言葉という名の核弾頭
お待たせしました。
おいこら、このくそごっど……いったいどういうことなんだ?
ジトッと淀んだ瞳を側にいるクソゴッドに向けながら、動けないオレはそう心で問いかける。
問いかけれているものが何であるかは理解しているようで、このクソゴッドは吹けもしないのかテンパッていて吹けないのか分からないが口を尖らせながら「ひゅーひゅひゅー……」と部外者を装い始めていた。
そして、時折腹……と言うか臍に生温かい息と人肌が触れてしまい、何とも言えない声が洩れる。
「――ひゃっ!? ちょ、やめ、ニィナっ!!」
「んふぅ~……! エルサのにほいぃぃぃ~~♪ エルサの暖かい肌ぁ~~! あぁ、生き返る。生き返るよぉ~~~~!!」
「やっ、ちょっ! 生き返るとかじゃなくて、落ち着いてくれ、ニィ――ひゃぁんっ!?」
ふんすふんす、もぞもぞ。といった感じに鼻息荒く、顔を腹に押し付けながらオレをベッドに押し倒しているニィナに止めるように言うのだが……まったく話を聞いてくれない。
あの後、待っていると言いながらも、自制が出来無かったニィナは部屋の中に無音で入っており、ホラー映画のようなそのシーンにオレは恐怖のあまり悲鳴を上げた。
そんなオレの悲鳴を他所に、ニィナは飛びかかるようにしてオレに抱きつくと……この2ヶ月間会えなかった寂しさを晴らすと言わんばかりにベッドにベッドに押し倒してきた。
そしてくんかくんか、すーはーすーはーとにおいを嗅ぎ始めることから始め、鼻と舌を使いながら器用に上着を捲くれさせて行き……今に至った。
しかもニィナ自身、暴走して興奮しているが非常に嬉しいようで尻尾をフリフリとさせながらこの行為を行っている。
「わわわっ、主が凄いことになっているのだ!」
「駄目ですよイーゼさん、子供は見ちゃ駄目ですから……。さ、お姉さんといっしょにこの部屋から逃げ――こほん、抜け出しましょう」
行われている行為、それはいけない行為だとイーゼも理解出来ているようで、顔を赤く染めながら両手でその顔を隠しているが……指の隙間から見ているのが分かる。
そんな彼女と共に部屋から逃げ出そうとする優しく微笑むクソゴッド……。
「おいこら待て、何ちゃっかり逃げようとしているんだよっ!?」
「ちっ……、私は関係無いんですから逃げても良いじゃないですかっ!」
「いやいや、関係無いどころかこのニィナがぶっ飛んでる元凶のひとつだろ!? どっぷり漬かってるだろっ!?」
「私は関係ありませんっ! 現場の人間が悪いんですっ!!」
「さ、最悪な上司だっ! このクソゴッド最低だぁ!!」
「誰がクソゴッドですかこのお馬鹿!」
呼び止めから始まる互いの罵り合い、何と言うか醜すぎるものである。
けど仕方ない、仕方ないのだ……! 今このまま逃げられると有耶無耶にされた挙句、ぶっ壊れすぎたニィナしか残らないに違いないっ!!
というか、本当誰か止めてくれ! このくんかくんかすーはーすーはー、ペロペロチュバチュバとしているニィナをっ! 少しだけ慣れてきて変な声は洩れる心配が無くなったけど、変な属性を手に入れたくは無いんだよオレはッ!!
「んー……今更だが主、こいつは主とどういう関係なのだ?」
ふと、クソゴッドに連れられて部屋の外へと出ようとしていたイーゼが首を傾げながら空気を読まない質問を投げ付けてきた。
……その一言にオレを堪能していたニィナがピクリと反応した。……なんだろう、いやなよかんがするぞ?
「ある、じ……? 主って、ご主人様……ってことだよね? ねえ、エルサ? 神さまが居ることは分かるんだけど……この子は誰なの?」
「ニ……ニィナ……、さん……? あの、ちょっと……?」
顔を上げオレを見つめるニィナの瞳は黒く淀んでおり、見られているだけでも精神が可笑しくなりそうな気分になるというのに……感情が篭っていないような声での問い掛けでますます恐怖を抱いた。
あ、これやばいやつだ……。
直感でそう思っていると、目と目が接触するのでは無いかという位まで彼女が近づいて……オレを見つめる。
怖い怖い、光が宿っていない瞳は超絶怖いからっ!
「ねえ、答えてよエルサ。この子は誰なの?」
「あ、あの……それは、その……」
「……エルサさん、あなたの死は無駄にはします。だから安らかにお眠りください……」
汗がダラダラと吹き零れ、心臓がドッキンドッキンと脈打っている中、オレはどう返事を返すのが正解なのかと頭の中でグルグルと質問の答えを必死に見つけようとする。
そんなオレの状況を楽しんでいるのか分からないけれど、このクソゴッドは両手を合わせて合掌をする。しかも、死を無駄にするって最悪じゃねぇ!?
そう思いながら、クソゴッドに非難の視線を送りつけるも……分かっているのかやっぱり吹けもし無い口笛を吹こうとする。……ああ、やっぱり口笛吹けないなこいつ。
……現実逃避している場合じゃない、けどニィナにどう言えば良いんだ?
終わりの見えない血反吐吐いても続けるマラソンを走らされている心境の中で、神は居た。
「我はエルフのイーゼなのだ。そう言うお前はいったい誰なのだ?」
「イーゼ、イーゼ……ね。あたしは、ニィナよ。エルサの一番の親友で、エルサの愛を一心に受けているの!」
「それはおかしいのだ。主は我にも優しくしてくれるのだ。主の愛は皆に向けられるものなのだ」
「な、何が言いたいの…………?」
淡々とイーゼがニィナへと語りかける。そんな彼女の態度にニィナは反応するようにして彼女の名前を呟き、自分の紹介を行う。
……いやいや、友達とは思っているけど一番かどうかは分かっていないんだぞ? そして、愛を向けるかと聞かれたら、まだだし……あったとして現在そのフラグがベッキリメッキリ折れそうになっているんだぞっ!?
心から思いながら2人の反応を見ていると、ニィナはイーゼの言葉に反応するようにオレに跨った状態のまま……イーゼに視線を移した。
そんなニィナへとイーゼは指を指し、言葉と言う名の爆弾をぶっ放した。
「お前、一方向過ぎて見てて痛々しいのだ。それと、ちょっと頭がおかしいのだ。正直見てて主が大変そうなのだ」
「…………え? な、なに、言ってるの……? あたしは、頭おかしく、ないよ……?」
感情の篭らない淡々と言われた言葉、それは時として人を傷つけるものであり……言われたニィナはショックを受けているようだ。
けれどイーゼの攻撃は始まったばかりだ。
「可笑しく無いって言ってる時点で変なのだ。お前、アニマステラとか言う変な女以上に変なのだ」
「な、何か良くわかんないけど、失礼なことを言ってることだけはわかるっ!! けど、あたしはそこまで変じゃ無いよ!?」
「だったら主に聞いてみるのだ。我と同じことを言うに違い無いのだ」
ちょっ!? 何か結局オレに振られたんだけどぉ!?
危険度が一気に増したことに恐怖を抱きながら……どうなるのかと待ち構えていると、オイルの切れた機械仕掛けのようにギギギッとイーゼに向けていた視線をこちらに向けてきた。
当然、跨ったままだ。……そんなオレに向けられる、困惑と絶望の中に一縷の望み――変じゃ無い、と言ってくれることを願っている――を込めた黒く濁った瞳をニィナはオレへと向ける。
うん……、変じゃないからって優しく言って上げたら、この子本当に頭の可笑しい子になってしまう。
というか、今回休暇として離れてたのに、ますますぶっ壊れてるってなんだろうね?
……なので、トドメを刺そう。いや、オレが刺さないといけないんだこれは……。
「…………ごめん、ニィナ。お前、離れる前よりも酷くなってる。正直、まともになってくれることを期待してたオレは涙しか出ない」
「――――――――――――」
絶望、そう言わんばかりに目を見開きニィナは呆然とオレに跨りながら呆然としていた。
これでまともになってくれたら良いんだけど……。そう思いながら、彼女の様子を見ていると……カクンと首を垂らし、ぶつぶつと何かを呟き始めた。
きっと離れていたら聞き取れなかっただろうけど、生憎とニィナはオレに跨っているままだ。……なのでバッチリと聞こえる。
「嘘だ……。嘘だ嘘だ嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。これは夢、そう……夢だよ…………」
「ん、どうかしたのか? もしかして夢とか嘘とか思っているのか? これは夢でも嘘でも無いのだ。現実なのだ。分かってるのか?」
「あ、あの……イーゼさん。そろそろ正直過ぎる言葉の刃は収めてください……、あまりにも可哀想過ぎますので……」
「何で我が黙らないといけないのだ? あいつが変だから駄目なのだ。だから我は言い続けるのだ」
ぶつぶつ呟くニィナに、イーゼは首を傾げながら彼女に向けて言う。
そんな彼女の言葉に顔を青くしながらクソゴッドが止めるように言うが、止まらない。
ああ、これって正直に言えば良かったんだな……、躊躇した上に逃げ出したからこうなったんだろうな……。本当、ゴメンなニィナ……。
そう思いながら、オレは自らの過ちを悔いながら愕然とするニィナを見る。
……が、事態は思いも寄らない方向へと動き始めた。……いや、もしかするとその可能性はあったのかも知れない。
「あたしは……間違って無い、間違ってないもん……。あ、は……。そうだ。そうなんだ……エルサはきっとこの女に騙されてるんだ。だから、だからあたしがへんだって言ってるんだ」
「ニ、ニィナ……?」
目を見開き、瞳のハイライトが消えており……何と言うか病んで居ます。と一言で通じそうな瞳をしており、オレをまともに見ていないように感じられる。
……これ、まずくね? しかも、この女って……イーゼだよな?
心から思っていると、ニィナはグルッと首を動かし昔流行っていたシャフ度という首の曲げ方でイーゼを狂った視線で見つめた。
「勝負、勝負しよう? あたしは間違って無い、だからあなたが間違ってるの。だから、あたしのほうが正しいって体に教え込んで上げるの。だから、勝負しよう」
「…………わかったのだ。お前は狂っている。だから、主のためにもお前を正気に戻してみせるのだ。だから、その勝負受けるのだ」
狂気に満ちた瞳を受けながら、イーゼは一度オレを見てから……ニィナへと向き合い、そう告げた。
……かくして、どういうわけなのかまったく訳が分からない2人の少女の戦いは始まったのだった。
……本当、どうしてこうなった?
壊れてるだろ? 一応ヒロインポジなんだぜこれ……。
やっぱり、混ざった魂に問題が……。




