嫌な予感がかなり当たるようになってしまいました
ガウナが綺麗に周囲を砂漠化したことで、外で戦っていた人たちもさすがに私たちの存在に気付いたみたいだった。隠れるような場所ももうないし、なるべくしてそうなった、といったところかな……。
全員、唖然として固まっているのが幸いだけれど! ただ、いつまでもこうしてはいられない。国王軍が追ってくる前にこの場を去らないと。
「ガウナ、ずいぶんと良い目覚めではないですか」
「あっ、やほー! シルヴィオ! 相変わらずスケベしてる?」
「誰がスケベですか、蹴り飛ばしますよ」
気付いた時には、シルヴィオが近くまで戻って来てくれていました。カノアとマティアスも! 無事なようで何よりだけど、会話の内容がなんというか、気が抜けるというか……。
「それよりもガウナ。エトワルの封印場所は知っているか。今は早急にエマに解放してもらい、朝露の館に戻らなければならない」
「ふむー、説明してる暇もない感じ? いいよいいよ、なんか楽しそう! ミッションだねっ!」
おぉ、こういう時にジーノの早口説明は助かるよ! ガウナも一応は雰囲気で察してくれていたみたいだし、協力的でホッとした。
胸に手を当ててため息を吐いていると、ヒョコッとニコニコ顔のガウナが覗き込んできてビックリ! 無邪気で可愛らしいのはいいんだけど……なんとなーく、嫌な予感を察知!
「君がエマチャンだよねー? オレはガウナ! よろっ! じゃ、ちょっと失礼してっと」
「えっ」
ガウナは腕を先ほどのように翼に変えたかと思うと、ジーノに抱えられたままだった私のわきの下辺りを足でガッシリと掴んだ。
あ、足で!? やっぱりものすごく嫌な予感っ! 当たってほしくなかった!
「みんなー! オレについてきてねーっ!」
「い、いやぁぁぁぁっ!!」
そしてそのままフライアウェイ! ジーノが私を掴むより早く、あっという間に空高く飛んでしまった。はやいっ、高いっ、怖いぃぃぃ!!
成す術もないのでとりあえずガウナの足にしがみつきながら叫ぶ私。
「エマ様っ! おいこらガウナぁ! てめぇエマ様が怖がってんだろうがぁぁぁ!」
「おいガウナ! エマは本当に弱いんだ! 扱いには気を付けろ!」
下の方からシルヴィオの怒声と慌てたようなジーノの声がかすかに聞こえてくる。これはあとでめちゃくちゃ叱られるヤツだよガウナっ!
だというのに当の本人はとても楽しそうにキャッキャとはしゃいでいる。強心臓……。
「わかってる、わかってるって! まったく心配性は相変わらずだなぁ、シルヴィオとジーノったら。このくらい平気だよねえ? エマチャン」
ガウナはまだ解放されたばかりなので、私の貧弱さを知らないんだよね。私の、というか人間のというか。感覚が完全に幻獣、獣人仕様というか。
つまりそれは、ぜんっぜん平気じゃありませ、ああああああああっ!!
楽しそうにグングン空を進むガウナ。私の悲鳴は風の中に消えていく。どうしてこうなった!? 最近は平和だったのにっ!!
それから数分間の空の旅。私はぐったりとガウナの足に身を任せている状態です。彼らがミスして私を落とすようなことはないのはわかるので、もうどうにでもなぁれ、な心境になっています。
「……ねぇ、エマチャン。本当に平気でしょ? オレ、これでも優しくしてるよ?」
「う、うぅ……それは、そうかもしれません」
少なくとも、自力で背中にしがみつかなきゃいけなかったり、肩に担がれてぐえっとならない分、ガウナの運び方はまだマシかもしれない。比較対象が悪すぎるとも言うけれど。
安定した飛行でほとんど揺れないし、足で掴まれているだけなのに妙に安定感が抜群。次第に慣れてきて景色を見る余裕が出てきた、といえなくもない。
それもただ、私が雑な扱いと破天荒な行動の数々に慣れてしまっただけなのかもしれないけれど。
「な、なんか、ごめんね? シルヴィオとジーノの言ってたことは、結構当たってたんだね。まさかそんなに弱いと思わなかったんだ……」
さすがに私の様子を見ておかしいと思ったのか、ガウナがしょんぼりと肩を落とす。は、反省の出来るいい子っ!!
「いえ、ちゃんと謝ってくれるだけでとても嬉しいですよ、ガウナ。今はゆっくり飛んでくれていますし、配慮は伝わってます。大丈夫」
「そ、そう? えへへ、それならよかったぁ」
ああ、素直。幻獣人の中で一番素直かもしれない。ちょびっとだけ癒された。
もちろん、無邪気に何をやらかすかわからないし、戦闘中の豹変ぶりを見た後なので油断は出来ませんけど!
とりあえず、話題を変えましょう。目的を見失わないためにもね。私が。
「あ、の。エトワル、でしたっけ。彼の封印場所ってどこなんですか?」
「エトワルはねー、綺麗な場所が好きだからオアシスにいるよ! 確かヤシの木の実の部分に封印されてたかな。景色を眺められる場所がいいってこだわってたから」
そんな感じで封印場所を決められるんだ? 人によるとは思うけど、彼もまたマイペースそうな雰囲気を感じるなぁ。
「あれぇ? オアシス周辺に人がいっぱいいるみたい。まぁいいや。見える? あの一本だけ無駄に高ーいヤシの木!」
ほとんど見えてはいないけれど、場違いにも一本の棒のようなものが伸びているのは確認出来た。あれ、ヤシの木だったんだ。
その根元には広くオアシスが広がっているらしいんだけど……まだそれらしきものも人がいるのも認識できない。やはり幻獣人の視力はすごい。
「このまま近付いちゃっていいのかな?」
「だーめに決まってっしょお!」
ガウナの呟きに背後から答える声が聞こえて慌てて振り返る。この明るい声はー!
「え? わ! リーアン! リーアンだーっ! ひゃほーっ!」
「ちーっす、ガウナ! 久しぶりぃーっ!」
そっか、リーアンも飛べるものね! 追い付いてくれたみたいだ。地上の様子は高さがあり過ぎてわからないけど、みんなも同じ方向に進んでいると思って良さそう。
「また二人でいっぱい暴れようよー! どっちがたくさん狩れるか競争とかさっ」
「おっ、いーねいーね! ガウナっちはそういうとこやっぱりサイコーっ!」
……ところでこの二人、本当に仲が良いなぁ。それはいいんだけど、絶対に今はその競争やらないでね? ね!?




