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再会は悲鳴と共に……。

お待たせしました。

ひろいんのきかんです。

「お、船が来たみたいだな」


 ブシドーたちが地球に帰還(ログアウト)してから数日が経ち、時間的に向こうのほう(地球)でメンテが終了したであろう数時間後……雲ひとつ無い晴天と青い海を窓から眺めていると、あの日オレたちがルーツフ地方に来るときに乗っていた船よりも少し大きめのサイズの帆船がゆっくりと近づいてくるのが見えた。

 多分、というか間違いなくあの帆船にはログインしたプレイヤーたちが乗船しているんだろうな。

 そう思いながら、帆船が接岸するのを見ているとオレの予想通りプレイヤーたちが大勢飛び出してくるように下りてくるのが見えた。


「新大陸公開初日だからだろうけど、人が多いなー……あ、落胆してる」


 主に女エルフとキャッキャウフフが出来ると言う夢と希望を抱きながら新大陸に移動したであろうプレイヤーたちが『orz』となって凹んでいた。

 まあ、お目当ての女エルフが全然居なくて、男のエルフ助けを求められたのだから当たり前だろうか。

 一応そう言う需要を求める人は熱い視線を送っているように見えるが、きっと気のせいじゃないだろう。

 そう思っていると港のほうから怒りが篭った声が轟いた。


『『『おのれ、七つの大罪の【傲慢】めっ!! ぶっ殺すッ!!』』』


 きっと間近で見ると鬼のような表情で血涙が流れてたりしているんだろうなー、とか思いながら窓の外を見ていると袖を引かれ、そちらを見ると怯えたようにイーゼがこちらを見ていた。


「主よ、何と言うか……あいつら怖いのだ。怖い気配がプンプンするのだ……」

「あー、うん。怖いよな、ああ言う加減を知らない奴らってさ……。けど、こう言う奴らが増えると思うからこれからは覚悟したほうが良いぜ」

「っ!? わ、わかったのだ……。頑張って我慢するのだ……」


 オレの言葉に一瞬嫌そうな顔をイーゼはしたが、すぐに耐えるように下唇を噛みつつ頷いた。

 うわ、すっげぇいやそう……。

 あまり見せないレアな表情をマジマジと見ながら、そんな感想を抱いていると所々から黄色い声……と言えば良いのか分からないけど今度は喜びと興奮が篭った雄叫びが上がった。


『『『こ、米だぁぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!』』』

『オムライスが、オムライスが作れるぅぅぅぅぅ!!』

『日本酒がつくれるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』

『炒飯、ちゃーはんがつくれりゅううううううう!!』

『ピラフさま、ピラフさま、ピラフしゃまあああああああ!!』

『パエリア、リゾット、お餅にチマキぃぃぃぃぃぃぃーーーーっ!!』

『香辛料が見つけることが出来たら、カレーだ。カレー!! 香辛料は何処だーーーー!!』


『『『『ひゃ――――っは~~~~~~~~~~!!!!』』』』


 露店で売られている米を見つけたプレイヤーたちが狂喜乱舞しているようだ。

 というか、お前らもやっぱり米に餓えていたのか……。


「主…………」

「あー、うん。初めての土地と向こうでは日常で味わっているけど、この世界に無いと思っていた物を見つけたんだ。興奮しないはずが無いさ……。あのときのオレもそうだっただろう?」

「うん、そうなのだ……」


 やっぱり怯えるイーゼにそう宥めながら頭を優しく撫でていると、ゾクリと背筋に寒気が走った。

 …………なんだ? この、寒気は……?


「どうしたのだ主?」

「あ、い、いや……何だか今物凄い寒気が来たんだ……」

「風邪なのか? それだったら温かくして寝るのが一番なのだ!」


 寒気の正体、それはいったいなんだろうかと思いながら、ベッドに眠ることを勧めるイーゼに誘われるがままベッドに向かおうとするオレだったが……窓から離れようとするオレは捉えてしまった。

 視界の端に映るその白と黒の斑の髪色を――。

 その髪色とピョコンと生えている耳が遠くから見えた瞬間、見間違えかと思いバッともう一度振り返ると……居た。


「ニ、ニィナ…………?」


 ポツリと小さく呟いたつもりだった。それなのに、バッと遠目から見える彼女は顔を上げこちらを見てきた。

 気のせい、そう思いたかったが……どうやら気のせいでもなければ直感でもないようだ。

 事実その瞳は300メートルほどは離れているだろうオレの姿を完璧に捉えており、まるで猫というよりも虎といった印象を抱きながら爛々とした瞳を向けていた。

 見なかったことにして、パタンと窓を閉じたい。……が、閉じたらきっと後が怖い。

 そう思いながら、窓を締めようとしている手を押さえ、オレは無理矢理微笑むと彼女に向けて軽く手を振った。

 その瞬間、物凄く嬉しそうに彼女は飛び上がり、吼えた。


『にゃ~~~~~~~っ!!』


 いったい何事かと周囲の視線がニィナに向けられ、ギョッとしているプレイヤーが数多く居るのが見えたが……そんなことは知るものかとでも言うかのごとく、ニィナは一気に駆け出した。

 その姿はまさに一陣の風とでも言うようで、目指している場所はオレがいるこの建物一直線だった。

 ――って、危ない、ぶつかるからっ!!

 人通りが多い道を一直線に付き進む彼女に声をかけようか悩んだ瞬間、目撃した光景に間抜けな声が洩れた。


「は、え…………?」


 擦り抜けた。

 そう、擦り抜けたのだ。……まさか、肉体を失っているっていうわけじゃないよな?

 そう思いながら、近づいてくるニィナを見ていると気づいた。


「こ……これって、一瞬で素早く移動しているから擦り抜けているように見えているってことか……。ニィナ、いったいAGIどんだけだよ……」


 まるで昔流行っていたというアメフト漫画の悪魔な亡霊だったかそんな感じの技名の走りかと思いながら見ていると、ようやく彼女の表情をまともに視認出来た。


「…………あかん、女性が。少女がしたらいけない顔をして近づいてくる……」


 ポツリと呟きながら、トリップというかアヘッてると言えばいいのか分からない表情を浮かべながら近づいてくるニィナを見ながらオレは呻き声を上げる。

 というか、神さま。矯正しようとしてたんじゃないのかっ!?


「神さま、どういうことか説明してくれっ!! どうせ見ているんだろっ!?」

「…………あー、はい……。見ています。そして、もうしわけございませんでした…………」


 オレの問い詰める声に反応するように何時の間にか神さまはオレの隣に立っており、素直に頭を下げてきた。

 素直に頭を下げている時点で、もう嫌な予感が止まらない……。


「ニ、ニィナは……、いったいどうしたんだ?」


 地味に動揺しているらしく、オレは声を振るわせながら神さまに問いかけた。

 すると、顔を上げた神さまはフッと何処か遠くを見るようにしながら……、


「悲しい、事件でしたね……」


 と言った。――と言ったじゃねぇよ!

 いや、だから本当何があったのっ!? ねえ、ちょっと何でそんな遠くを見るような瞳をしているのっ!?

 そう思いながら、神さまの肩を掴んで揺するも、やっぱり遠くを見ていて……。ただ一言……。


「あいがなせるわざ、だったんですよ……」

「ちょっとぉぉぉぉ~~~~っ!? だから、本当何があったんだよぉっ!?」


 ガックンガックンと、神さまはこれが罰であるという風に揺すられていたが……イーゼの言葉に部屋の温度は下がることとなった。


「主、主が気にしている人物が家の中に入ったのだ」

「…………え、マジ?」

「マジなのだ」


 コクリと頷くイーゼを見ていたオレだったが、耳を澄ますと……ギィギィと階段を上る足音が聞こえた。

 家の中には現在、オレとイーゼぐらいしか居ないため、誰が歩いているのか分かる。

 というか、何で許可が無いのに入れたんだっ!?


「あいがなせるわざです……」

「その愛重いから! 本当いったい何があったのニィナにっ!?」

「あとはじぶんでしってください、だから私は帰ります……」

「駄目だからな、一人だけ逃げようとするの駄目だからな?!」

「は、放してくださいっ! あの子は、今のあの子は見ただけでもSAN値減少するんですから! ダイスロールで常時ファンブルするぐらいなんですからぁ!」

「いや、SAN値減少にファンブル無いって話だろっ!? それ以前にそのルール知らないくせに知っている風に言うんじゃありませんっ! というか、それぐらいやばいのか今のニィナはっ!?」


 必死に逃げようとする神さまを拘束しながら問い詰めると、本当にヤバイ固まりになって居るということが理解出来た。

 そんなオレたちをイーゼは分かっていないのか首を傾げている。あ、可愛い、癒される……。

 そう思っていると、廊下を歩く足音が妙に聞き取れて、更には呟く声が響き渡っていた。


『エルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサエルサ』


「「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」」


 ガチガチと歯が鳴る。恐怖だ。アニマキメラとか無数のモンスターに囲まれていたときも感じることが無かった恐怖が近づいてくる。

 恐怖のあまり神さまと抱きつ抱かれつつ、目尻に涙が浮かぶ始める中……遂にニィナが扉の前に来てしまった。

 ごくり、と喉を鳴らしながらニィナが来るのを待ち構えていたが、彼女にもまだ理性という文字は残っているらしく、扉がトントンと叩かれた。


「ひゃ、ひゃい……?」

『エルサ、あたし、ニィナだよ。エルサに会いに来たから、入っても良いかな?』

「え、えっと……、ちょ、……っと、待ってくれる……か? いま、立て込んでて……」

『そう……。わかったよ。だったら待ってるから』

「あ、ああ……」


 よ、よし、時間は稼いだ。……これからどうするか。

 そう思いながら、現状を打破すべく2人を見る。

 イーゼは「友達なのか? だったら、招くのだ!」と純粋に言っており、神さまは『私関係無いです、だから帰してください!』と目で訴えかけていた。

 とりあえず、イーゼはストップさせるのだが……、神さまテメーは駄目だ。あんたが元凶でこうなったんだろう?

 だから、あんたはどうにかする手段を考え……ん、どうしたんだ?


「あ、ああ……、あああ…………っ!?」

「おー……、すごいのだ……」


 神さまは何かを見た。そんな感じに恐怖に目を見開いており、イーゼは感嘆するようにある方向を見ていた。

 ……って、2人とも同じ方向見ていないか? いったいそこにな、に、が…………。


 目が――合った。


 そして、その目が細くなり、口元が笑った瞬間――。


「我慢出来なくて、――――来ちゃった♪」




 ……ルーツフ地方解禁初日、村全体に奇妙な雄叫びが響き渡り、掲示板を騒がせたのだが……当のオレは知るよしがなかった。

え、ヒドインの帰還ですって?

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