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夏休みのはじまり

朝から、空が明るかった。


夏の光は早い。


商店街の屋根の上にも、白い日差しがもう落ちている。


時計屋の石段で、ガブはゆっくり目を開ける。

その隣で、ふわも目を開ける。


風は少しぬるい。


でも、朝のうちはまだ歩きやすい空気だった。


二匹は同時に立ち上がる。


石段を下りる。


並んで、朝の見回りへ向かう。


八百屋の前。


魚屋の前。


パン屋の前。


いつもの道。


いつもの匂い。


でも今日は、どこか少し違っていた。


通りの奥から、早い時間なのに声が聞こえる。


子どもたちの声だった。


「おはよー!」


「今日から休みー!」


走る足音。


笑い声。


ふわが耳を動かす。


ガブも少しだけ顔を上げる。


商店街の角から、子どもたちが現れる。


帽子をかぶっている子。

首にタオルを巻いている子。

水筒を持っている子。


みんな、いつもより元気だ。


「いた!」


最初に気づいた子が声を上げる。


二匹を見る。


ガブとふわは、魚屋の前で並んで座っている。


逃げない。


でも、慌てもしていない。


子どもたちは近づきすぎない場所で止まる。


それも、もう自然に覚えている。


「夏休みだよ」


ひとりが言う。


ガブは目を細めるだけ。


ふわは少しだけ子どもたちを見る。


「今日は暑くなるって」


「だから水替えなきゃ」


「あと段ボール!」


みんなで話している。


その声が、朝の通りに広がる。


八百屋のおばさんが笑う。


「朝から元気だねえ」


「休みだから!」


すぐに返事が返る。


魚屋の大将も小さく笑う。


商店街に、夏休みの空気が入り始めていた。


二匹はまた歩き出す。


子どもたちも少し後ろをついていく。


追いかけるわけではない。


ただ、一緒に歩く。


パン屋の前では、もう焼きたての匂いが強い。


「いい匂いー」


子どもたちが言う。


ふわも鼻を動かす。


ガブは少しだけ立ち止まる。


それから、また歩く。


喫茶ひだまりの前に来る。


からん。


ちょうど扉が開く。


「おはようございます」


女性が顔を出す。


「おはよう!」


子どもたちの声が重なる。


「今日から夏休みなんだって?」


「うん!」


にぎやかな返事。


その横で、ガブとふわは同時に座る。


いつもの場所。


でも今日は、周りの空気が少し違う。


明るくて、動いていて、にぎやかだ。


子どもたちは水の器を見に行く。


「ぬるくなってる」


「替えよう」


小さなバケツを持って走っていく。


その後ろ姿を、ふわが目で追う。


ガブは目を細めたまま。


通りには、もう夏の匂いが広がっている。


熱を持ち始めた石畳。

朝の強い日差し。

遠くから聞こえるセミの声。


今年最初の、大きなセミの声だった。


ふわが耳をぴくりと動かす。


子どもたちも空を見上げる。


「あ、鳴いた!」


「夏だ!」


その声に、商店街の人たちも少し笑う。


本当に、夏が来たのだった。


昼になるころには、通りはもっとにぎやかになる。


子どもたちは何度も通りを行ったり来たりする。


猫たちは石段の影へ移動する。


ふわは少し暑そうだ。


ガブは慣れたように目を閉じている。


それでも、ときどき風が通る。


そのたびに、二匹の毛が少し揺れる。


野良猫ガブは、今日も何もしない。


ただ、夏の始まりの中にいただけだ。


その隣で、ふわも同じ夏を見ている。


商店街には、子どもたちの声と、今年最初のセミの声が、やわらかく広がっていた。

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