見つけたこと
朝の商店街は、いつものようにゆっくり動き出していた。
時計屋の石段の上で、ガブは丸くなっている。
そのすぐ隣で、ふわも丸くなっている。
二匹は、もう離れないのが当たり前のようになっている。
ふわが先に目を開ける。
石段の下を見る。
あの場所。
何度も座った場所。
何もない日もあるけれど、それでも覚えている場所。
ふわはゆっくり立ち上がる。
石段を下りる。
同じ場所へ歩く。
そして、座る。
ガブも少し遅れて下りてくる。
隣に座る。
通りの空気が少しずつ動き出す。
喫茶ひだまりの前に、おじいさんがやってくる。
いつもの時間。
いつもの歩き方。
今日は、手に小さな紙袋。
それを見たのは、子どもたちだった。
学校へ向かう途中。
ランドセルを揺らしながら歩いている。
「あ」
一人が声を出す。
「また来た」
別の子が言う。
「何持ってるの?」
三人ほどで、少し離れたところから見る。
おじいさんはベンチに座る。
紙袋を膝の上に置く。
何も特別なことはしない。
ただ、いつも通り。
子どもたちはひそひそ話す。
「昨日もいたよね」
「うん」
「猫のとこ行ってた」
喫茶ひだまりの扉が開く。
からん。
「おはようございます」
「おはよう」
おじいさんは中へ入る。
子どもたちはその様子を見ている。
「行こうよ」
一人が言う。
「見るだけ」
そっと近づく。
猫たちのいる方へ。
ガブとふわは、あの場所に座っている。
子どもたちは少し離れてしゃがむ。
「待ってる」
小さな声。
ふわは動かない。
ガブも動かない。
ただ、そこにいる。
しばらくして、おじいさんが店から出てくる。
子どもたちは息をひそめる。
「来た」
おじいさんは猫たちの方へ歩く。
少し手前で止まる。
しゃがむ。
紙袋から小さな包みを取り出す。
それを、そっと置く。
今日も、少しだけ近い場所。
音を立てない。
すぐに手を引く。
何も言わない。
「ほんとだ」
子どもたちが小さく言う。
「置いた」
「ごはんだ」
おじいさんは立ち上がる。
「またな」
小さく言って、離れる。
子どもたちはその背中を見る。
そして、猫を見る。
ふわがゆっくり立ち上がる。
包みに近づく。
匂いをかぐ。
ガブも隣に来る。
二匹で食べる。
取り合わない。
急がない。
ただ、静かに。
子どもたちはそれをじっと見ている。
「やさしいね」
一人が言う。
もう一人がうなずく。
「うん」
少しの沈黙。
それから、一人が言う。
「言わないほうがいいね」
「うん」
「静かにしとこう」
誰に言われたわけでもない。
でも、なんとなくわかる。
大きな声で言うことじゃない。
いつものままの方がいい。
子どもたちは立ち上がる。
「行こ」
学校の方へ走っていく。
通りに、またいつもの音が戻る。
八百屋のおばさんは、少し離れたところで見ていた。
「気づいたか」
小さくつぶやく。
魚屋の大将も言う。
「まあな」
それだけ。
喫茶ひだまりの中で、おじいさんは窓の外を見る。
子どもたちの姿はもうない。
猫たちは食べ終わっている。
ふわは少しだけ、その場所に残る。
それから、ガブと一緒に石段へ戻る。
二匹で丸くなる。
野良猫ガブは、今日も何もしない。
ただ、石段で眠っていただけだ。
そのまわりで、少しずつ、やさしさが増えていく。
気づく人が増えても、変わらないものがある。
それが、この商店街のやり方だった。




