第18話 モブ、悪役令嬢に屈辱を与える
「それじゃあ勝ったので俺が予め設定した条件をシャーロット様は履行してくれるんですよね?まさかマクスウェル家のご令嬢ともあろう方が無様に逃げ出し決闘魔法に縛られるザマなんてさらしませんよね?」
俺の煽りにシャーロットは更に怒りの表情を浮かべる。
いい感じに頭に血が登っている
「くっ……!当たり前よ!私はシャーロット=マクスウェル!家名に恥じるような真似はしない!」
「家名に恥じない、ねぇ……本当にそうなるといいですけどねぇ。まあいいでしょう。まずは私の部屋、もしくは貴女の部屋に移動しましょうか」
「は、はぁ!?私は婚約者もいる身なのよ!?そんなのできるはずがないわ!」
「みんなに見られながらがお望みならば俺はそれでもいいですよ?別に俺が困ることはありませんし」
「……わかったわ。ただし一人使用人を置くのが条件よ」
「クク……いいでしょう。ではいきますか」
◇◆◇
そして俺達とシャーロットの専属使用人がやってきたのは俺の部屋。
男の部屋に自ら上がり込んでくるんだと意外に思っていたら自分の部屋に平民の汚い空気が混じるのが嫌らしい。
ほんととことん悪役令嬢って感じだよな。
ちなみにハンクには申し訳ないが外に出てもらっている。
今度何か奢るよと言ったら『普通に公爵令嬢と同室なんて俺のメンタルが壊れる』と言って首を横に振られた。
「ふん、好きにしなさいよ。私はどんなことがあっても貴方なんかに屈することはないから」
シャーロットは置いてあった椅子に腰をかけぷいっと顔を背ける。
ついてきた専属使用人の女の人は空気のように静かに部屋のすみっこに立っている。
まあ時間も無限にあるわけじゃないし早速始めるか。
『ねえ、マスター……本当にやるの?女の子の……それも貴族令嬢の子にやっていいことじゃないと思うんだけど……』
(大丈夫だ。決闘でやられたからと俺に報復すれば恥を被るのはマクスウェル家だ。それにラナだって嬉々として戦って負けに追い込んでただろうが)
『そういう問題じゃないって!それに私は正々堂々戦っただけで一度もそれに賛成なんてしてないし!』
(まあ黙ってみてろって。どうせ決闘魔法でやらざるをえないんだから)
もう既に契約の力で俺の意志では引き下がれない。
俺はニヤリと笑ってシャーロットに一歩近づく。
「それでは、シャーロット様には契約通り履行してもらいましょうか」
「お金?権力?一体何がほしいわけ?言っとくけどマクスウェル家は私が言って動かせるほど甘くは無いわよ」
「マクスウェル家?そんなのはどうでもいいんですよ。貴女には今日一日……《《俺のペットになってもらいます》》」
「は、はぁ!?ペット!?」
「エドワード様!マクスウェル家に仕える者としてそのような発言は看過できません!」
目の前のシャーロットは驚きに目を剥き、静かに立っていた専属使用人は声を荒げて俺に詰め寄ってくる。
しかし俺はどこ吹く風で聞き流した。
「うるさい。契約書に記載してシャーロット様も同意した以上後からケチを付けるなんて無理に決まってるだろ。俺に対して怒るのは筋違いだ」
『そんなことを契約書に書く時点で怒られてもしょうがないと思うけどね』
ラナの冷静なツッコミが飛んでくる。
だがそれはそれ、これはこれだ。
「ぺ、ペットって何よ!」
「色々迷ったんですがねぇ……犬とか兎とかも捨てがたかったのですが猫にしました。可愛いでしょ?」
「そういうことを聞いてるんじゃないわよ!」
俺が取り出して見せた猫のカチューシャをシャーロットはバシッと叩き落とす。
ひどい、せっかくわざわざシャーロットを倒すと決めた次の日にすぐに買いに行った一品なのに。
「なんでこの公爵令嬢たる私がそんな畜生の真似事をしなくちゃならないの!」
「そんなの決まってるでしょう?貴女が惨めで無様な負け犬だからですよ」
「っ……!」
俺の言葉にシャーロットは言葉を失う。
だがシャーロットには一度、大きな絶望を味わってもらわなくてはならない。
彼女が闇落ちして魔王の手先となるのではなく彼女自身の意志で率先して俺の手伝いをし。ストーリー破壊させるように仕向けなければならないのだ。
「ほら、首輪だよ。つけて」
「だ、誰がそんなもの!なっ……!?」
シャーロットが激しい拒否を示した瞬間、ふらふらとシャーロットの手が俺が持っていた首輪に伸びる。
そして自ら自分の首につけた。
「な、なんで……」
「決闘魔法で契約したっていったでしょ?無理にでも履行されますよ。ほら、この猫耳カチューシャもしっかりつけて」
「く、くぅ……!どうして私がこんな目に……!」
シャーロットは猫耳に首輪とすっかり猫さんになっていた。
ちなみに首輪の方は普通にペットとかに使う首輪だが猫耳の方は頭装備として防具屋に売っているものでありまあまあ守備力もあってなぜか少しだけ炎耐性もついている。
生物って本能的に炎を恐れるはずなんだけどなぁ。
「おっと、手出しは許さんぞ。今俺に手を出したら誰に迷惑がかかるかわかるよな?」
俺は後ろでナイフを構えているシャーロットの従者に語りかける。
気配には気づいているので殺されることはないがもし襲撃されたら管理者責任としてシャーロットにお仕置きをしなくちゃならない。
いきなりお仕置きとかちょっとペース飛ばしすぎだろ。
「くっ……卑怯者め……!」
「卑怯者なんかじゃないさ。契約書をしっかり見ないほうが悪い」
俺は言いたいことだけ言うとシャーロットに向き合う。
彼女に感謝こそすれ恨みなんてないが俺の志のためにちょっと協力してもらわなくちゃいけないのでまずはその高慢なプライドをへし折ってやろう。
「おい、シャーロット」
「何呼び捨てにしてんのよ!私を一体誰だと思ってうぐっ……!?」
魔法で勝手に首輪が締まる。
俺が魔法でやったわけじゃないので俺の趣味じゃない。
断じて。
「ご主人様に向かってその口の聞き方は何だ?」
「だ、誰が御主人様ぐっ……!?」
「学ばないなぁ……フリージア生首席が聞いて呆れる。本物の猫ちゃんのほうが賢いんじゃないか?」
「くっ……ごめんなさい、御主人様……」
目は怒ったままだがシャーロットは形だけ棒読みでそう言う。
だがこんなものじゃ終われない。
まだ反抗的だしな。
「猫は人の言葉など話さないだろう?ちゃんとやってくれ」
「っ……!?」
「ほら、やれよ」
シャーロットは苦悶の表情を浮かべる。
色々な葛藤があるだろう。
しかも自分の従者に見られながら。
長い長い葛藤の末にシャーロットは顔を真っ赤にして俯いた。
「にゃ、にゃーん……」
なっ!?
か、可愛い……だと!?
シャーロットは性格は終わってるが見た目は最高の美少女。
そんな彼女が猫耳着けてにゃーんとか言ってる時点で可愛いに決まってる。
これは想定外だぞ……
『ねえマスター……これって彼女の協力を取り付けるためじゃなくてマスターの趣味なんじゃないの……?』
(は?何を言ってる?そんなわけないだろう。俺は女の子に猫耳着けて屈服させて喜ぶアブノーマルな趣味は持ってないぞ)
『いや……声が今まで出会った中で一番うれしそうなんだけど……』
(気のせいだ)
『……マスターの変態』
そしてこの躾という名のコスプレごっこは日が沈むまで続くのだった──