夏のかたち
朝の空気は、もう春とは少し違っていた。
やわらかさの中に、はっきりとしたぬくもりがある。日差しも強く、通りの色がくっきりとしている。
時計屋の石段で、ガブは横になっている。
その隣で、ふわも体を伸ばしている。
くっついてはいるけれど、少しだけ間をあけている。
暑さに合わせた距離。
それが、もう自然になっている。
石段の横には、段ボールの家がある。
少し前に直された形のまま、ちゃんと残っている。
でも、今日はその前に、子どもたちが集まっていた。
「ここ、暑そう」
一人が言う。
家の中をのぞく。
タオルが敷かれているけれど、空気がこもっている。
「うん」
「風入らないね」
別の子が言う。
しばらく、みんなで考える。
猫たちは少し離れたところから、それを見ている。
ふわは座っている。
ガブも隣にいる。
何が始まるのかはわからない。
でも、いつもの空気だ。
「穴あける?」
一人が言う。
「いいかも」
段ボールの横を指さす。
「ここ」
別の子がうなずく。
誰かが小さなハサミを出す。
ゆっくり、慎重に切る。
ざく、ざく。
小さな四角い穴ができる。
反対側にも、同じように穴をあける。
「これで風通る?」
一人が手をかざす。
風が少し抜ける。
「通る!」
少し嬉しそうな声。
でも、それだけでは終わらない。
「屋根も」
別の子が言う。
段ボールの屋根を見る。
「日、当たるよね」
みんなで考える。
一人がランドセルから、使い終わったノートの表紙を出す。
少し厚い紙。
それを屋根の上にのせる。
その上から、さらにもう一枚。
少しだけ二重になる。
「これでちょっとまし?」
「うん」
完全ではない。
でも、少しだけ違う。
子どもたちは満足そうにうなずく。
ふわがゆっくり立ち上がる。
段ボールの家へ歩く。
新しい匂い。
紙の匂い。
少し切った匂い。
入口から中をのぞく。
前より少し明るい。
横の穴から光が入っている。
ふわは中に入る。
少しだけ座る。
風が、ほんの少し通る。
完全に涼しいわけではない。
でも、さっきよりやわらかい。
ふわはそのまま座る。
しばらくして、外に出る。
ガブを見る。
ガブもゆっくり家に近づく。
中をのぞく。
少しだけ入る。
すぐに出る。
やっぱり石段の影の方がいい。
でも、前より悪くない。
そのくらい。
子どもたちはその様子を見る。
「入ったね」
小さく笑う。
八百屋のおばさんがその様子を見ている。
「考えたねえ」
魚屋の大将も言う。
「風は大事だ」
それだけ。
喫茶ひだまりの女性も外に出てくる。
家を見る。
横の穴に気づく。
「いいね」
小さく言う。
そのまま、店の中へ戻る。
午後になると、日差しはさらに強くなる。
でも、段ボールの家の中には、ほんの少し風が通る。
影の場所も、ちゃんとある。
ふわはときどき中に入る。
すぐに出ることもある。
でも、前より長くいることもある。
ガブは基本的に石段の影にいる。
でも、ときどき家の前まで来る。
それで十分。
夕方になると、風が少しやさしくなる。
日差しもやわらぐ。
二匹は石段に戻る。
少しだけ距離を縮めて、丸くなる。
段ボールの家は、その横にある。
少しだけ変わった形で。
でも、ちゃんとそこにある。
野良猫ガブは、今日も何もしない。
ただ、涼しい場所を選んで過ごしていただけだ。
そのまわりで、少しずつ形が変わっていく。
季節に合わせて。
やさしさに合わせて。
商店街は、それを当たり前のように受け入れていく。




