様々な人々15
「ビフェスタとの防衛戦を除いて、我が国はながらく争いがない。幸いに大きな天災もなく、国は豊かに治められている。しかし、この国の平穏は薄氷の上にあるのはわかるね」
いやわからん。
そう思ったけど、ローナン先輩たちの泣き顔が浮かんできたので私は真面目な顔をして黙っておくことにした。
「5代前の王が征服王と呼ばれていたのは、そのお力で国土を広く求められたからだ。外敵が攻めてこられない国土を作るのに、征服王は地形を利用した。山脈の内側に自国しかなければ攻められる心配は大きく減る。そうしてロンディバルには平穏が訪れた」
しかし、と第三王子が続ける。
「征服王の功績と名声は果てしない。のちの王がそれを求め、さらなる侵略を企てたのも一度や二度ではない。そうしてそれは今日まで失敗に終わっている」
眠くなりそうだ。歴史の授業なんて一夜漬けで十分だというのに。まだ襲い掛かられるほうがマシだったなと思いつつ。私は真面目に聞いているフリをした。
「はっきり言うが、侵略で得られるのは我が国の損失のみだ。人も物資も無駄になる。失敗に終われば民は不満を抱く。先々代の時代には内乱もあった。そんなつまらないことで国力を下げるなど許し難い」
第三王子は、国土を広げることに興味がないどころか反対らしい。確かに、わざわざ戦うために出かけていくなんて酔狂だ。ビフェスタにもそう考えてくれる人がいればよかったけど、それはロンディバルが十分な食料があるから言えることかもしれない。
「戦争をしないのは、いいことであります」
「そう言ってくれるとありがたいね。ただ残念ながら、私に賛同してくれない方々もいらっしゃる」
「王様は戦争をしたいんでありますか?」
なら、グリフの森に行ってみればいい。ビフェスタに向かって好きなだけ矢を射てばいいだけだ。
思ったことが顔に出ていたのか、殿下の両側にいる騎士たちが剣の柄を握った。
「そうは言わない。確かに我が兄には戦争で国土を広げるべきだと仰る方もいるが、私や我が弟のように反対する者がいる手前、具体的な策を御前に投じたことはない。王太子殿下も冷静な判断をされている」
つまり、戦争賛成派は第二王子だということらしい。実際に前線で戦っているのだからそれは納得できる話だ。森を守るために国境をビフェスタ側に押しやることができたら、グリフたちも静かに暮らせるかもしれない。けれど、それはやっぱり無謀だ。
第三王子は「しかし」と続けた。
「戦争を終わらせるには多くの労力が必要だが、始めるにはたったひとりの命令で済む。ロンディバル王家に戦争を求める者が増えたのであれば、父王も蛮勇によって剣を取ることは大いにある。私はそれを阻止したいのだ。わかるね」
「つまり、第四王子が戦争したいと思っているなら、殺してでも止めると言ってるんでありますね」
「国土を磐石にするためには、多少の犠牲は仕方ない。ロンディバルを揺るがす者は見逃すわけにはいかないのだよ」
第四王子、疑われてるじゃないか。
とはいえ、私は強い。今までそんな気配はなかったくせに急にすごく強い騎士を従え始めたら、何か企んでると思われても仕方ないかもしれない。戦争でなくても、暗殺を企んだり、寧ろをそれを警戒しているのではないかと思われても当然だろう。しかも実際、何か企んでいるのは間違いないのだから。
「さあ、何を目的としているのか教えてくれるね」
第三王子は真っ直ぐに私の目を見る。
答えないとここから出さない、と言っているようだなと思った。




