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朝顔が咲く朝

夏の朝は、少しだけ早起きだ。


空が白み始めるころには、商店街にもやさしい光が降りてくる。


昼間の強い日差しはまだ遠く、涼しい風がゆっくりと通りを吹き抜けていた。


時計屋の石段で、ガブが目を開ける。


その隣では、ふわもゆっくりと伸びをした。


夜露を含んだ風は、どこか甘い匂いがする。


二匹は並んで石段を下りる。


いつもの朝の見回りが始まった。


商店街はまだ静かだった。


パン屋からは焼きたてのパンの香りが流れ、魚屋には氷を運ぶ音が響き始める。


八百屋のおばさんは店先でじょうろを持っていた。


「おはよう。」


誰にともなく言うその声に、ガブは少しだけ耳を動かす。


おばさんは店先に並べられた植木鉢へ、ゆっくりと水を注いでいく。


しゃあ……。


静かな水音が朝の空気に溶けていく。


その中のひとつに、青い朝顔が咲いていた。


まだ朝の光を浴び始めたばかりの花は、夜の涼しさを少しだけ残しているようだった。


「今年もきれいに咲いたねえ。」


おばさんは目を細める。


その声に気づいたふわが、植木鉢のそばまで歩いていく。


花の前で立ち止まり、小さく鼻を動かした。


風に揺れた朝顔も、ふわを見つめ返すようにゆっくり揺れる。


ガブは少し離れた場所から、その様子を眺めていた。


急ぐこともなく、呼ぶこともない。


ただ、朝の時間を一緒に過ごしている。


「おや、朝顔を見てるのかい。」


時計屋のおじいさんが店の戸を開けながら笑う。


「今年はつぼみもたくさんあるよ。」


八百屋のおばさんが答える。


「しばらくは毎朝楽しめそうだね。」


二人は朝顔を眺めながら、小さく笑い合った。


そのころ、喫茶ひだまりでは開店の準備が始まっていた。


窓が開けられると、風が店の中を通り抜ける。


窓辺にも、小さな朝顔の鉢が置かれていた。


白い花が一輪。


女性は花に水をやると、外を見つめる。


「おはよう、ガブ。ふわ。」


二匹はその声を聞くと、ゆっくりと歩き出した。


子どもたちもラジオ体操の帰り道に商店街へやって来る。


「あっ、朝顔だ!」


「こっちは青。」


「こっちは白だ。」


みんなで花を見比べる。


「うちのはまだ咲いてないんだ。」


「明日には咲くかもしれないね。」


そんな会話が続く。


ふわは子どもたちの声を聞きながら、また朝顔の前へ戻った。


花びらの上には、小さな朝露が残っている。


きらりと光る雫を、不思議そうに見つめる。


風が吹く。


朝顔がゆっくり揺れる。


ふわのひげも、同じように揺れた。


ガブは石畳の上で座り、目を細めている。


その姿は、まるで毎年咲く朝顔を知っているかのように落ち着いていた。


やがて太陽が少し高くなる。


朝顔は元気に花を開き、商店街にも少しずつ人が増えていく。


八百屋のおばさんが店を開ける。


魚屋の大将が笑顔であいさつをする。


喫茶ひだまりからは、コーヒーの香りが流れてくる。


いつもの朝が始まる。


でも、その朝には新しく咲いた花があった。


それだけで、商店街は少しだけ特別だった。


ガブが立ち上がる。


ふわもそのあとに続く。


二匹は並んで、ゆっくりと歩き始めた。


青い朝顔が、風に揺れながら二匹を見送っている。


野良猫ガブは、今日も何もしない。


ただ、いつもの商店街を歩いただけだった。


その隣で、ふわは朝にしか咲かない花を静かに覚えていく。


夏はまだ続いている。


けれど朝の風には、ほんの少しだけ季節が次へ向かう気配が混ざり始めていた。

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