ようやく気づいた羞恥心
お待たせしました。
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名前 : ニィナ
種族 : 獣人
年齢 : 15
HP : 90/834
MP : 20/254
STR : 270
VIT : 250
DEX : 314
AGI : 379
INT : 202
MND : 195
LUK : -962
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よく分からないEXスキルが発動したことを知らせるメッセージが出てしばらくすると、今度はオレの前にニィナのステータス画面が表示された。
……普通は相手のステータス画面なんて見えないはずなのに、【血の主従】というスキルの影響なのだろうか?
目の前に見えるステータス画面に悩んでいると、ニィナが不安そうな声でオレに声をかけてきた。
「エルサ……? あの、どうか……したの? もしかして、あたし……変なことしてた?」
「あ、ああ……。いや、その何でもないよ、何でも……はははっ! ニィナは悪くないから。……まあ、ちょっとだけ驚いたけど」
「んにゃ……にゃぁ~~…………♪」
眉を垂らし、今にも泣きそうな顔でオレを見上げながら不安そうにするニィナへと優しく笑いかけながら、頭をポンポンと撫でた。
すると、驚いたのかニィナの尻尾がピンと立ち……すぐにヘニョ~ンといった感じに垂れていくのが見えた。
しかも顔も尻尾と同じようにヘニョ~ン……要するに蕩けているような感じの表情だった。……なんだろう、この懐いている猫の頭とか頬とか顎や背中を撫でてるような感覚。
そう思いつつ、手を放すと名残惜しそうに離れていく手をニィナは見ていた。
「えーっと……まだ撫でてほしいとか?」
「えっ!? あ、……その……うん」
「…………あと少しだけだからな」
驚き、少し悩んだあとにニィナは小さく頷き……、オレはやっぱりダメですなんて言うことは言えずにそのまま放した手を再び近づけて撫で始めた。
……本当、猫を撫でてる気分だ。ニィナを撫でながら、オレはそう心から思った。
◆
「出来た! こんな感じかなぁ?」
「とりあえず、ちゃんとアイテムになっているか鑑定をしてみたら良いぞ。やり方はそのアイテムをジッと見たら詳細が表示されるから」
「分かった。やってみるね」
出来上がった布のハンカチを、ニィナはジッと見始める。すると少しして驚いた表情となり、頷き始めた。
どうやら見える鑑定結果に驚いているようだ。
とりあえずオレも出来上がった布のハンカチを鑑定してみるか。
手に持った布のハンカチをジッと見つめると、鑑定結果が表示され始め……オレはそれを見始めることにした。
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アイテム名 : 布のハンカチ(粗悪)
品質 : 低級(1)
説明 : 粗悪な布を用いて作られたハンカチ、汗や汚れを拭くのに適している。
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当たり前すぎるような鑑定結果を見つつ、オレは頷く。
まあ、LVが低いから品質が低いのは当たり前か。そう思いつつ、ニィナに声をかける。
「ニィナのほうはどんな鑑定結果だったんだ?」
「うーん、よく分からないんだけど……これって凄いの?」
「どれどれ……え?」
首を傾げるニィナからハンカチを受け取り、オレは再び鑑定を行うとその結果に目を疑った。
……いや、ある意味当たり前と言えば良いのだろうか?
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アイテム名 : 上質な布のハンカチ(粗悪)
品質 : 低級(2)
説明 : 粗悪な布を用いて丁寧に作られたハンカチ、汗や汚れを拭くのに適している。
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上質という文字にオレは視線を奪われた。
多分、鑑定結果に書かれている通り丁寧に縫われたから、品質がひとつ上がっているのだろう。
それを見ることで改めて丁寧な作業を行えばそれに見合う対価が帰ってくるのだということを実感した。
……そういえば、試しに作ってみたポーションの品質はどんな感じなんだろうか?
作ってすぐにインベントリに放置したポーションのことを思い出したオレは、ポーションを取り出すと鑑定を行った。
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アイテム名 : ポーション(魔力飽和状態)
品質 : 規格外(00)
説明 : 魔力が大量に含まれたポーション。傷の回復を大きく促す。
効果 : HPを80%回復、部位欠損修復
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…………あ、あるぇ? これはいったいどういうことかと思いつつ、オレはエルサになる前に作ったポーションを取り出して鑑定を行う。
するとすぐに鑑定結果が表示された。
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アイテム名 : ポーション
品質 : 低級(2)
説明 : 薬草を使って作られたポーション。傷の回復を促す。
効果 : HPを300回復
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そうだ。これが何時も見慣れたポーションの効果であり、品質も低級とか良くて中級として(1~4)までが普通の筈なんだ。
それなのに、エルサとなった後に作ったポーションはどういうことだ?
悩みつつもオレは2つのポーションを見比べながら、ある一文に漸く気が付いた。
魔力飽和状態、……要するにこの一本の中に限界ギリギリまで魔力が込められているということだろう。
そういえば、馬鹿みたいにMPを消費して作ってたよなぁ……、ってことは魔力を注げば色々と効果が生まれたりする可能性があるのか?
思い出したこととそこから導き出される新しい可能性に頭を痛めつつ、オレは規格外となったポーションをインベントリの中へと戻す。……いざとなったときの隠し玉として取っておこう。
そんなオレを不思議そうにニィナは見ていた。
「エルサ、どうしたの? 何だか変なことでもあった?」
「あー、うん。ちょっと色々と面倒なことが起きそうな可能性を知ったって所かな……っと、ニィナ、少し質の良い布を出すからそれでワンピースでも作ってみるか?」
ニィナに話しつつ、やるべきことを思い出したオレはテーブルの上に先程のものよりも厚手で質が3段階ほど上の……中級の布を置いた。
そんなオレの言葉にニィナは首を傾げつつ、どういうことかといった様子で見てくる。
なのでオレは率直な感想を告げることに決めた。
「……ニィナ、正直に言おう。今のその格好、それで街中に出たりなんてしたら……あの時以上に人の視線に晒されることになるぞ?」
「………………え?」
重々しい現実をオレが告げると、首を傾げてきょとんとした表情をしていたニィナの表情がサーッとでもいうように一気に蒼ざめ始めた。
そして、ニィナはすぐに置かれた布を手に取るとガイドを参照しながらなのか、それともガイドを参照していないのか分からないけれど、ものさしと木炭を手に作業を始めた。
何というか鬼気迫るその速度に、オレは驚きつつもそれほどまでに、追われていたのが怖かったんだろうなぁ……と心から思った。
……とりあえず、ニィナが作業している最中、オレも何かしておくか……そう思いながら、今出来ることを考えるのだった。
――――― ニィナサイド ―――――
――あの時以上の視線に晒される。
エルサの一言を聞いて、ワクワクとしていたあたしの頭がサーッと潮が引くように冷静になってきた。
実際、あたしが今どんな顔をしているのかは分からないけれど、エルサが困った顔をしているから多分蒼ざめているのだろう。
そして、そう言われてようやくあたしは今着ている服装が少しだけエッチな感じだということを認識し始めた。
同時にこの服を着ていて、笑顔で似合うかとエルサに訊ねたあたしに対して何だか余所余所しかった理由を理解した。
『う~っ! 恥かしい、恥かしいよぉ~~っ!!』
頭の中で物凄く叫んで、ゴロゴロと地面を転がりまわるけれど心の中だから問題は無い……はず?
けれど顔は茹蛸みたいに真っ赤になっているようで段々と熱くなるのを感じながら、あたしは布を引き寄せるとハンカチを作ったときと同じように目の前に画面が表示された。エルサが言っていたけど、あたしがこの布で作れる物の一覧が表示されるらしい。
その中を見ると、布のワンピースがあったので迷わずそれを押した。
すると、あたしのサイズに合わせているのか分からないけれどガイド線が表示されたので、あたしはテーブルに置かれた木製のものさしと木炭を手にしてシャッシャと走らせて黒い線を描いていく。
……けど、服って普通に作ると難しいよね? ワンピースも難しいと思うのに、何で初心者でも作れるんだろう?
というか、こんな長方形でどうやってワンピースになるんだろう……?
心の中でうーんって唸っていると、あるワンピースのことを思い出した。
そのワンピースは家庭科部の活動で顧問のおばあちゃん先生が教えてくれた物だったけど、たしか……ちょくせんだち、っていう作りかただったはず。
おばあちゃん先生の説明だと元々は100年ぐらい前に作られたかんたんなワンピースの作りかただって言ってたけど、50年前にテレビで再現されたからまた人気が出てきた物だって言ってたよね。
『ワタシが若いころに、さいブレイクをしたから原宿ファッションで時折見かけたもんだ……』
当時のことを思い出していたのか、おばあちゃん先生は遠い目をしながらあたしたちにそう答えてくれたのが印象的だった。
あ、ちなみにおばあちゃん先生っていうのは愛称だけど、ほんとうにおばあちゃんで『しょくたく』の先生だって言ってた。
そんなおばあちゃん先生に教わって、家庭科部のみんなでワンピースを作ってみたんだよね。そのときはみんなでキャアキャア言って楽しく作ってたなぁ……、懐かしいな。――とと、いけないいけない! 早く作らないと!
ボーっとしすぎていたことを反省しつつ、あたしはハサミを手に取るとジョキジョキと布を切り始める。
……あ、ハサミを通してようやく気づいたけど、この布ってエルサが言ってたように質が良いんだ。だって、ハンカチを作った布よりもスベスベとした触り心地で切り心地もハサミの間に挟まることが無いのだから。
けど、それって高いってことだよね? この世界のお金の価値はまだ分かんないけど、この布を平然と出してくれたエルサに感謝しないと。
そう思いながらエルサを見ると、何か金属の板をペンチのような物を使って加工していた。何してるんだろう?
集中しているように見えるけど……邪魔したらダメだよね。
心の中で、ありがとうと思いながらあたしも自分の作業を再開する。……切り出したのだから今度は、腕を出すための袖口と頭を出すための首の周り以外を縫わないと。
待ち針でずれないように押さえると、用意されていた糸を針に通して縫い始めていく。
スッと針が布に吸い込まれ、指を使って針と布をクイッと動かせば針は再び表へと顔を出す。……ハンカチのときは実感が無かったけど、久しぶりに縫い物をしているんだって言う実感がようやく感じられてきた。
料理に、裁縫、洗濯、家庭科部と言う名前だったから、楽しく色々とやれてたけど……同じ部活の子が『花嫁修業』って言って楽しんでたなぁ。
『花嫁……結婚、かぁ……。元気だったら、あたしはどんな人と結婚してたんだろうなぁ?』
未来の旦那様~♪ って言って楽しんでた子のことを思い出すけど、あたしは未来の旦那様って思い浮かばなかったなー。
懐かしい中学時代を思い出しつつも、チクチクと縫うと瞬く間に側面の片側は縫い終わったので今度は反対側を縫い始めることに。
でもそれもだけど、あたしはこれからどうなるんだろうなぁ? ゲームの世界っていうことだから、あたしも戦ったりするのかな? ……うーん、実感が湧かないかも。でも、戦うときになったら戦うん……だよね?
もしかするとあの神さまが言ってた色々って戦いかたも覚えるように、ってことなのかなぁ? っと、縫い過ぎたらダメダメ。
糸切りバサミで糸を切って……っと、次に肩のほうを縫うけど……ノースリーブなんだよね。……もう少し縫えるようになったらもうちょっと可愛いのを作ってみようかな。
そう思いながら、両肩を縫い終え……裏返すと見た目が普通な白い布のワンピースが完成した。
「うん、良い出来ッ♪」
「ああ、上手に出来ているし、見た目も可愛いな。……でも、忘れてるぞ」
夏に着たらぴったりな感じに出来上がったから、あたしは満足しているのだけれどあたしの声を聞いて顔を上げたエルサも可愛いって言ってくれた。……忘れてること?
何を忘れてるんだろう。そう思いながら首を傾げていると、ワンピースのお尻あたりをトントンと指で叩いてきた。……あ!
エルサの仕草でようやくあたしは尻尾穴を開けていないことに気づいた。
なのであたしは、恥かしい気持ちを抑えつつも急いでハサミを手に取るとチョキチョキと十字に切れ込みを入れて、飛び出した部分の布を切り取るとすぐに丸い穴から解れないように針を通して周りを縫っていった。
……うん、これで良いよね?
今度こそ出来上がったワンピースにあたしは満足しながら頷くと、それを装備するためにいんべんとりの中に入れようとしていた。……あ、いちど鑑定をしたほうが良いかな?
そう思いながら、出来上がった布のワンピースをジーッと見るとその上に鑑定結果が表示された。
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アイテム名 : 山羊毛布のワンピース
品質 : 中級(4)
説明 : 山羊の毛で生成された布を用いて作られたワンピース、獣人が着るための工夫として尻尾穴が作られている。
製作者 : ニィナ
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この布って、山羊の毛を使って作られた布だったんだ。
鑑定結果を見て、あたしはなるほどと思いながらワンピースを着ることにした。
「えっと確か、こう……だったよね?」
エルサに教えてもらったやりかたで装備を変更していくと、あたしの服装は可愛いけれどちょっとエッチな衣装から今作り終えたワンピースへと変化した。
フワッとスカート部分が翻り、体も少しだけ楽になったのを感じるから……少し窮屈だったのかも知れない。ちょっとだけ可愛かったのになぁ……。
そんな風に残念に思っているあたしへと、エルサが何かを差し出してきた。
「エルサ?」
「ワンピースだけだと、寂しいだろ? こういうのも作ったから、良かったら付けてくれ」
そう言ってエルサがあたしに差し出してきたのは、あたしが作業している間に作った物なのだろうけれど……金属で作られた花の形をしたブローチだった。
受け取ったそれを、マジマジと見つつ……プレゼントをされたということを段々と実感し始めていくと、嬉しさと気恥ずかしさで顔が熱くなってくるのを感じた。
ちょっと変な顔をしているかも知れない。けど、エルサにありがとうって言わないと。
そう思いながら、あたしはエルサを見ると笑顔でお礼を口にした。
「ありがとう、エルサ……! あたし、凄く……すっごく、嬉しい! ほんとうにありがとう、エルサ!!」
「よろこんでくれたなら良かった。いきなりだったし、好きな物じゃなかったらって思ったんだけど……」
「ううん、そんなこと無い! だって、プレゼントなんてすっごい久しぶりだし、その……エルサがくれた物だから!」
照れながら作った理由をエルサは言うけど、あたしは頬を染めながらエルサの作ってくれたブローチを優しく両手で包み込む。
ああ、嬉しい……凄く、凄く嬉しい……! この気持ちはなんて表現すれば良いのかなぁ……?
――きゅるるるるるる~~~……!
そうだ。まるで、まるでおなかの音のように…………え?
あ、れ……? いま、おなかの音が……鳴ったよね? 何処から? ……あ、あたしのおなかから……。
ギギギッと恐る恐るエルサを見ると、凄く気まずそうにあたしを見ないようにしていた。
「あ……あ……あ…………にゃあああああああああ~~~~~~っ!!?!!?」
恥かしさで顔が真っ赤になって熱くなるのを感じながら、あたしは力の限り悲鳴を上げていた。
は、恥かしい~~~~っ!!
ご意見ご感想評価お待ちしております。
熱が冷めると一気にテンション高かったときの自分がどれだけ恥かしかったかって分かりますよね。
とりあえず、次回はちょっと別視点になるかも知れません。もしくはチャーハン作るよ!(AA略)




