様々な人々16
何を目的としているか、といえば、第四王子は戦争を止めようとしている、らしい。
でも、具体的に何をするつもりなのかは聞かされていない。意地でも答えないつもりのようだった。魔術師ってそういう頑固な人種なのだ。
誰にも言うなと私に厳命していたとこからして、他に協力者がいるとは考えにくい。いたとしてもせいぜい数人だろう。そんな状態で、どうやって戦争を止める気なのかなんて私にはまったく思いつかなかった。おそらくこの国、いやこの大陸を探しても思いついた人はいないのではないだろうか。あの頑固殿下の頭の中にあるものがお伽噺な可能性だって、私もまだ捨て切れてはいない。
だから、何が目的なのかと言われても、わからない。
それに。
「答えられないのならば、疑われても仕方ないだろうね。君が王宮に来てから、何やら周囲を巻き込んで鍛錬しているのはわかっている。反乱を起こすには到底間に合わないようだが、君ただひとりでも充分な脅威だ」
「反乱を起こす予定はありません」
「では、何をする予定かな?」
「私は騎士であります。近衛第四部隊の所属であります。自分の職務を全うし、騎士として守るもののために戦うのみであります!!」
私の上には第四王子がいて、さらに上には王様がいるのかもしれない。けれど、第三王子はいないはずだ。
つまり、第三王子と第四王子の指示なら、第四王子の指示が優先される。配属されたからには上司の言うことは絶対だし、どんなに投げ飛ばしたくなるような相手でも裏切ることは許されない。そして、騎士として個人的な意見を勝手に述べることもまた同じ。
「自分のような下っ端の虫けらには、高貴な考えや崇高な思念など縁遠いものであります!!! 第四王子殿下のお考えは、ご本人に確認願います!!!」
近いとこに住んでんだから、直接聞きに行け。兄弟だろ。
そう念じながら返事をすると、殿下の両側に立っている騎士がまた睨んできた。声がデカいくらいで睨むのやめてほしい。
私が睨み返していると、くすくす笑う声が聞こえた。第三王子が笑っている。
「虫けらにしてはとっても元気だね」
「恐縮であります!!!」
「では、ここ1ヶ月の仕事を教えてもらいたい。勤務計画表は近衛隊に提出されているはずだから答えられるだろう?」
「総夜会の護衛を指示されております!!!」
「他には?」
「特に仕事はありません!!!」
正直に答えると、騎士2人は一瞬バカにしたような視線に変わった。確かに騎士なのに仕事がないのはみっともないかもしれないけど、ミミと思いっきり訓練したり知らない相手と手合わせしたりする時間は楽しい。王族の横で突っ立ってるだけの騎士よりはよほど体を鍛えられていると思う。
「では、部隊の仲間を鍛えるのは趣味でやっていると?」
「先輩騎士の方々は私の鍛錬姿に感銘を受けたそうで、自らも鍛えたいと申し出たのであります! 鍛えることに関しては私の方が知識があるため、方法を教えているだけであります!」
「それだけでなく、我が弟も体を鍛えているのは何故なのかな?」
「同じく申し出があったので方法を教えたのみであります!! 身体を鍛えることは健全な精神状態を保つことに有効であります。陰気で執念深い魔術師たちは全員太陽の下で走らせるべきであります!!!」
「なぜそう申し出たのか?」
「本人に聞け!!! ば、もっとも真実に近い回答を得られるのであります!!!」
とうとう騎士から「うるさいぞ!」と声が飛んできたけど、うるせーなと言いたいのはこっちの方だった。うだうだ聞かれても知らんし、知らんとしか言いようがないというのに。なんで私に聞いてわかると思ったんだろうか。王族だから命令すればなんでも聞いてもらえると思ってたんだったら、兄弟揃って投げ飛ばしたい。
顔は似てないのに執念深いところは似てるらしい第三王子はその後もネチネチと色々聞いてきたけど、私は「知らんわからん本人に聞け」だけを繰り返した。騎士以外の人間なら普通、大きい声の返事をしているとすぐに嫌になって諦めるのに、この殿下は粘り強い。この粘り強さで戦争反対を唱えているのなら、この国が他国へ侵略するのはなかなか難しいだろうなと思った。
「君もなかなか強情だな。騎士としては有能か。そろそろ夜も遅いし今回は諦めるとしよう」
「失礼します!!!」
「騎士アデル」
殿下の気が変わらないうちにさっさと帰ろうと頭を下げて踵を返すと、殿下が私を呼んだ。
振り向くと、笑みを消した殿下がじっとこちらを見ている。
「国に忠実な騎士であるように。騎士は国の剣。もし剣が持ち手を傷付けるようなことがあれば、その剣は砕かれてしまうだろう。程度によっては、その剣を作った鍛冶屋までもが潰れてしまうかもしれないことを覚えておいてもらいたい」
「…………私は、グリフとグリフの森を守る騎士であります。国が森を守る限り、変わらぬ忠誠を誓います」
返事をすると、殿下はそれきり沈黙した。頭を下げて退出する。
続きの間も出ると先程の小姓が待っていたので、また案内されて区画を出た。
なんかよくわからないことを言われたけど、もうめんどくさい。人間はめんどくさい。
私は今日もミミと一緒に寝ることにした。




