったらしくガクガクと怯えた。
「……なあ、それは本当にお前の意思なのか?」
「そ、それは当たり前なのだ……わ、我々の意思なのだ。我々が考えて、我々が決めているのだ……」
「我々っていうのはお前のことなのか? だったら、お前は何なんだ、我々と言っている時点でお前は一人だと言えるのか?! 名前がE-0? 違うね、お前はE-0じゃない!」
「ま……さか、やめて……くれ。我から、繋がりを……奪わないで欲しいのだ……!」
オレが何を言おうとしているのかを察したらしいE-0は怯えるように、オレへと縋りつこうとする。
だが、オレは止める気は無い。だから、彼女が必死にしがみ付いている物を引き千切った。
「お前は、イーゼ! E-0から、イーゼだ!!」
「っ!! きれ……たのだ。繋がりが……きれた、のだ……!」
オレの言葉にビクリと体を震わせ、E-0はその場で膝を突く。
そして、ぽろりと……彼女の目から涙が流れる。
「……ひど、いのだ……。我が、我々であろうとするために、必死に言わないで欲しいことを……お前は言ったのだ……! なんで、なんでなのだ……! 何で、我から奪ったのだ……! なんで、なんでぇ……!」
オレの発した言葉にE-0……いや、イーゼが呆然と呟きながら、ぼろぼろと涙を零し始めた。
その顔を見て、やりすぎたかと一瞬思ってしまったが、言ってしまったものはやり直すことが出来るはずも無かった。
だからオレは何も言えないまま、イーゼから距離を取った。……一応飛び出す心配があったため、ロープは地面に刺し込んだ杭に巻きつけておいた。
そして、離れようとするオレをどこか咎めるように樹之命さんは見ていたが……何も言えないらしく黙っていた。
◆
――――― イーゼサイド ―――――
「ひっく、ひっく……!」
涙が止まらない。悲しい気持ちが消えない。
切れた。切れてしまった。我々と我を繋ぐ何かが切れてしまった。
あいつが、エルサと呼ばれていたあいつがイーゼと呼んだ瞬間、切れてしまった。
その瞬間、我は我々ではなく、孤独となったのだ。
「なぜ……、なぜ、あんなことを……言わないでくれと言ったのに……、なんで……なんで……」
ぼろぼろ、ぼろぼろと零れる涙は止まらない。
イーゼと名前を呼ばれた瞬間から、我の心が我々から切り離されたことに嘆き悲しみ、我は泣き続けていた。
そんな我を無視するように、あいつは我の元から去り……何時の間にか現れていたほうも居なくなっていた。
そして、どれだけの時間泣き続けていたのかは分からないけれど、周囲が暗くなっていたのだ。
「ぐすっ……、ぐすっ……! い、いつまでも……泣いてたら、だめなのだ……」
我がやらないと、我ががんばらないと……イワンや、イーツ……他のエルフたちも助けることが出来ないのだ。
ぐすぐすと鼻を啜りながら、我は立ち上がり歩き出そうとする。けれど、あいつに結ばれた縄によってある程度の距離までしか進むことが出来なかった。
けれどそれを忘れて、我は歩き出そうとしたために……どすんと尻餅を突いてしまった。痛い。
――GURRRRRRRRRRRRRRUUUUUUU!!
――GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
――FUUUGGGGGGOOOOOOOOOOOOOOOO!!
「ひ、ひぃっ!?」
我が尻餅を突いた音に反応してか、森の中から無数に光る瞳が我を捉え、獣たちの唸り声が周囲から響き渡る。
その瞬間、我の体を恐怖が駆け抜け……動けなくなる。
こわい、こわい、こわいこわいこわいこわいこわい……!
頭の中を恐怖が満たしていく中で、不意に我はある言葉を思い出した。
――あいつらは、我々が攻撃しない限り襲ってこないのだ!!
――何時もはそうだろうけど、今はあいつらは操られてるんだ。
「…………あ」
こんなにも周囲で我を見る獣たちが怖いのに、襲われないと思っていた。
そんな我の考えを否定するように、あいつは怒鳴っていた。
だけど……あのときの、あいつの顔は怒っているのではなく……真剣だったのだ。
「我のことを、心配して怒ってくれてたのだ……。それなのに我は……」
みんなを助けたい。それは間違いは無いのだ。
だけど、我にはその力が無い……。それが分かっているから、あいつは怒ってたのだ。怒鳴ってたのだ。
「我は、馬鹿なのだ……。どうしようもない馬鹿だったのだ……」
泣き続けて冷静になれたから、我はその考えに至れたのだろうか? それは分からない。
分からないけれど、あいつが怒った理由が分かったのだ。
そう思うと、あいつに申し訳なくて……自分の愚かさが恥かしくて……、助けに行けない無力な我が情けなくて……再び涙が出そうになる。
『…………ようやく、分かったのだな?』
「え? だ、誰なのだ?」
不意に、何処かから声が響き渡り……我は驚いた。
けれど驚きつつも、声の出所を捜すために首を動かす。
すると……、我の魔力を吸い取って成長した世界樹がほんのりと光り輝いていたのだ。
名前を強制的に決められてしまいました。




