作業部屋にて
お待たせしました。
なんとしてでもニィナ用の普通の服を創るべきだ。
そう決意したオレは悪戯悪魔の勝負服を着てご満悦な彼女へと声をかけることにした。
だが、どうやって話題を切り出そうか……。いや普通に切り出すべきか?
「な、なあ、ニィナ?」
「ん? どうしたの、エルサ?」
「楽しんでいるところ悪いけどさ、ちょっと作業部屋で簡単な服を創ろうと思うんだけど……どうかな?」
「作業部屋? ……んー……良いよ。着替えも大事だと思うしっ」
少し言葉を選びつつ言うと、ニィナは少し考える素振りをしてから頷いた。
……というか、本当にこれを常時着ること確定なのか?! い、いや、多分まだ恥かしいって感情が薄れているだけ、薄れているだけだって思いたい……!
そう思いつつ、彼女を連れてオレは一階に降りて作業部屋へと移動をした。
作業部屋に入ると独特な草のにおいが鼻を突き、オレは顔を顰めた。だがニィナは……。
「な、何このにおいーっ!?」
「あ、ごめん。ポーションを作るために薬草を潰したにおいなんだ。……大丈夫か?」
「うぅ……、は……鼻がギューンってしたよぉ……」
「……とりあえず、マスク渡すからこれでもつけて」
「うん……」
インベントリから布製のマスクを取り出すとニィナへと差し出し、彼女はすぐにそれを装備した。
……コスプレっぽい衣装にマスクって、違和感バリバリだな。
そんなことを思いつつ、換気用の小窓を開け放ちにおいを飛ばすことにしながらホームアビリティの設定を行うことにした。
(――ホームアビリティ!)
――――――――――
・鑑定 : LV5
・調合 : LV5
・鍛冶 : LV6
・製薬 : LV4
・細工 : LV3
――――――――――
表示されたホームアビリティ設定画面を見ながら、とりあえず……製薬を裁縫に変えることにした。
けど、レベル上げていないから低いんだよなぁ……。
そう思いながら、変更したホームアビリティを確認する。
――――――――――
・鑑定 : LV5
・調合 : LV5
・鍛冶 : LV6
・裁縫 : LV2
・細工 : LV3
――――――――――
……うん、一応LV1ではないけど毛に足が生えただけのレベルだ。
良いもの創れると良いけど……。
そう思っていると、視線が気になりニィナを見ると興味津々といった様子でオレを見ていた。
「どうしたんだ、ニィナ?」
「え?! あ、えっとね……、エルサ何をしてるのかなって思って」
「ああ、これはホームアビリティの設定を行ってたんだ」
「ホームアビリティ?」
なにそれ。そんな感じの様子を見せるニィナへとオレは説明を行った。
その説明を聞いて、彼女もホームアビリティ設定画面を表示させたらしくおっかなびっくりと虚空に指を這わせ始めていた。
なので、オレは説明を続ける。
「多分、ニィナのホームアビリティ設定画面は5つとも空欄だと思うから、設定画面の『・』を押すんだ」
「えっと、こう……かな? ――わっ! いっぱいある!!」
驚くニィナの様子から『・』を押したのだろう、そこを押すとホームアビリティ一覧が表示される。
ホームアビリティは始めはすべてLV0から始まり、選んだホームアビリティを使いこなしていけばLVは上がっていくのだ。
要するに可能性は用意されていて、伸ばすも伸ばさないも自分の気分次第というものだ。
「一覧の中から、ニィナが覚えてみたいと思うホームアビリティを5つ選んでみてくれ。そうしたら初めの作業は完了だから」
「う、うん。分かった! ……うーん、けどどれが良いかなぁ?」
「その場の勢いで決めるって言うのもありだぞ? それに合わなかったら変えていって、最終的に自分に合う物をというのもありだし」
「そっかー……。うーん……」
……どうやらオレの声は聞こえていないようだ。
オレの言葉に生返事を返しながら、ニィナはジッと前を見つめている。設定画面をじっと見ているのだろう。
どんなホームアビリティを設定するのか気になるけれど、その間にオレも裁縫の感覚を取り戻しておかないとな。
そう考えたオレは裁縫用の長テーブルを前に椅子に座ると側に立てかけられていた布を取り出す。
布の質は悪いけれど練習用としては十分な物だ。
そう思いながら、オレは布の前に表示されているリストに視線を移す。
そこにはこの布と自分が持っているレベルで作れるアイテム一覧が表示されていた。……所謂ガイド機能なのだが、正直あって助かる機能だ。
ちなみに作れるアイテム一覧はこんな感じだった。
――――――――――
布のワンピース(粗悪)
布のハンカチ(粗悪)
布のタオル(粗悪)
布のシャツ(粗悪)
布のトランクス(粗悪)
布のパンツ(粗悪)
――――――――――
……粗悪なのは布の質が悪いからだろう。
そして、LVが低いからかやっぱり作れる物が少なかった。
とりあえず、久しぶりに裁縫をすることだしリハビリがてらハンカチを作ってみることにした。
リストの布のハンカチ(粗悪)をタップすると、布の上にどう加工を行えば良いのかというガイドがうっすらと表示され始める。
オレは長テーブルに置かれた木製のものさしと木炭を手に取ると、うっすら表示されたガイドにものさしをあてて木炭を一気に走らせる。すると木炭は黒い線を布に刻み込んで行く、それを数回繰り返し……布の上には黒い四角形が作られた。
木炭とものさしを置くと今度は布を3枚ほど重なるようにして折り畳み、待ち針でずれないように固定してから断ち切りバサミを手に取る。
「……やるか」
小さく呟いて、オレは布を手に取りハサミを開いた。
ザリッという金属が擦れ合う感触を感じながら、ジョキジョキと断ち切りバサミを開いて閉じてを繰り返しながら四角形が出来上がっていく。
最後の繋がりを切り終えると、3枚に重ねられて四角に切り取られた布はテーブルの上へと落ちていった。
えっと、次は重ねたまま布の周りを糸で縫えば良い……んだよな?
そう思いながら、オレは糸を通した針を手に取り作業を行おうと――
「……えっと、どうしたんだニィナ?」
「ホームアビリティの設定が一応終わったからどうしようかって思ってたら、エルサが何かしてるから気になって見てたの。……見てても良い?」
「別に良いけど……、あまり面白い物じゃないぞ? というか、どんなアビリティにしたんだ?」
「ありがと! それでアビリティはね、『栽培』と『裁縫』と『木工』と『料理』にしたんだけど、最後は何にしようか悩んでるんだー……」
オレの言葉にお礼を言いつつ、設定したホームアビリティを口にしていくが5つ目で悩んでいるようだった。
……だったら。
「じゃあ最後は『鑑定』を入れておけば如何だ? これがあればアイテムの詳細が分かるようになるから」
「そうなの? じゃあ、そうするね!」
そう言うとニィナはすぐに設定画面を操作しているのだろう、空中で指をクイクイと動かし始めている。
とりあえず……設定が終わったらニィナにも何かやらせてみるか?
そう思いながら、ニィナに声をかけた。
「ニィナ、良かったら一緒に裁縫……するか?」
「いいのっ!?」
「あ、ああ、良いけど……どうしたんだ?」
あまりの驚きっぷりに驚きつつも、オレは頷きながら興奮していた理由を尋ねた。
すると、ニィナは恥かしそうにしながら照れた笑いを浮かべる。
「あのね、あたし……他の子と一緒に同じことをするのって久しぶりだから、嬉しくて……えへへ♪」
「そうなのか……。それじゃあ、やろうと思うけど……基本的に裁縫は椅子に座ると布の前に今のLVと布の品質で作れる物が表示されるから、それをタップするとガイドが表示される。それを目印にして作業を行えばいいんだけど、大丈夫か?」
「うん、やってみるね。……わ、本当に薄っすらと光って見えるっ!」
何を選んだのかは分からない。けれどニィナは目の前の光景に驚きつつ作業を始めた。
ついでに言うと、オレが行っていたのも見ていたのか、それともやっぱり女の子だから裁縫を知っているのか分からないが……初めからいきなりハサミを使わずにきちんとものさしを使って木炭を使って直線で線を引き始める。
そして瞬く間に四角の形をした黒い線を3つ引き終えると、ハサミを手にしてチョキチョキと切って行く……って、何だか速くないかっ!?
ガイド通りに行っているはず……だよな?
驚いた表情を浮かべていると、視線に気づいたニィナが恥かしそうに頬を赤らめながら、照れた笑いを浮かべた。
「ど、どうしたのエルサ?」
「いや、何だか妙に手馴れてるなと思ってさ……」
「あ、うん……。中学時代は家庭科部に入ってたから、料理とか裁縫は普通に出来るんだよね」
「そ、そうなんだ」
呆気に取られつつそう返事を返すとニィナは瞬く間にオレが今行おうとしている段階まで進んで行った。
そこで漸く彼女が作ろうとしてるのはオレと同じハンカチであることに気が付いた。
……元々の生活で培った技術が高ければ、ホームアビリティの作業の効率は上がるものなのだろうか? そう思いつつ、オレはガイド通りに針を布に通していく。
チクチク、チクチクと針が布を走るように通っていき、オレたちは黙々と作業を行う。
……普通、普通に作業を行っているはず。それなのに、何というか……気まずい気分になってしまうのは何故だろう?
いや、多分オレが勝手にそう思ってるだけなのだろう。何故なら、ニィナのほうは久しぶりに女友達と一緒に遊べるのが嬉しいからなのか鼻歌混じりに縫い物を行っているのだから……。
そして、そんな風に余所見をしていたからか……オレは――。
「痛っ!?」
チクリとした痛みを指先に感じ、縫いかけのハンカチから手を引くと指先に紅い液体が小さな珠のような形に出ていた。
どうやら針で指先を刺してしまったらしい。……痛い。
「エルサ、大丈夫? 傷バンを用意しないと――って、無いんだった。ここだとどうするの?」
「ん? ああ、この世界だと普通にプレイヤーが持つ治癒能力とかを信じたりポーションを振りかけたり、だな。ってことで待ってれば治るから――って、なにごとっ!?」
ニィナにそう言っていたオレだったが、彼女は突然オレの指を咥えていた。
その行為にオレは驚き、ビクッと震えながら口から指を離した。
「ん――ちゅ、ご……ごめんね。針刺して指から血が出たらこうやって吸うのが一番って聞いたから……」
「そ、そうだとしてもいきなりな上に、許可無くやったらダメだろっ!?」
「そ、それもそう……だよね……」
バクバクと心臓が高鳴る中で、オレが怒鳴るとニィナは落ち込んだのかシュンと耳と尻尾を垂らせながら泣きそうな顔になっていた。
……こ、これは少し……言い過ぎたか? けどやったらいけないと思うものはちゃんと口に出しておかないいけないと思うんだよな。
「っ!?」
そう思っていると、不意に頭の中にピコンというシステム音が鳴った。今度は何事?
いったい何が起きたのかと思っていたが、システム音の詳細が目の前に表示されてオレは目をパチパチと瞬かせてから……もう一度表示されている画面を見直した。
――――――――――
EXスキル【血の主従】が発動しました!
主人:エルサ
従者:ニィナ
以降、従者には主人のステータスの10分の1の恩恵が与えられます。
――――――――――
……えっと、これ、どういうこと?
血の主従? なにそれ? しかも、オレのステータスの10分の1がニィナのステータスに上乗せされる。と言うことだよな?
目を白黒とさせるオレに対してニィナは何が起きたのか分かっていない様子だった。
ニィナも階段を昇り始めることになりました。(異常者の




