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この度、獣人世界に転移した普通の人間である私が、幻獣人を束ねる「鍵の聖女」に任命されました。  作者: 阿井りいあ
最終決戦に備えますが正直かなり不安です

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救出作戦を練りますがなかなか厳しいようです


 早速、作戦会議が始まった。とはいえ、本当にいつ禍獣の王が復活してもおかしくないので手短に、確実に進めなければならない。

 ああ、気持ちだけが焦っちゃう。だけど、幻獣人たちはいつも通りリラックスしているように見える。


 そりゃあ内心はわからないけれど……実際に戦うのは彼らで、危険な目に遭いやすいのも彼らなのに平然としていられるのが本当にすごいなって。


「エトワルの結界で、禍獣の王と切り離してマリエだけを守れないだろうか?」


 アンドリューが提案してくれた。そうだよね、それが出来たら一番いい。だけど、エトワルはゆるりと首を横に振る。


「ちょっと難しいかなぁ。俺に戦う力はないから、禍獣の王の気に中てられたら一発でアウトかも?」


 うっ、やっぱりそううまくはいかないかぁ。エトワルでさえまずいんだもの。マリエちゃんという人間が気に中てられたらどうなるかなんて想像したくない……。


 ダメダメ、思考停止したら。色んな案を出さないと!


「あの、私が力の解放をしたらどうでしょう? やっぱり難しいですか?」

「ん、それなら身体の強度も上がるし大丈夫……あ、いやそっか。解放なんてしなくても、幻獣姿のままマリエちゃんを掻っ攫えばいいねー」


 やった! 幻獣姿なら大丈夫なんだね! 確かにマリエちゃんを奪還するだけならわざわざ人型にはこだわらなくて大丈夫そう。

 エトワルの能力は結界だから、力がうまくコントロール出来なくても周りの被害はあまりないだろうし、比較的小回りのきく幻獣姿だし!


「けどさー、それだと一瞬だけマリエチャンが無防備になるよね?」


 いいアイデアだと思ったはいいものの、リーアンが鋭い指摘を入れてきた。

 えーっとつまり、禍獣の王が解放したその瞬間だけ無防備になってしまうってことだよね。どれほど素早くエトワルがエマちゃんを保護したとしても、どうしてもその一瞬だけは埋められないってことか……うぅ、難しい。


「解放の前にマリエ様と禍獣の王を引き離せればいいのですが……一緒に封印されているのなら難しいですね」

「あー、一瞬だけマリエチャンが生身のまま禍獣の王の気に中てられちゃうのかぁ。解放の瞬間なら、間違いなく禍獣の王が殺気を放つだろうしねー」


 シルヴィオとガウナが二人して難しい顔をしている。

 ああ、もう! 禍獣の王が復活時に殺気なんて放たなければなんとかなったかもしれないのにっ! 文句なんて言っていても仕方ないですね、はい。


「あの、念のため聞いておきたいのですが。いえ、本当はあまり聞きたくはないですけど……私たちが禍獣の王の気に中てられたら、どうなるんでしょうか?」


 絶対に良くないことになるってことはわかるけど、具体的に聞いておかないとね、一応ね。だって、もしかすると一瞬だけならなんとかなるかもしれな……


「触れた瞬間、皮膚が焼けるわ。ダメ聖女なら溶ける可能性もあるわね」

「ひぇ」


 ダメ! それは絶対にダメーっ! 一瞬でもダメなやつ! 体の一部、とかならまだ可能性はあったかもしれないけど、全身が気に触れてしまうもの! いや、一部でも無理ですぅっ!!


「ただの火傷ではないので、すぐに治療することも難しいです。ただ、一瞬であれば被害も最小限に抑えられますし、時間をかければオレが完璧に治してみせますが……」


 あ、そうか。シルヴィオの癒しの力なら完治は出来るんだね。でも、痛みは想像を絶するほどだし、そんな思いをさせたくはないですね、とシルヴィオは目を伏せている。わ、私も同じ気持ちです!


 あれ、でもそうなると少し気になることがあるかも。


「マリエちゃんは、そんな危険な禍獣の王の前に出て、自分と一緒に封印したんですよね? あの時に見たマリエちゃんはどこかを火傷しているようには見えませんでしたが……」

「ヒヒッ、そりゃあ禍獣の王だってずーっと気を放ってるわけじゃない。あれは周りから吸った生命力を燃やしているようなもの。いくら禍獣の王といえど、永遠に放てるわけじゃない。そのくらい、考えればわかるでしょ」


 私の疑問にはギディオンが嫌味を交えて答えてくれた。すみません、頭の足りない聖女(仮)で。

 でも、そっか。そうだよね。ずっと気を放っていたのなら、彼らだってろくに戦えていない。


「いつ解放されるか、そのタイミングも掴めないわ。逆に言えば、タイミングさえわかれば最小限の被害に抑えられるのだけれど」


 つまり、禍獣の王だって気を放つのは任意ってことか。復活する瞬間に力を解放するから気を放つんだね。

 だからこそ、復活の瞬間さえわかればタイミングを合わせてマリエちゃんの保護を最速で行えるんだ。


 それでも、その一瞬だけはマリエちゃんが禍獣の王の気に……。完治は出来るとはいえ、眠りから冷めた瞬間にそんな苦痛を味わわせてしまうことになるなんて……。


 みんなが黙り込み、多少の被害は仕方ないかもしれない。話の流れがそんな風に向かっている。


 でも、マリエちゃんは無傷で保護したい。万が一、一瞬で済まなかったら? タイミングが合わなかったら命の危機だもの。

 何か、何かいいアイデアはないの……? 考えないと。何か、何か……!


『エマ! 必ず私が守ってあげるからね!』


 脳裏に、昔言われたマリエちゃんの声が響く。その瞬間、一つの考えが浮かんだ。

 そう、だ。この方法なら……。で、でも、私のアイデアがうまくいくだろうか? 思いついたはいいけど、色々とリスクが高い気がする。でも、でも。


 ……守られるだけじゃない。今度は、私がマリエちゃんを守るんだ!


「っ、あの! 一つ、案があるんですけど……!」


 大きく息を吸い込んで私が声を上げると、みんなの視線が集まった。

 たとえ穴だらけの提案だったとしても、みんなで意見を出し合えばなんとかなると信じて。


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