謝罪と詫びの品
お待たせしました。
10月31日 主人公の名前修正
周囲を覆い尽くす土煙がゆっくりと沈んでいく中、オレは息を整えながら……狂戦の斧を構えたまま立っていた。
……振り上げたとき、敵の胴体を斬った感触はあった。だが、振り下ろしたときにはその感触は無く……地面を叩く衝撃が腕に伝わるだけだった。
吹き飛ばされたから命中しなかった。それともかわした? または当てる場所をミスった? そんな違和感を感じながら、オレは土煙が脹れるのを待っていたが……土煙が晴れたとき、それは確信へと変わった。
「なっ!? い、居ない……だと?」
「やはり……居ないか」
背後からオレの必殺の一撃を見ていた雪火から、驚愕めいた声が聞こえる。
多分、雪火から見ても……アレは必殺の一撃だということが理解出来ていたのだろう。
だから、その場に居ない敵の姿に驚いているのだ。
けど、いったい何処に行ったんだ? そう思いながら周囲を見渡していると、ニィナから何処か怯えたような声が発せられた。
「エ、エルサ……、何だか、すごく……怖いのが……上に居る」
「上? …………あ」
チラリと首を後ろに回し、ニィナを見ると……顔を蒼ざめさせているのが見え、彼女が指差す方角を見上げると……それは居た。
いや、それといえば良いのかはわからないが、それを見た瞬間――オレの全身がゾワリと震え、警戒するのを感じられた。
その存在は見た目が……あの駄目な神さまにそっくりなのだが、服も髪も瞳も全て真っ黒であり……要するに如何にも邪悪という印象がバッチリと伝わる物であった。
それが優雅だけど……それでいて妖艶な印象がする笑みを浮かべながらオレたちを見ていたのだ。
しかもその微笑みは初心な少年であれば一瞬で魅了されるであろう物で、その微笑みから視線を反らすと……オレは隣に浮かぶ半透明の黒い球体に気が付いた。
「っ!? あ、あれは……!」
「あ……」
「まさか……」
その球体の中身に気づき、オレはポツリと呟き……その言葉でニィナと雪火も中にいるものの存在に気づいたようだった。
半透明の球体の中には液体でも入っているのか、その中には胴体を斜めに斬られだくだくと血を垂れ流しながら虚ろな瞳で舌をだらんと垂らすハゲデブなおっさんが居た。
言わなくても分かるだろうが、オレが倒したと思われた敵である。
やはり回収されていたと思いながら、同時に回収したのはオレが狂戦の斧を振り下ろた瞬間だろうと予測する。
そう思いながら、オレはそれを行ったであろう、オレたちを見ながら微笑む女性を見る……いや、睨む。
その視線に気づいているのか、その女性は周囲に向けていた微笑みをオレ個人へと向けながら……、
「あらあら、可愛い顔が台無しですわよ?」
「……その可愛い顔を台無しにしているのがあんたらだろ?」
「あらあら、そうですわね。うふふ……」
優雅かつ妖艶に笑いながら、その女性はゆっくりと地面へと降りてくる。
その様子からは敵意が無いように見える……だが、オレの体からは闘志が消えず、警戒をますます強め始めていた。
いったい……誰なんだ、この駄目神さまそっくりな女性は……? し、しかも、今気づいたけれど、着ている黒い一枚布がだいぶスケスケだぞ!?
ネグリジェ並みにスケスケだからか、たゆんたゆんのおっぱいの先に聳え立つ2つの膨らみとか、黒い紐パンツが丸見えとなっている!! 男の子には本当に厳しい姿だ!!
だけど、今のオレは女! 女だ!! だからそんな妖艶な格好に魅入られる心配は無いはずだ!! ……多分。
「うふふ……♪ そんな真剣な目で見つめちゃって、見た目はアレだけど、中身はおとこのこね……♪」
「なっ、なな……何のことだっ!?」
「しし真剣な目で見ているだとッ!? は、はは……破廉恥な……!? し、しかも、おとこのこだとっ!?」
「えるさ……ああいうのがいいの?」
「ち――ちがうっ、誤解だっ!!」
背中から突き刺さる視線にオレはそう叫ぶのだが、信じられていないような気がする。
そんなオレたちの様子を見ながら、その女性は笑うが……ゆっくりと姿勢を正し、こちらを見てきた。
「そう身構えないでくださいませ。今のワタクシに敵意はありませんから」
「……そんな簡単に、はいそうですかなんて信用できるわけが無いだろう? それに、あんたはいったい誰なんだ?」
「ああ、自己紹介がまだでしたわね。ワタクシはシャマラ、あの主神と対をなす邪神シャマラですわ。以後お見知りおきを」
そう言って、女性……いや、邪神シャマラは優雅に色気を漂わせながら、オレたちに向けて一礼をする。
その所作にオレか、はたまたニィナか雪火なのかも知れないが、ゴクリと唾を呑む音が聞こえた。
ただし、エロイとか威厳に満ち溢れているから……ではない。無害そうに見えるのにまったく隙が無いように見えるからだ。
何というか、こう……心臓を鷲掴みされているような気分だ。
「オ、オレたちは……あんたとよろしくするつもりはないんだが?」
「そうでしょうね。ですが、貴女がたはワタクシたちと関わってしまった。ですから、今日はご挨拶だけですわ」
何とかオレは言葉を紡ぎ、邪神シャマラへと言う……すると、邪神シャマラはそう返事を返したが……、一拍置いて軽く溜息とともに言葉を続けた。
「……まあ、それと後は勝手に抜け出したお馬鹿さんの回収と、それに巻き込まれてしまったそちらのかたへの謝罪ですわね」
「「「え?」」」
しゃ、謝罪? 何というか邪神から邪神らしくないような言葉が聞こえたので、オレは驚きつつも繰り返す。
というか、物語とかゲームでの邪神って……、破壊や混沌を巻き起こすのが当たり前な存在じゃないのか?
「邪神と言っても一応は個人的なルールを持っていますのよ? ですから、この世界を滅ぼす~とか、世界を闇に~なんて言う馬鹿なことはしませんわよ。
それに、今回は完璧にこちらの不手際。でしたら、謝らないわけには行きませんわよね?」
「あ、ああ、心読めるんだ……。まあ、兎に角謝ってもらうなら謝ってもらうべきだな。雪火、大丈夫か?」
「え、あ、あの……え? え?」
威圧感があり、邪悪さを感じる。だが、明確な敵意が無い。そう感じられたオレは道を開けると……邪神シャマラは雪火の前へと立ち、彼女と目線を合わせるためにしゃがんだ。
一方で、雪火は側に居るニィナの体にガチガチと震えながら抱き付いていた。……ああ、気づかなかったけど、人の身で耐えれる威圧感じゃないのか?
あ、よく見たらニィナも尻尾を逆立てている。すごい警戒している仕草だ。
それでも邪神シャマラは威圧を解く気は無いのだろう。……もしかして、早まったか?
そう思っていると、邪神シャマラの謝罪が始まった。
「この度は、本当に貴女に怖い思いをさせて申し訳ありませんでした」
「え、あ……ああ……。あ、あの、これはいったい……? せ、拙者は何に巻き込まれて……」
「詳しくは後日別の者が説明してくれるはずなので、詳しいことは省かせていただきます。ですがお詫びとして、貴女の中に渦巻いている混乱を解消してあげますわ」
「え?」
邪神シャマラの言葉に雪火はきょとんとした表情を浮かべるが、邪神シャマラは悪戯っぽく微笑むと……チラリとオレを見る。
……なんだろう、嫌な予感がする。そう思いながら、邪神シャマラと雪火の様子を見ていると……オレのほうを指差してきたではないか。
あ、やな予感。ぜったい嫌な予感。そう思っていると……。
「あそこのエルミリサ。その中身は、貴女の会いたかった人で合っていますからね。ですから、相手が否定しても突きつけてあげなさいな」
「え…………」
「うっ!」
邪神シャマラの言葉に、唖然としながら雪火がこちらを見てくる。……その視線に耐えることが出来ず、オレはそっと目を反らす。
そんなオレの反応を見ながら、雪火の口からは「そんな……うそ? だが、やはり……?」とぶつぶつとつぶやくのが聞こえる。
あー……これ、やっぱりもしかしてと思われてたんだなぁ……。で、邪神シャマラの言葉でかなり確信を持ち始めているのかも知れない。
そう思っていると、この邪神様もひとつ爆弾を落としてくださりましたよ、この野郎。
「それと、あのお馬鹿さんのお陰で傷だらけとなった貴女を治癒するためにこんなこともしていましたので、すごく愛されていますわね」
「ほ、あ……へ? の……のあああああぁぁ~~~~っ!?!?!?」
愛されている? と首を傾げる雪火であったが、ご丁寧様にオレたち3人に分かるように映像を見せてきた。
その映像は……、つい先程のカッとなって行った治癒の映像だ。
要するに、濃厚なキスシーンともいえるようなアレだ。
しかも、超ドアップだドアップ。濃厚なキスシーンのみだぜ、ちくしょう!
当然、その光景をマジマジと見ていた雪火からは間抜けな声が洩れていたが……、ようやく頭が追いついてきたらしく素っ頓狂な声を上げる。
そしてニィナはすごく泣きそうな表情をしだした。だ、だからその表情は何なの!? 友達という関係で良いんだよな!?
しかもこの邪神様はやっぱり根本は混沌を巻き起こす類なんだろう。改めて実感した。
「良かったですわね。向こうで出来なかったスキンシップがここでは出来ますわよ? ……それと」
くすくすと笑いながら邪神は一本の刀を雪火の前へと差し出した。
突如出された刀に、オレが警戒をする。というか、どう見ても邪神が出した武器だから呪いの装備な印象が強い。
事実邪神シャマラが差し出された刀は、全体的に柄も鞘も漆黒の色をしていた。……刀身は見ていないけど、多分漆黒じゃないだろうか?
「暴食に食べられた貴女の刀の代わりにこれを差し上げます。銘は黒刀・禍津日ですわ。……ああ、特に呪われていませんし、刀に精神が乗っ取られるなんてことはありませんので、心配しなくてもだいじょうぶですので」
「……本当、だろうな? これが原因で、何か起きて……現実のこいつに何かあったら、許すつもりは無いからな?」
「ええ、大丈夫ですわ。その刀は名前も見た目も邪悪な印象が強いですが、ただの刀。……しいて言うならば、破壊無効の特性が付いているぐらいですわ、普通の人ならば問題ないでしょう? 普通の人ならば……ね」
……なんだろうか、この含みのある言いかたは?
そう思いながら邪神シャマラを見ているのだが、微笑むだけだった。
そして、差し出されたままであった黒刀・禍津日をかなり戸惑いながら雪火は受け取る。
受け取るのを見て、邪神シャマラは立ち上がると優雅に一礼をし……。
「さて、謝罪も終わり、詫びの品も渡し終えましたので……今日のところは帰らせていただきますわね」
――では、再び会う日まで……。
そう言い残し、オレたちが声をかけるよりも速く邪神シャマラは、まるで初めから居なかったとでも言うかのように、その場から姿を掻き消した。
……そして、邪神シャマラが居なくなっても呆然と立ち尽くしていたオレたちだったが、3人の内……誰かは分からないが息を吐き出した瞬間――釣られるように他の面子も息を吐き出した。
「な、なんだったんだ……アレ…………」
「こ、こわかったよぉ……」
「ここ、これは……本当に、ゲームで良いのか……? それとも、現実……なのか?」
口々にそう呟きながら、オレもニィナも……そして雪火もその場にしゃがみ込んでいた。というか、腰が抜けて立てないかも知れない。
……本当ならば、逃がすわけには行かないとか言って武器を構えたら良かったのだろうが、それをしたら瞬きする間も無く消されていたかも知れない。理由はわからないが、そう直感的に思えた。
そう思っていると、不意に視線を感じ……そこを見ると、顔を蒼ざめさせながらも雪火がオレを見ていた。
どうしてオレを見ているかは分かる。というか、分かりたくなくてもわかってしまう。
なので観念しながらも、視線を向けられていることに気づきました風を装い始めた。
「え、えーっと……な……何だ?」
「お前は……、本当に……さとる。で良いのか?」
「えっと、な……なんのこ『――とぼけるなっ!!』とだ……」
鈍感系学園主人公風な返答を返そうとした瞬間、雪火は怒鳴りながらオレを見てくる。
普通ならば諦めて欲しい。そう思うのだが、邪神シャマラの……神の断言があるのだから諦めるつもりは無いようで、真剣な瞳でオレを睨み付けていた。
……ニィナはどう思っているのだろうか? そう思いながら、ニィナを見ると……彼女のほうも詳しい話を聞きたいみたいな感情を瞳に宿しているのに気が付いた。
どう、するべきか……。
そう思っていると、頭の中に語りかけてくる声があった。
その声の主の応答にオレは返事を返し、ゆっくりと2人を見つめる。
何かを決意したと思う視線に気づいた雪火とニィナへと、オレはゆっくりと口を開く。
「あ…………あー……、とりあえず……一度拠点に戻るか。……雪火、良いか?」
「……良いだろう。ただし、きちんと説明をしてくれ」
「わかった……」
頷き、邪神シャマラが居なくなって少し落ち着きを取り戻したのか、真剣な顔で雪火はオレを見る。
なのでオレは雪火へとパーティー申請を送った。
突然申請を送られ、雪火は一瞬驚いた表情を浮かべたが……すぐに承諾した。
パーティーにオレ・ニィナ・雪火が居ることを確認すると、オレはインベントリから拠点帰還用のポータルを取り出す。
「さ、乗ってくれ」
「分かった」
「の、乗れば……良いの?」
「ああ、雪火は分かってるだろうけど、ニィナは初めてだったな。少しフワッとするけど我慢しろよ」
そう言いながら、2人がポータルの中に入るのを確認するとオレは表示された半透明のパネルから目的地である『家』と設定した拠点を選択し、続けて<移動>のボタンをタップした。
すると、ポータルから光が発せられ……、オレたちの体を包み込むと、一瞬の浮遊感を感じた瞬間には拠点の玄関に戻っていた。
同じように転移をした2人も居ることを確認し、オレはリビングへの扉を開く。
……多分、中に居るはずだよな?
ってことで、あっさりばれました。というよりも、ばらされました。
次回は事情説明な感じですね。
そして、今まで主人公の名前を間違えていた件。さらっと書いてて忘れるなんて……。




