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この度、獣人世界に転移した普通の人間である私が、幻獣人を束ねる「鍵の聖女」に任命されました。  作者: 阿井りいあ
最終決戦に備えますが正直かなり不安です

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先陣を切るメンバーにかなり不安を感じます


 シルヴィオの意味深な行動は、周囲の反応から見てもよほどのことだということがわかる。すごく気になる。

 シルヴィオのことだから、私に害があるようなものでは絶対にないというのはわかるけど……誰も目を合わせないってどういうことなの?


「そんなことより、今は一刻を争うわ。異論がないならダメ聖女の作戦の通りに動くわよ! 全員、戦闘準備よ!」


 微妙な空気の中、乾いた音が鳴り響く。マティアスが手を打ち鳴らしたようだった。

 そうでした。もういつ禍獣の王が復活してもおかしくないんだから。この作戦は、禍獣の王が復活する前に動かなきゃ意味を為さないんだもの。


 気持ちを切り替えないと。そう思うと同時に急に緊張感も戻ってきた。大口叩いておいてなんだけど、うまくやれるか本当に不安だ。

 早くやらなきゃいけないのはわかっていても、私はちゃんと禍獣の王の封印に触れることが出来るのかな。


「ほい、扉。ここを開けたら禍獣の王の封印の間に出るよ」


 カノアの仕事が早いっ! 素早すぎて心の準備が追い付かないよ!

 でもそのくらい強引に進めてくれるくらいの方が臆病な私にはちょうどいい、よね。


「こっちも準備は出来ている。エマ、抱き上げるぞ」

「お、お願いします」


 ジーノは私の返事を聞く前にひょいっと片腕で私を縦抱きにした。もう慣れたものだけど、せめて返事は最後まで聞いてからにしてほしい。


「オレもいつでもいいよぉ」


 私を抱き上げたジーノの隣に立つエトワルは、こんな時でものんびりとした雰囲気だ。おかげで少し気持ちが落ち着くけど……慌てることってあるのかな? もしくはそう見えないだけで緊張していたりするのかな。

 彼らの心情をちゃんと知る日は永遠に来ない気がするよ。エトワルだけじゃなくて、皆さん癖が強すぎるので!


 それぞれが扉の前に集まり、一度立ち止まった。向かうのは九人の幻獣人たちと、私。そしてアンドリューも一緒に向かってくれるという。

 ただアンドリューは保護をしてもらえるわけじゃないので、禍獣の王の影響をもろに受けてしまう。だからいつでも避難出来るようにカノアの扉の前で待機するんだって。


 本人は最終決戦で何も出来ないことをとても悔しがっているけど、アンドリューの役割は全てが終わった後だもの。身の安全は第一に考えてもらいたい。


「この向こうに、国王軍がいるかもしれないわ。いえ、王の復活だもの。洗脳された彼らがそれを察知していないわけがない。たくさん待ち構えていると思った方が良さそうね」


 先頭に立つマティアスがみんなに注意を促してくれる。リーダーシップがあってとても助かります。


 でも、そうか。国王軍のことがあった……。出来れば傷付けたくないけど、そうもいかない、よね。

 アンドリューの方をチラッと見ると、眉根を寄せて俯いているのが見えた。心が痛む。


「なら、先に毒でもばら撒いておく?」

「大勢いるでしょうしね。確かに先に処分しておいた方が楽だわ。頼むわよ、ギディオン」


 そんな雰囲気など知りませんとばかりに、ギディオンが空気を読まずニヤリと笑う。

 ど、毒!? っていうかマティアスも即答!? 処分って言葉が物騒すぎますが!


「あの、ど、毒って……まさか、殺したりはしない、ですよね?」


 さすがにこれまでの経験があるから、そんなことをしたりはしないだろうけど……。正直、冗談なのか本気なのかさっぱりわからないので恐る恐る確認しました。

 ギディオンに目を向けてそういうと、彼はますますニヤリと笑う。グレーの前髪で隠された瞳がキランと光っている気がした。見えないのに。


「ヒヒッ、お望みとあらばいくらでも命を奪いますよ、聖女サマぁ?」

「の、望まない! 望みませんからね!? 眠らせる程度にしてください、お願いですからっ!」


 ギディオンは了解、と言いながらヒヒヒと不気味に笑っている。

 からかわれている、これは間違いなくからかわれている。決戦前だというのに、ブレないなぁ。はぁ。


「禍獣の王が封印されている場所は室内だから、あっという間に毒が蔓延するよねー」

「そうだなー。だからまずは扉の向こうにギディオンが特攻することになる感じー?」


 ガウナとリーアンがやや不服そうに話している。本当に先陣を切るのが好きな二人ですね……!


「それだと僕、襲われたらひとたまりもないけど。毒が回るまでの間に瞬殺だよ。物理戦での僕の弱さをなめないでもらいたいね」

「自慢げに話すことじゃないでしょ……」


 あ、そっか。ギディオンは毒のプロフェッショナルで、その目を見せただけで相手は毒に侵されてしまう。けど、国王軍がみんな一斉にギディオンの目を見るってわけにもいかないものね。それなら毒を散布するのが手っ取り早くはある。


 広範囲に影響を与えられるし、あらゆる種類の毒で敵の動きを阻害するとても便利な能力だけど、毒が回る前に直接狙われてしまったらどうしようもないってことか……。

 それでも、幻獣人だからある程度は丈夫なのだろうけれど。


「じゃー、誰かが護衛について行く? オレも行きたいとこだけど、一緒に毒にやられるのは勘弁かなー」

「オレっちもー。ほんの少しでも毒の影響は食らいたくないねー! 万全な状態で戦いたいしー?」


 ねー? とお互いの顔を見合いながら言うガウナとエトワルの姿に少しだけほっこりする。気が合う者同士、本当に仲が良いんだなって。


 さて、特攻隊の二人が無理となると、誰を護衛に付けるのがいいかな。あ、そういえば毒に耐性のある人がいるんじゃなかったっけ。


 そう考えていると、まさしくその点をおさえた意見がマティアスから出された。


「毒に耐性のあるのはジーノとジュニアス。ジーノはダメ聖女に突きっきりだから……仕方ないわね。ジュニアス、一緒にいって毒が回るまでの間この陰気野郎を守ってやってちょうだい」

「兄さんが言うなら、やる」


 ほんっとーに助かりますっ! マティアスが理解のある司令塔で本当に良かった! おかげでお兄さん大好きのジュニアスがこんなにも素直に言うことを聞いてくれるんだもの。


「はぁ……ブラコンかぁ。ま、誰もいないよりはいいかなぁ。精々、僕の役に立ってよブラコン」

「……兄さん。こいつ、見てるだけ(・・)でいい?」

「……ちゃんと護衛してやって。気持ちはわかるけど」


 ただ、ギディオンはもっと口に気を付けたらいいと思う……!

 マティアスも額に手を当てて首を横に振っているし、なんだか不安になってきましたが!?


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