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この度、獣人世界に転移した普通の人間である私が、幻獣人を束ねる「鍵の聖女」に任命されました。  作者: 阿井りいあ
最終決戦に備えますが正直かなり不安です

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腹を括ったらすごいことをされたようです


 私が思いついた作戦をみんなの前で話すと、それぞれが違った反応を見せました。基本的にはみんな賛成だったのだけれど……。


「……それは、盲点だったな。だが……」

「い、いくらなんでも危険ですっ!」


 アンドリューは感心したように頷きつつもあまり賛成は出来ないといった様子で、シルヴィオは猛烈に反対してきました。

 まぁ、その反応は予想していたけれども。だから言うのにも勇気が必要だったし、私も同じ意見ではあった。


「あら。アタシは賛成よ。ダメ聖女にしてはいい意見を出したじゃない。少し見直したわ」

「俺もぉ。その作戦なら、もっと安全性は高まると思うから賛成ー」


 マティアスに関しては、もはやこれまでで最大の賛辞を贈られた気がしますね……! その後ろで同意を示す様にジュニアスも頷いている。まぁ、ジュニアスはマティアスの意見に反対するわけがないものね。

 それから作戦のキーとなるエトワルもニコニコと同意を示してくれた。よかった。エトワルが賛成してくれるなら、なんとかなるかもしれない。


「あとは、禍獣の王の初手がどう出るのかに懸かってるってことかー。おもしれー! オレっちも賛成!」

「リスクはあるかもしれないけど、成功率は高まるね。ヒヒッ、大胆だねぇ」


 最も楽しそうに賛成してくれたのがリーアンとギディオンだ。この二人はちょっと他人事なところがある。実際、この二人は作戦には関係がないので他人事なのでしょうけど! 


「俺もその作戦は良い案だと思うが……エマ、お前はそれでいいのか。危険だぞ」


 心配そうにしながらも賛成気味の意見を言ってくれたのはジーノ。彼も作戦には必要な人なので頼むのは心苦しいけれど、自分のことより私を心配してくれています。


「そう、ですね。でも、たぶん一番リスクが低いと思うので。結局は皆さんに頼り切りの作戦なんですけど……」


 私は身の危険に晒されるくらいで、別に特別なことをするわけじゃないもの。幻獣人の皆さんにやってもらうしかないのは変わらない。

 だから、作戦がうまくいくかどうかの重圧を背負うのはジーノやエトワルの方なのです。


「ふむ。エマとマリエ、どちらも最小限の被害に抑えるには俺とエトワルの腕が試されるということだな」

「腕なら大丈夫じゃない? 俺とジーノだもーん。失敗なんてしないよぉ。だから、あとは運次第じゃなぁい?」

「それもそうだな。運が良いことを祈ろう」


 だというのに、なんて頼もしい意見なのだろう。自分たちの腕を疑ってもいないみたいだね。そのことが少しだけ私に勇気を与えてくれた。


 その他の人たちも、特に反対意見は出なかった。アンドリューも結局はそれが最善だと思ったのか、難しい顔ではあったけど反対をする気はないみたいだった。


 ただ一人、シルヴィオだけはずっと心配そうに、そしてやや怒ったように俯いている。ここはたぶん、私が声をかけるべきだよね。シルヴィオに一歩近付き、顔を下から覗き込む。


「シルヴィオ。もしものことがあったら……貴方が治療してくれるのでしょう?」

「! エマ、様……」


 私だって出来ればやりたくない。すごく怖いし、運が悪ければ酷い怪我を負うかもっていう考えは消えてくれない。

 だけど、死ぬことはないってわかる。ジーノやエトワルが被害を最小限に食い止めてくれると信じているし、シルヴィオが完璧に治療してくれるって信じているから。


「私は、みなさんに頼ることしか出来ません。でも、みなさんだけに危険な思いをさせるのは心苦しいって思っていたんですよ? だから」


 無責任かもしれない。みんなを頼ることしか、信じることしか出来ない私は。

 本当は逃げ出したいと思っているし、怖くて怖くてたまらないのにね? それでも、今はたぶん逃げちゃいけない時だってわかるから。


 義理の母親に、絞め殺される恐怖に比べれば、なんてこと、ない……っ!


 ギュッと震える拳を握りしめて、私は顔を上げた。


「私に解放させてください。禍獣の王を……!」


 そう、作戦とは禍獣の王の封印を待つのではなく、私が解放をするというもの。


 どのみち、まもなく禍獣の王は封印を破って復活してしまう。その時は、世界に殺気を放ちながら目覚めるのだろう。


 それなら、待つのではなくこちらから解放してしまえばいいのでは、そう思った。

 そうすればタイミングは私が決められるし、予想外の解放をされたなら禍獣の王もすぐには殺気を放てないかもしれない。


 一瞬。ほんの一瞬だけしか間はないかもしれないけれど、それだけあればエトワルが結界を張ってくれるって。

 その一瞬があれば、ジーノが私もマリエちゃんも連れてすぐにその場を離れてくれるって。


 でも、その作戦をするには私が禍獣の王に触れなければいけない。解放された一瞬だけ、マリエちゃんだけでなく私も、そして連れて行ってくれるジーノや結界を張るエトワルも危険に晒されるのだ。

 エトワルはマリエちゃん奪還のために最初から危険な役割ではあったけど、さらにジーノと私もリスクを負うことになる。だからシルヴィオは最後まで渋ってくれていたのだ。


 私は信じてる。その一瞬さえあれば、大丈夫だって。

 解放した瞬間に私はその手でマリエちゃんを掴む。そうしたらすぐにジーノが一緒にその場を離れてくれて、エトワルが結界を張ってくれる。もしもの時はシルヴィオだっているのだから。


「エマ様……わ、かりました。貴女の覚悟、とても誇らしく思います」


 ジッと彼を見つめ続けていると、ようやくシルヴィオが観念したように理解を示してくれた。

 ホッと安堵の息を吐くと、シルヴィオはそのまま私の前に跪く。えっ、えっ?


「もし、貴女やマリエ様が怪我を負ったなら、その時はオレの全力を尽くしてお助けします。ですが……どうか、ご無事でありますように」


 シルヴィオは祈るようにそう告げると、私の手を取って指先に口付けを落とした。その瞬間、淡くて白い光が私の全身を包み込む。温かくて心地好い……。な、何が起きたの?


「ユニコーンの加護……!? シルヴィオ、お前」


 アンドリューが驚愕している。な、何……? なんかすごいことをしたの? 周囲を見れば、幻獣人たちみんなも驚いたように目を丸くしているし。え、怖……。


「それ以上何かを言ったら蹴り飛ばしますよ、アンドリュー。大丈夫ですよ、エマ様。ただのお守りだと思ってくださいね」


 シルヴィオはにこやかにそう言ったけど……明らかにただのお守りじゃないですよね、コレ?

 頭に疑問符を浮かべながら説明を求めるようにみんなを見たけど、全員が揃いも揃って目を逸らしていく。え、本当に今のはなんだったのーっ!?


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