第八話
夏風邪をひき、呼吸が苦しいおチビです。
お待たせしました。
『王』は数名の取り巻きを連れ、『白光』の反応を感じる扉とは別の扉から入ってきたようだ。つまりは、
俺達が思い通りにはならないと、初めから予想していたのか。
流石に一国を治める『王』だ。そのくらいの保険は掛けているか。
「しかし、貴様もここまで強くなっていたとは……御蔭で余の手駒が大いに減ってしまったぞ」
言葉と裏腹に、王の顔は愉悦に歪む。まるで新たな『玩具』を見つけたように……
「本当は勇者だけと思っておったが……気が変わった、お主も我の〝道具〟のなれ」
俺やエリーを、人とは思って無い様な言葉。いや、本当に『道具』だと思っているのだろう。
――――ギリッ!
歯を食いしばり過ぎて音が鳴る。その言葉は嘗て『女神』に言われた。
――――同じだ。『力』に溺れた者は、その考え方が同じになる。
だから、
「王様、勇者が言わなかったか?〝お前の道具に成らない〟と」
エリーが言っただろう言葉を返す。
ピクリと眉を上げ、今度は不満そうな顔をする『王』。
「……やはり、勇者の考えは貴様の入れ知恵か!要らぬ事を吹き込みおって!!」
憤怒の形相で怒鳴り始める『王』。そして『王』の周りに居た数名が前に立ち、『魔力』を放ち始める。
俺も直様立ち上がろうとするが、ガクリっと膝から力が抜ける。まだ身体は治りきっておらず、『魔力』も心許無い。それでも、諦める事は絶対にしない。
焦る心を落ち着かせ、今は回復に務める。ヘレンさんも俺の前に立ち、『魔力』を放ち始めた。しかし、ヘレンさんも大分消耗しているようだ。先程までの『魔力』は最早感じられない。
「心配しなさんな、エリーが来るまで持たせれば良いのさ」
ヘレンさんも笑いながら俺を安心させるかのように話しかける。俺も頷きを返す。
一触即発の空気の中、『王』だけは『自分は安全』という位置から俺を見て、再び笑う。
「無様よのう……勇者に、そして師に護られ這い蹲る。そんな貴様にその二人は勿体無いのう」
「何が……言いたい?」
視線を上げ王を睨む。身体が万全なら、今にも斬りかかりそうだ。
「召喚者など、召喚する必要など無かったという話だ。そのせいで余計な手間がかかる」
(勝手なことを……)
そう心で思いながらも、王の好き勝手に言わせる。始めて、『王』の演説に感謝してもいいくらいだ。
「ああ、貴様の頼みの勇者……あれの元には三人程、その隊長程の猛者を送っておいた。今頃、捕まっておるだろよ」
ニヤリ、そんな言葉が似合いそうな笑顔で言う王。
隊長格が、三人……なら、
安心だ
「この国は……そんなに人不足か、王様」
クククっと、笑いながら言ってやる。どうやらひどい勘違いをしているようだ。
「何が言いたい?」
俺の様子が可笑しい事に気づき声をかけてくる王。俺は笑いを止められない。だって、
「勇者は召喚者より、遥かに強いぞ。隊長程度、相手になるものか!」
俺は『剣技』では圧倒的にエリーに勝てない。その俺に負ける『隊長』など、何人いてもエリーには勝てないだろう。
俺の言葉が偽りではないと、王も解ったようだ。
「ふむ。ならば貴様ら二人は手に余るか……ならば仕方ない、殺れ」
王の名を受け、『攻撃魔術』が放たれる。『炎』、『氷』、『風』……様々な『魔術』が俺達に殺到する。ヘレンさんも『防壁』を展開するが、今の『魔力量』では受け止められないだろう。しかし、
「……知らないのか、〝王様〟。〝勇者〟っていうのは」
俺は眼前に広がる光景を見て、昔を思い出す。あの時も、彼女は……
「ピンチの時には、必ず現れるんだよ!」
着弾、爆風が俺を叩く。だが、それだけだ。怪我など、何処にも負って無い。
「そこは、〝勇者〟では無く……〝妻〟と言って貰いたいですね」
俺の前に立ち、破れたドレスを着て、金の髪を靡かせ、粉塵を切り裂き現れたのは、
「お待たせしました、ナオト」
『勇者エレハイム』だった。
「まさか……本当にあの者達を、倒したのか?」
俺の言葉を信じられなかった王が戸惑うように言う。当然だろう、自国の『隊長』と言われるもの三人を相手に殆ど傷らしい傷無く現れれば、そんな事信じたくもない。
しかしエリーは王の話を無視し、俺の姿を見て顔を顰める。
「……また、無理をしたのですね」
途端、猛烈な悪寒に襲われる。発生源はもちろんエリーだ。ヤバイ、速く理由を話さなければ……
「無理はしないでと、あれほど言ったのに……」
駄目だ、遅かった。先程までの顔からニッコリと笑うエリー。いつもは見惚れるその笑顔が怖すぎる。
「今夜は、覚悟して下さいね」
此処に、俺の運命は決まった。
ガクリ、俺は頭を垂れた。『隊長』と戦った時より恐怖を感じる。ああ、俺はもう嫁さんに尻に敷かれているのか。
場の空気を敢て無視し話していた俺達に、
「貴様ら……余を愚弄するかぁ!!」
『王』からの怒声が掛かったのはそんな時だ。流石に怒るか、敵に囲まれてる状況で話し込んでいれば。
「あら、王様。先程ぶりですね」
だが、エリーにとっては何でもない様な事だったらしい。向き直り、『王』に話しかける姿からは怒りも恐怖も何も感じられなかった。
「勇者……何故、余に逆らう? お主ならどんな〝富〟も〝名声〟も……」
「それは貴方が望むものでしょう?」
『王』の言った疑問。その全てを聴き終わる前に、エリーはそれを遮った。
「私が心から望むものは、ナオトとの〝日常〟。共に笑い、泣き、支え合い、慈しみ合う…… 命果てるまでナオトと共に生きる事。それ以外に、望むものなど有りません。だから……」
そこで言葉を区切り、大きく息を吸うエリー。
「貴方の〝道具〟など、成ってやるものか!!」
はっきりと『拒絶』を示した。そして俺はその言葉を聞き、嬉しくなった。
『完全回復』に程遠い身体に喝を入れる。エリーの横に立つ為に。ふらつく足取りで、エリーの横に立ち彼女と微笑み合う。そして、
「ああ、そうだな。俺達は、貴様の『道具』なんて成ってやるものか!」
これが、俺達『夫婦』の答え。俺達の『使命』は終わったのだ、これからは思うがまま生きていく。
俺達の答えを聞き、『王』は徐に、
「……やはり力ずくで捉えるしかないか……お前達、行け。〝勇者〟といえど無傷ではあるまい、見事捉えてみせよ」
王の命令で三人の護衛が動き出す。俺もエリーを援護しようとするが、エリーはそれを手で押さえ、相手に駆け出していった。
一人目、動きを重視した鎧を着た『剣士』が『斬撃』を繰り出す。エリーはそれに合わせるかのように、剣を持っていない手を差し出した。その手は刀身の側面に軽く触れ、軌道を逸らす。
『剣士』の『剣』とは『武器』であり『防具』だ。攻撃も防御も全て『剣』にて行う。故に、その『剣』さえ攻略してしまえば、『剣士』は身体を『敵』に晒す事になる。
『剣士』の『剣』を片手で払った後、もう片方、剣を持った手で『剣士』の首元を一閃。首を切り裂かれ、驚きと痛みで剣を離し両手で出血部を押える『剣士』。だがエリーは、最早『剣士』に目もくれず、次の相手に向かう。
二人目、重鎧に身を包み、大きな盾を持った『重騎士』。アレでは『斬撃』は効かないだろう。『重騎士』はエリーとの距離を見て、その場に立ち止まり、盾を構えた。エリーは速度を落とさず、『重騎士』に向かっていく。そして、タイミングを合わせ、盾を突き出す『重騎士』。だが、エリーはその盾の縁を持ち『重騎士』の頭の上で自身の身体が上下逆さまになるように飛び越える。そして、『重騎士』の頭上に差し掛かった時、両手を伸ばし『重騎士』の首をへし折る。あれでは重鎧など意味ないだろう。
いくら厚い鎧を纏おうとも、関節部を覆う事は出来ないのだから。
三人目、『魔術師』らしい男は二人が殺られた事も気にせず『魔術』の準備を進めていた。着地したエリーはその様子を見て、その場で一回転し始めた。そして持っていた『剣』に手を添え、
「白き光よ、その力を我が剣に……」
『白光』を付与し投擲。速度を力とし、空を切り裂きながら『剣』は狙い違わず『魔術師』に飛ぶ。
エリーが『剣』を投擲したとほぼ同時に『魔術師』も『魔術』を放つ。放たれたのは『風魔術』。本来なら、迫り来る『剣』を吹き飛ばし、エリーも無事では済まなかっただろう。だが、『剣』に付与された『白光』はその『魔術』さえも切り裂き、『魔術師』の胸に深く突き刺さった。『魔術師』は己の胸に突き刺さった『剣』を見た後、崩れ落ちた。
正にあっという間に『敵』を倒し、最初の『剣士』が持っていた『剣』を拾い戻ってくるエリー。その『技量』は、あの『魔帝討伐』の時よりも上がっていた。
「この程度では、私を捉えられませんよ」
柔かに告げるエリー。全く、いつも彼女には驚かされる。だが『王』も黙っている筈もなかった。
「やはり〝質〟では届かぬか。ならば……」
『王』がニヤリと笑い、手を鳴らす。すると、全ての『扉』から物凄い数の『兵士』がこの広間に入って来た。
「〝数〟で抑えるしかないのう」
勝ち誇った笑で告げる『王』。俺達は壁際に追い込まれた。
この場を借りて、お礼を言わせて頂きます。
閻魔大王様、アドバイス有難う御座います。貴方様の御蔭で、おチビのもう一つの作品、「いつか喚ぶ貴方の為に」を連載することが出来ました。
「俺嫁」も「いつか」も拙い作品ですが、これからもよろしくお願いします。
ご意見、ご感想お持ちしております。




