家には帰れない
王座で一対一で会話することになった。
護衛も召し使いも下げ、真剣な表情からとてつもなく面倒であることを悟った。
「もう帰らなくてもいい」
何を言って……
「……戦争だ」
そういえば前から「戦争になりそうな兆候がある」「必ず勇者の力を頼らなければならない」と言っていたな。
だが、そのことについて言っていたのは召喚してすぐからだった。二年以上経った今、何故このタイミングで戦争になるんだ?
「突然すぎないか?」
「いいや。前から兆しはあったのだ。しかし、近頃やたらと物資となるものが流通し始めたのだ」
ん?流通…?
「お主はリカールの話をしっておるか?」
「…知らない」
「先ほどの流通に関する話だ。そやつが食物、兵器、娯楽等様々な物、もしくはその製造法を売っているだ」
!!
「市場ではそれを巡り、金だけでなく国が動くほどの事になっておるのだ。そして、あちらが先に戦の準備を整え終わった。潜入していた部下がそのような情報を手に入れたため間違いはない」
「…何故、リカールと呼ばれているんだ?」
「この世界に伝わる商業神の名だ。そう言われほどに奴の品には価値がある」
「……」
市場は荒れに荒れた。
俺の金を金を稼ぐという行為のせいで。
悪気はない。生活のためだ、誰も俺を非難出来ない。そう、俺は悪いことはしてない……。
……悪くないんだ…
俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は……。
「当然人は死ぬよな……決して少なくない……」
ノーベルは土木工事の安全性を目的としてダイナマイトを産み出した。だが、それは戦争で兵器として使用され多くの人を殺めた。
今の俺はそれと同じだ。
俺は人を殺す目的で物を作っていたわけではない!!断じて違う!!
……違う。俺は金のために前の世界の知識を売っただけだ。そこにはなんの努力もない。人のためを思う優しさも、貫かなければいけない信念も、何も無い。
違う。
一つだけあった。
後先を考えない汚い欲だ……
精神的な不快感、いや、罪悪感に苛まれ吐き気を催した。
呼吸がしづらい。
視界が揺れる。
心臓を鷲掴みにされたような幻痛が鈍く響き続ける。
戦争は人を殺す。そして、その相手はサラヴィスで…………
ユユがいる…!
「…一つ聞きたい。サラヴィスの勇者も戦いに駆り出されるのか?」
「当然だろう。部下にもそのようなこと……」
「それが分かれば十分だ」
ユユに人殺しなんてさせない。
他の奴も。
誰も殺さないし、殺させない。
自分の尻拭い自分でするのが筋というものだ。
当然だ。
「王様。勝手なわがままで悪いんだが、俺一人でサラヴィスと戦う」
「な…!」
「俺に時間をくれ…!」




