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この度、獣人世界に転移した普通の人間である私が、幻獣人を束ねる「鍵の聖女」に任命されました。  作者: 阿井りいあ
やっぱり私は聖女ではなかったのです

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最後の足掻きを食らいました


 あれから何度も戦いの場に出ては休憩してを繰り返している。

 幸いなことに、私に怪我は一つもない。攻撃が向けられたことは何度かあるけれど、その度にエトワルが結界を強めて守ってくれているから。


 ものすごく怖いけれども!! さすがに最初に攻撃が向けられた時は死んだかと思いましたしね!!

 でも、ジーノが身を挺して庇ってくれ、エトワルが渾身の力を放出しながら結界を強めてくれたので誰も傷付かずにすみました。ホッとしました。


 ただ、懸念通りリーアンとガウナがどうもダレてきているみたいで。ため息が増えたというか、文句が増えたというか、ダラダラしているというか。

 あれだけやりたがっていた力の解放も、何度か繰り返すうちに慣れて飽きちゃったようなのだ。子どもみたいな……。もちろん、本人たちには言わないけれど。


 でも、禍獣の王は私の目からでもわかるくらいに力が削れているのがわかる。ちゃんと効果があって、このまま続けられればきっとうまくいくって思えます。

 だからこそ、あと一息、集中力を切らさないでもらいたいのにっ!


「休憩したーい! あーきーたー!」

「オレっちもー。そろそろ遊びたいかもー」


 ああっ、また騒いでる。攻撃を少しやめれば禍獣の王も少し回復して戦いがまた楽しくなるかも、なんて言い合っているし。それじゃあ意味がないでしょうっ! これまでの努力がっ!


「……あー、甘いものが欲しくなってきた」


 これまで淡々と仕事をこなしてきたカノアまで!? 基本的に無表情なのでわかりにくいけれど、どことなく不機嫌になっているかもしれない。モノクルをかけ直してため息を吐いている。


 ううん、彼だだけじゃない。よく見ると、みんなの顔に疲れが見て取れた。私がちゃんと見ていなかっただけだ。あのマティアスでさえ!


 よく考えてみれば、私はこまめに休憩が出来ていたけれど、彼らはずっと前線で戦い続けている。そりゃあ疲れもするよね。


「あの、ジーノ。今は禍獣の王も少し弱っているんですよね? 交代で休憩をさせてあげられないでしょうか? あと一息なら、最後の封印のためにも余力を残した方がいいんじゃ……」

「ああ、それはいい提案だ。だが、戦力をそこまで割くわけにはいかない。俺が休憩するメンバーと順番を決めていいだろうか」

「それはもちろん! お願いします!」


 その後のジーノの対応は素早かった。私を一度エトワルとシルヴィオの下に預けて、個別に話をしに行ってくれたのだ。


 おかげで、みんながそれぞれ順番に休憩をとることが出来るようになった。

 その間、人数は二人ずつ減るし、私が休憩に向かうのも遅くなってしまったけれど、みんなの負担が軽くなったようで動きにキレが戻った気がする。た、たぶん。私には戦いのことはわからないので。


 い、いや! 少なくとも表情は明るくなったから良かったと思う! うん!


 あと少し。あと一息だ。


 そうしてみんなが一度ずつ休憩を入れて戻ってきた頃。そろそろ私たちも休憩に向かおうかという時だった。


 ついに禍獣の王が身の危険を感じたのか、一際大きな咆哮をあげた。


 耳というより、脳に直接響くこの感じ……! 痛いを通り越して眩暈がする。目がチカチカして立っていられないくらいだ。


「うっ、……っ!!」

「エマ!」

「エマさんっ!」


 エトワルが強めに結界を張ってくれたというのに、脳をかき混ぜられているかのように気持ち悪い……。目も開けていられなくて私はジーノにしがみ付くことしか出来なかった。


 ジーノとエトワルの二人はそんな私を見て、慌ててシルヴィオの下へと向かってくれた。

 シルヴィオが私の名前を呼んでくれているのもうっすらわかるけれど、さっきのがまだ頭で響いているような感覚が残っていてあまり聞こえない。


 咆哮だけでこんなにもダメージを受けるなんて。人間って、私って本当に弱い。


 ジーノからシルヴィオの腕の中へと移動したのが感覚でわかる。

 目を開けていられないし、声もあまり聞こえない状態だったからなんとなくでしかわからないけど、たぶんシルヴィオが癒しの力を使ってくれているんだと思う。少しずつ頭痛が収まっていったから。……ふぅ。


「ありが、とう。もう、平気……」

「エマ様。さすがにダメですよ。平気とは思えません」


 ゆっくりと目を開けてそう言うと、シルヴィオからぴしゃりと言い返されてしまった。う、まぁ、確かにまだ声がくぐもって聞こえてくるけど。


「でも、あと少し、なのに……」

「あと少しだからこそ、そろそろエマは休んでいてもいい。消える間際が最も危険だ。朝露の館に戻っていた方がいいだろう」

「どうせ、俺たちも集まって封印しに行かなきゃいけないしねー。その間、エマさんは無防備になっちゃうし?」


 続けた言葉には、ジーノとエトワルから言い返されてしまう。

 えぇ、最後の大事な場面に立ち会えないの? 名ばかりの聖女とはいえ、途中で仕事を放棄したみたいで申し訳なさすぎるんですが。


「エマ様はもう目的を果たしたでしょう? マリエ様をちゃんと救ってくださいました。禍獣の王の封印は元々オレたちの仕事。何も心配することはありませんし、気にすることだってないのですよ」


 シルヴィオがさらりと私の髪を撫でながら穏やかに告げる。それは、確かにそうだけど。自分勝手な言い分を主張したのはそもそも私だし……?


 いい、のかな。あとはお任せしても。


 でも、なんだろう。ハッキリとはわからないんだけど、胸の奥で何かが引っかかっている。このままではダメな気がするっていうのかな。

 禍獣の王は順調に弱っているし、きっと封印も上手くいくはずなのに。


「……エマ」


 迷っていると、後ろから声がかけられた。この声、は。

 ゆっくりと首だけを動かして声のした方に顔を向ける。


「マリエ、ちゃん……?」


 そこには、朝露の館から出てきてアンドリューに支えられながら立っているマリエちゃんの姿があった。


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