長期戦になりそうで少し不安です
気になる話ではあったけど、とりあえずまずはシルヴィオの下へ向かわないと落ち着いて聞くことも出来ないよね。
すぐに三人で向かうと、こちらに気付いていたシルヴィオが両腕を広げて出迎えてくれていた。そしてそのままジーノが当たり前かのように私をシルヴィオへと受け渡す。
おかげで今の私はシルヴィオに抱き締められている状態です……。治療のためなのはわかるけれど、抱き締める必要はない気がするのですが。ま、まぁ深く考えないでおきましょう。それよりさっきの話なので!
話を切り出すと、ジーノが腕を組んで戦場に目を向けながらも説明をしてくれた。
「禍獣とはそもそも、人の負の感情が溜まって出来たものだ。そう聞いているのだろう? 人が悪感情を抱かなくなるなど不可能。よって禍獣の王を完全に倒すことも不可能だ」
あ……そ、そっか。つまり、禍獣のいなくなった世界というのは人がいなくなった世界ということになるんだものね。
この世界では、人の負の感情が敵として現れてしまう世界なんだ。
「毎回、これ以上抵抗が出来なくなるまで弱らせてから幻獣人たちで禍獣の王を封印する。そうすることでしばらくは復活が出来なくなる。封印された禍獣の王はまた少しずつ悪感情を溜めていき、いずれ復活する。その度に俺たちが倒して封印する、その繰り返しだ。完全に倒すことが不可能なのは当然だろう」
そういえば、以前にも聞いたような気がするかも……。なんだか色んなことがありすぎてすっかり頭から抜けてしまっていたけれど、この世界に本当の意味で平和が訪れることはないんだ。
それはとても怖いことのように思えたけれど……よく考えてみればどの世界でも同じだよね。
この世界では悪感情がこうして具現して共通の敵になるというだけで……人の思惑一つで戦争は起きるんだもの。
争いは、どの世界でもなくならないんだ。わかりやすい解決策がある分、この世界の方が優しいのかもしれない。
なんて。甘い考え、かな?
「ただ、ここ何回かは禍獣の王が強くなってきていた。次第に倒すのに苦労するようになり、結果的に前回は倒しきれず、聖女マリエの力で無理矢理封印することになったからな。不甲斐ないことだ」
弱らせて封印して、を繰り返してきたから、気付かれないくらい少しずつ禍獣の王が強くなっていったのかな。よくはわからないけど、そういうことなのかもしれない。
だとしたら、マリエちゃんの世代というか今のこの状況は本当に間が悪かったと言いたくなっちゃう。
それに、もし今回封印出来たとして次の時はどうなっちゃうの? って不安になる。今よりももう少し強くなったりするのかな。それで、いつか弱らせられなくなって……禍獣の世界になってしまうのかな?
そんな嫌な想像ばかりしてしまう。とことんネガティブだなぁ、私。
「今回は、倒して封印出来そう……?」
そんな不安からつい質問してしまった。ごめんね、頼りなくて。だけどジーノは特に気にした風もなくあっさり答えた。
「エマの能力があるからな。ギリギリになるかもしれないが、しっかり弱らせられるだろう。まだ協力してもらうことになるがな」
「そ、それはもちろん!」
ギリギリ、か。うぅ、やっぱり今後のことが心配になっちゃうよ!
そりゃあ次の封印が解けた時なんて私やマリエちゃんは生きてはいないだろう年月が経っているけど……さすがに今がどうにかなればそれでよし、とは思えない。
だって彼らは、幻獣人たちはこの先もずっとこの役目を背負っていくのだから。
彼らだって今の彼らでなくなっているかもしれないよ? 戦いに敗れて、あるいは寿命が来て別の場所で生まれた幻獣人がその運命を引き継いでいるかもしれない。
ただ、少なくとも不死鳥のリーアンだけはこの苦しみを永遠に繰り返すことになるんだよね……?
かといって、私に出来ることなんて限られているけれど。今を乗り切ることでさえ、出来るかどうかのギリギリなのに、先の心配なんかしている場合じゃないよね。
「エマが協力してくれるのなら大丈夫だ。時間はかかるだろうが、ついさっきの短時間でもかなり禍獣の王の力を削ることが出来た。このまま続けられれば問題なく封印までこぎつけられる。だが焦りは禁物だ。リーアンやガウナがしびれを切らしそうで心配だが」
「あの二人は途中で飽きてしまいそうですよね。確かにそこは少し心配です」
ジーノとシルヴィオの懸念に私も一緒になって不安になる。とても頼もしい反面、短期決戦型って感じするものね、リーアンとガウナって。
「俺もちょっと飽きてきたぁ」
「エトワル、貴方が飽きてしまったらエマ様が危険なのでそれだけはダメですからねっ!?」
「あはは、冗談だよぉ。暇だしみんな真剣な顔ばっかりなんだもん。ちょっとくらい冗談言わせてよぉ」
え、エトワルが言うと、本気なのか冗談なのかわからないので心臓に悪いです……! シルヴィオもジトッとした目で見ているし、まだ疑っていそう。
でも、今の冗談のおかげでまた肩の力は抜けた気がする。エトワルには素直に感謝したいな。
それに、常に私を守るように動きながら的確な指示を出し続けてくれているジーノにも、治療を続けてくれているシルヴィオにも。
うん、だいぶ身体も楽になってきたみたい。痣もほとんど消えてきたみたいだし。
「よしっ、それじゃあそろそろまた向かいましょう? シルヴィオ、治療ありがとう。すごく楽になりました」
「でもまだ跡が少し残っていますっ!」
「それはそうかもしれないけれど、さっきよりもずーっと薄くなりましたし、楽です。あまりのんびりも出来ませんし、疲れたら戻ってきますからその時にまたお願いします。ね?」
抱き締められた状態なのでトントンとシルヴィオの胸を叩いて主張すると、やっぱり渋々とだけれどシルヴィオは私を離してくれた。心配はありがたいんですけどね……!
「さすが、ユニコーンが祝福を与えただけあるねぇ。治りがずーっと早いや」
「当たり前でしょう。オレの力を舐めないでください」
あ、あの祝福にはそんな効果があったんだ……? 治療を続けていたから早いのかと思っていたけど、相乗効果ってやつだったのかな。本当にありがたい。
「ところで……結局あの祝福ってどんな意味があったんです?」
今なら聞けるかも。そう思って言ってみたんだけど……ちょ、なんで目を逸らすんですか、ジーノ! エトワルまでっ!
最後に目を向けたシルヴィオとは目が合ったけれど、にっこりと笑みを向けられてしまった。なんだろう、やっぱり聞かない方が良かったのかな? 含みのある笑みですね……?
「全て終わったら、お教えしますよ」
……これって、フラグとかじゃない、よね? ね?




