エルサの怒り
お待たせしました。
10月31日 主人公の名前修正(汗)
……さとる。
そうブシドー……いや、雪火がオレを呼んだ瞬間、驚きのあまりビクリと体が震えそうになったがそれを必死で押さえる。
多分、ばれていないと思うけど、無意識に呼んだんだろうな……。
オレはそう結論付けることにするが、それ以上にここに来ることに少し遅れたことを後悔すると同時に間に合ったことに安堵していた。
けれど……その安堵とは裏腹にオレの心臓はドクドクと脈打っており、それを落ち着かせるようにゆっくり深呼吸を繰り返しながらオレは胸の中で眠る雪火と共に地面へと降り立った。
すると、オレが降りてくるのを待っていたとでも言うようにニィナが駆け寄ってくるのが見えた。
「エルサ! だ、大丈夫?」
「ああ、オレは大丈夫だけど……雪火が……」
「――――っ!? ひ、ひどい……」
オレの言葉にニィナは目を見開きながら口を押さえ、今にも泣きそうな表情を浮かべながら雪火を見ていた。
……あの悪魔に呑み込まれそうになった結果、雪火の顔を隠す面は完全に溶けてしまっており、彼女本来の顔が露わとなっていた。
だがその顔や頭は強酸を浴びせられたとでもいうように所々が爛れ、赤黒い皮膚の下の肉や髪や頭部が溶けて白い頭蓋骨が見えてしまっており、痛々しかった。
……そして右腕があった箇所を見るが、そこには腕は無く……その付け根からはポタリポタリと赤い血が地面に向けて零れ落ちるのが見えた。
「――くそ……っ! くそがっ!!」
舌打ちをしながら、オレは無くなった腕の先を悔しそうに見つめる。
普通ならばゲームなのだからポーションを使ったりゆっくり休ませたら良いと思う所だが、事前に神さまに聞かされた情報がオレの脳裏の隅から離れない。
『……本来ならば、イベント用に調整して魂への干渉を幾分か抑えるはずでした。ですが、今は保護も何もまったくされておらず……ダイレクトにアバターのダメージは魂に与えられるはずです。
ですから、そのアバターが死んだ場合……魂にも多大な影響が与えられます。そして、魂から肉体へと徐々にその影響は浸透し……最終的に現実の肉体もある朝いきなり死んでいた。何てこともあります』
そう神さまから聞かされた言葉は現実味を帯びておらず……いまいち理解出来ていなかった……。けれど、この雪火の姿を見た瞬間――本能的に理解出来てしまった。
アバターの腕が食い千切られた。それはつまり魂にも腕が食べられた記憶が残ると言うことだ。だから、近いうち雪火の腕は現実でも動かなくなる……。そして顔も、次第に皮膚が爛れていくに違いない。
しかも本人は、周りは何が起きたのかは分からないだろう。病院でも未知の病気で片付けられるに違いない。
そうなったとき、こいつはどうなる? 剣を触れなくなるよな? いろんなことに支障が増えるよな? 周りが可哀想な目で見てくるよな? 外に出ることを止めるようになるのか?
そうなったら、こいつはどんな反応をする? 訳も分からず泣くのか? 周りに心配しないでくれと言って声高らかに笑うのか? この理不尽な現状に辺りに対して怒るのか?
わからない。……いや、わかりたくない。というよりも、オレの……オレの幼馴染が、眩し過ぎて直視出来なくなってしまった……幼馴染がそんな風になる未来が待っている?
「……笑わせるな」
「エルサ?」
部活中にいちゃついているカップルを見ただけで赤面するような奴が……、ほんの少しからかっただけですぐに襲い掛かってくるような奴が……、本当はお菓子作りが好きだけど好きじゃないと言い張ることが出来ないような奴が……こんな目に遭う?
「そんなことがあっていいはずが無いだろう!?」
カッと込み上げてくる怒りと、どうにかしないといけないと言う焦燥が胸の奥に込み上がり……多分、無意識だったかも知れない。もしくは、神の分身としての知識かも知れないが今はどうでもいい。
オレに、こいつを……意地っ張りな武士道少女を助ける力をくれ――ッ!!
本能に身を任せるように、インベントリから魔力飽和状態のポーションを取り出すと液体が満たされた容器の中へと唇を軽く歯で噛み切り、そこから零れたオレの血を中へと注いだ。すると、ポーションが銀色の光を放ち始め……それを傾けて雪火の口へと運ぶのだが、気を失っているからか……塞がれた口の端から液体は垂れていく。
「……仕方ないか」
「どうしたの、エル――えっ!?」
オレが何をするのかジッと見ていたニィナがポツリと呟いたオレの言葉を拾ったらしく、首を傾げていたが次の瞬間……驚いた声を上げた。
……何故なら、オレは自ら銀色に輝くポーションを口に含むと、そのまま気を失っている雪火の唇へと自らの唇を押し付けたのだから。
柔らかい。そんな感情も抱かぬまま、自らの唇を唇へと押し付けると……そこから舌を使って無理矢理唇を押し広げ、雪火の口の中へとオレの口の中に溜めたポーションを送り込んでいく。
当然、口の中に液体が注ぎ込まれたので、無意識の反応か雪火は口から吹き出そうとするが……それを行わせないように鼻を摘み呼吸を出来なくし、ポーションを飲み込ませた。……あ、鼻摘めばよかったんだ。
やってから気づいたことと……やらかしてしまったことに、何というか顔を引き攣らせる。
というか、ニィナからの今にも泣きそうな視線が痛い。
その居た堪れない気分を味わいながら、オレは雪火の唇から離れる。すると……
「……あ」
「うわ……」
ニィナが何かに気づいたように声を漏らしたので雪火を見る。直後その光景にオレも同じように声が洩れてしまった。
何故なら、雪火の体が銀色の光を放ち始めると……爛れてしまっていた顔と頭の皮膚が再生し始め、食い千切られて失われた右腕が根元のほうから銀色の光が腕の形を取り……繊細な腕の形を取っていくと、突如光が弾け――そこには元通りの腕があった。
……多分、これで大丈夫だ。何故だかわからないが、オレはそう確信する。
その確信と同時に、雪火の目蓋がピクピクと動き始め……ゆっくりとその目は開かれた。
「んっ……んん……っ? ここ、は……?」
頭がまだ回りきっていないのか、雪火はぼんやりとした口調で呟く。
その様子に、ニィナとオレの口から安堵の息が洩れる。
その溜息が耳に入ったのか雪火はゆっくりとこちらに視線を向け、オレと目が合った瞬間……パチパチと瞬きがされた。
……状況が、理解出来ていないのか?
そう思っているとボーっとしながら、雪火が口を開いた。
「あ、あなたがたは……何故、ここに? いや、それより……拙者は……っ! そ、そうだ!! ――――くぅ……っ!」
「あー……まだ無理しないほうが良いと思うぞ? 腕だって……」
「う、で……? そ、そうだ……拙者、拙者の腕がやつに食べられ…………え?」
オレは余計な一言を言ったらしく、雪火は顔を蒼ざめさせながら……無くなった腕に目を向ける。けれど、そこには腕がちゃんとあり、ポカンと口を開けながら……目を点にしていた。
その証拠に、「確かに、食われたはず……夢なのか? いや、あの痛みは紛れも無く本物……なのに、え? え?」と混乱しているようであった。
そんな中――、悪魔は動き出した。
「いたいぃぃぃぃぃ~~~~!! 腹へったぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~!!」
「――――――ひぃぃっ!?」
周囲の空気を震わせながら雄叫びが聞こえ、振り返るとそいつが起き上がったのが見えた。
オレと同時にその姿を見た瞬間、雪火の口からは恐怖に満ちた声が洩れたのを聞こえた。
振り返ると自信に満ちた武士道少女の姿はそこには無く、怯えきった少女の姿があった……。
両手を使って頭を抱え……その隙間から見える顔から見える瞳は気合に満ちていたものではなく怯えが宿り、その下には薄っすらと涙が溜まっているのが見えた。それにカチカチと聞こえる音はきっと歯の音だろう。
怖かったんだろうな。本当に……。
未知の体験だった上に、訳も分からないまま腕を食い千切られたのだから……。
「……ニィナ。少し、雪火のことを見ていてくれ」
「え……? いま、なんと……? せっしゃの、なまえ……?」
「う、うん……。けど、エルサは……?」
「オレは……、あいつをぶちのめす」
そう言うとオレは、ドシンドシンと足音を鳴らしながら近づいてくる男……いや、敵を前に2人の前に堂々と立つ。
背後から雪火の戸惑いを感じつつも熱い視線が送られてくるが……今は気にしない。後でちゃんと話し合うつもりだから。
だから今は……ッ!
何時かと同じようにオレは拳を握り締める……ただし、昔と違い小さく愛らしい女の子の手となった拳をだ。
それをギシリと握り締め……そこに魔力を纏わせると後ろへと引き、一歩踏み出すように大地を踏み締め前に出ると――大きく口を開けながら近づく敵の鼻っ面へと拳を打ち込んだッ!!
「はらへ――――もぎゃぐっ!?」
拳が鼻を押し潰し、骨を砕く感触が伝わる。本当に生々しい感触で顔を顰める。だがそれは一瞬のことで、深く顔へと打ち込んだ瞬間――拳の先に纏わせた魔力を一気に爆発させた!
直後、敵の顔にめり込んだ拳が爆発し、敵は爆発に巻き込まれるように吹き飛ばされて、数回ほど地面をバウンドしつつゴロゴロと転がり始め、最後に地面を擦り上げながらようやく停止した。
「な、んだ……これは……?」
その様子を見ていたであろう雪火の口から驚きとも呆れとも取れる声が背後から聞こえるが、オレは警戒を緩めつもりは無い。
というよりも、ただのモンスターとかプレイヤーならば警戒はし無いかも知れないが……目の前にいるのは、もうプレイヤーではない……邪神の先駆なのだから。
何時立ち上がるかわからないと感じながら、オレは魔力爆発の影響で痛む拳を再び握り締める。……握り締めた拳は若干痛みを放つが自己治癒のお陰で徐々に痛みは引いていく。
「立てよ。痛がってるフリしてるだけだろ?」
「ぃたいぃぃぃぃぃぃ~~~~!! はながぁ、はながぁあああぁぁぁぁぁ~~~~っ!!」
オレの言葉に反応したわけではないだろうが、ピクリとも動かなかった敵はタイミング良く敵は鼻を押さえながらゴロゴロとその場で転がり始めた。
何というか、ボンレスハムが転がり回っているようにしか見えないな。
そう思っていると、痛みが引いてきたのか敵はフラフラと立ち上がると再びこちらを見てきた。
「いたいぃぃぃぃぃ~~~~! 食べ物食って回復ぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~!!」
「普通食べて回復なんてしないっての……」
多分、雪火を狙っているのだろうと思いながら敵を見ていると、ドシンドシンと走りながら近づいてきた。
「――――ッ!!」
「し、心配……しないでください」
「な……なにをするのだ……!?」
「こうしてると、安心すると思うので……」
背後から、息を呑む気配を感じるので雪火が恐怖に怯えているのだろう。
そして、ニィナから少し戸惑いつつもなにかしているのが感じられ、同じように戸惑う雪火の声が聞こえた。
……何をしてるんだろうか?
少しだけ疑問に思ったけれど、今は振り返るつもりは無い。振り返って何時の間にかパクリと言うのは怖いのだから。
というか、もう一度拳で殴りつける? ……けど、敵だって馬鹿じゃあない。何か対処して来るかも知れない。
下手をすれば、腕を食われるかもしれない。……それは勘弁。
「……だったら、ぶった切るか」
小さく呟きながらどうぶった切るかを素早く頭を巡らせ、インベントリを検索し……オレは目的の物、とは言い難いけれどインベントリの肥やしとなっていたものを取り出す。
取り出されたそれは、始めから手で持つと腕がおかしな方向に曲がること必須といわんばかりの自身の身の丈ほどある巨大な戦うための斧だった。
昔、イベントで無料配布だったネタ装備だったけれど、使える猛者はまったく無かったんだよなこれ……。ちなみにイメージとしては昔連載していた冒険者がモンスターを退治する漫画に出てくる雷属性だったかの手のつけられない巨大な戦斧といった感じの物だ。
「そ、それは……、些か無茶が過ぎるのではないかっ!?」
「わわ……っ。お、おっきぃ……」
ネタ装備だと言うことを知っている者と知らない者の2人が後ろから声を上げるが、それを無視しながらオレは戦斧……狂戦の斧を持ち上げる。
すると、少しずつだが狂戦の斧は地面から浮き上がり始める。……同時に。
「ぐ、ぐぇ……!!」
ずしりとした重い金属の重みが手に伝わり、口からうめき声が洩れる。
だけど、持てないわけじゃあない。そう思いながら、全身に身体強化魔法をかける。
すると先程よりも斧は軽く感じられた。というかやっぱり先に使うべきだったかと、またも後悔しながら足で地面を踏み締めながら体勢を整える。
というか、振り上げるだけか振り下ろすだけだ。だから一瞬だけ力を全開にすれば良い。
そう思いながら、接近してくる敵を見る。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉかあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁしいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~!!」
「てめぇにやる菓子はねぇよ。これでも……喰ってろ!!」
大口を開けながら接近する敵を前に、オレは呼吸を止め――狂戦の斧を一気に振り上げる。
ブォンッ!と空気が斬れる音が響き渡り、敵の胴体が下から斜めに袈裟切りされ――斧の自重を加えた一撃を脳天から振り下ろした!!
ズドンッ!!という音と周囲の地面が揺れ、土煙が周囲を蔽い尽くした。
――――やったか?!
「やったかっ!?」




