私の仕事はまだまだ続くようです
「いやー、最っ高だったぁーっ! エマチャン、あの解放の力があれば禍獣の王だって倒せちゃうよー! さす聖女!」
はい。今、私は無事に朝露の館に戻ってきてソファーでぐったりと横になっております。どうも、こんな体勢で失礼しますよ。
「リーアン、何度も言うようですが、これはエマ様にかなり負担がかかるいわば奥の手です。あまり頼りすぎても手詰まりになってしまいますよ」
「そうね。計画的に解放する人、時間、タイミングを考えないとむしろダメ聖女が最初に潰れて一気に詰むわ」
「め、面目ないです……」
シルヴィオがテンションの上がったリーアンに反論し、マティアスが最もなことを言ってくれました。いや、本当に面目ない。
でもこれは実際、しっかり作戦を考えなきゃダメだと思う。
今回はリーアン一人だけを解放したから、前回双子を解放した時よりは長い時間を保ったけど……それでも無限に続けられるわけじゃない。むしろ意外とすぐに力尽きたし。
「ねー、オレも解放してほしいんだけど! 約束したでしょー?」
「も、もちろん、覚えて、いますがぁあああ……」
そこへ、一切空気を読む気がないらしいガウナの登場です。横になっている私の肩を掴んでユサユサと揺らしてくる。
確かに約束はした! したけど一旦その揺さぶりやめてもらってもいいですかね!?
シルヴィオによってガウナが軽く蹴り飛ばされたところで、リーアンが少し真面目な顔で私の向かい側のソファーにドサッと腰掛けた。リーアンの真剣な姿は珍しいね……?
「なぁ、思うんだけどー。短時間ずつ順番に解放することって出来ない? ここぞというタイミングで解放を切り替えられれば、効率的に戦えるんじゃね?」
短時間、ずつ……? そっか、これまでは二回とも、解放したらギリギリまで解放しっ放しだったもんね。だからつい、戦闘では一人しか解放出来ないものだって思い込んでいたかも。
次に他の人を解放するのにいちいち休憩を挟まなきゃいけないから、やっぱり私には扱いきれない能力なんだってネガティブに入りかけてたよ。
普段、戦闘が大好きなだけあってこういうところに気が回るんだなぁ。リーアン、すごい。
でも、そのためには大きな問題点がありましてですね……。
「やってみる価値はあると思います。が、私の視力では皆さんの戦闘を目で追うことも出来ないです……」
何せ、その能力の持ち主がポンコツなもので! ああっ、やっぱりネガティブ沼に落ちそうですっ!
いやいや、落ち着いて。私がダメダメだってことくらい、ここにいる人たちはもう知っているんだから。それもそれで落ち込むけど。
いいの! だから手を貸してもらうの! 幻獣人のみなさんはハイスペックすぎるので比べるのも烏滸がましいんだから、落ち込むだけ無駄!
「な、なので、戦況を見て、次は誰に解放をとどなたか的確に指示してもらえるなら、あるいは……!」
そう。私が目で追えないなら他の人に見てもらえばいい。指示を出してもらったことに応えるくらいなら、私にも出来るのだから。
ただ的当ても苦手なので、正確に狙った人を解放出来るかは微妙だけどっ!
「それはジーノが適任ではないか? 周辺に結界を張れるエトワルとジーノが常にエマの近くに。さらにその周辺を避難所にして、怪我を負った者の治療をシルヴィオがするようにすればシルヴィオもエマの近くに控えていられるだろう」
「天才ですね、アンドリュー。見直しました」
リーアンの提案と私の主張を聞いたアンドリューが、かなり良い案を出してくれた。さりげなくシルヴィオを私の近くに置いてくれる配慮に脱帽です。
これ以上、私から離れる任務を与えたらバーサーカーになりそうだったからね……!
「後は戦闘の分担になるが……前線で戦う者がマティアスとジュニアスの二人。空からの遊撃部隊がリーアンとガウナ。カノアとギディオンは後方支援ってところか」
おぉ、まさしく最強の布陣っていうやつでは!? 負ける気がしなくなってきた……っていうのは言い過ぎかな。
彼らは一度、全員揃って禍獣の王と戦い、敗北した経験があるのだから。無責任にそんなことを軽々しく言えないよね……。
「完璧な布陣じゃん! これなら勝てるっしょー!」
リーアンが言った。え、私の気遣い……!
「そうね。後はダメ聖女が、どれだけダメじゃなくなるか次第ってところじゃないかしら」
「えっ、私、ですか……?」
ふん、と鼻を鳴らしながら腕を組んだマティアスが仁王立ちで私を見下ろしてくる。い、嫌な予感……!
「当然でしょう。禍獣の王との対決までに、アンタがどれだけ正確に、迅速に解放の力を扱えるようになるかが鍵になる。文字通り、鍵の聖女ってわけ」
お、おっしゃる通りです。でも、その口振りだともしかして……!
「特訓よ! ジーノとジュニアス、それからリーアンとガウナは交代で、これから毎日このダメ聖女を普通の聖女くらいにはなるように鍛えるわよっ!!」
ひぇぇぇぇっ!! やっぱりそうなるのねーっ!!
え、私、決戦前に使い物にならなくなったりしない? 大丈夫?
色々と特訓から逃げる言い訳を考えていた私だったけど、マティアスの有無を言わせない指示には誰も口を挟めず。
結局、禍獣の王の気配が強まるまでの間、私は厳しい特訓の日々を送ることに決定したようです。死……。




