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この度、獣人世界に転移した普通の人間である私が、幻獣人を束ねる「鍵の聖女」に任命されました。  作者: 阿井りいあ
幻獣人が全員揃う日はあと少しのようです

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なんだか見てはいけないものを見た気がします


 私が祭壇に触れたのと足場が崩れたのはほぼ同時だったように思う。

 急にフッと寒さを感じたのは、ずっと抱きかかえてくれていたジーノの体温が離れたからだろう。崩れた足場と共に別の足場に跳んだのだ。


 私ですか? もちろん、無事です。なぜならそう! 絶賛こいのぼり状態だからですっ!


 ああああっ! 何度経験しても怖いし腕が痛ぁぁぁいっ! でも、もう弱音なんて言いません!

 解放時に巻き起こる風にある程度身を任せつつ、左手で右手首を支えるように掴む。こうすることで少しはマシになるって覚えたから。八人目にしてようやく……。


 ものすごい風が吹く中、目の端で金色の光を見た。うっすらと茶色も見えるその光は元気よく飛び出したかと思うと、グルグルと風に合わせて飛び回っている。ほ、本当に元気だなぁ?


 そして、次第にその光は金色に輝くグリフォンへと姿を変えていった。

 鷲の翼と上半身、ライオンの下半身。翼や尻尾の先が淡い茶色に見えるけど、ほぼ金色で眩しく感じる。


「いぃぃぃやっほーーーーう!! 外だぁぁぁぁっ! そーとーだぁぁぁぁいっ!!」


 そして響き渡る声。いや、テンション高っ!?

 そんなグリフォンの明るい叫び声を聞きながら、祭壇から手の離れた私は落下していく。足場どころか、もはや壁も床も全てが崩れていくのがスローモーションで見えた。


 こ、これ、ジーノも足場がなくてやばいのでは!? で、でも、信じるって決めたもの。必ず、拾ってくれるって!


 ギュッと目を瞑り、落下に身を任せる。というか、成す術なく落ちているともいう。

 恐怖が私の心を支配し始めた頃、ようやく身体に温もりを感じた。


「待たせた。暴れないでいてくれたのだな。拾いやすくて助かった」

「じ、ジーノぉ……!!」


 しっかりと抱きかかえてくれたジーノの存在のなんと安心することかっ! うっかり涙目になりつつしがみ付いてしまった。本当に怖かったので子どもみたいな真似をしてしまっていますが許してください!


 ただ、ジーノに抱えられているとはいえ、今もなお落下し続けている。このまま地面に叩きつけられたらジーノも怪我くらいしてしまうんじゃないかな……?

 心配になるけど、幻獣人が怪我をするというイメージがまったくわかない。たぶん大丈夫なんだと思う。私もずいぶんと慣れたよね。


「ガウナ! 瓦礫をどうにかしてくれ!」


 落下しつつ、ジーノは空に向かって思い切り叫んだ。その先に私も目を向けると、そこには小柄で金髪を靡かせた少年の姿が。

 あれが、ガウナの人型? 無邪気な笑顔が眩しい。


「わぁお! ジーノじゃん! えーっ、久し振りだねぇ。元気だったぁ?」


 ガウナはジーノの声に反応し、キャッキャと楽しそうに挨拶を返した。翼まで振ってる……!

 あ、挨拶は大事だけど今はそれどころじゃないーっ!!


「あれ、そこのお姉さんはだぁれ? 清楚系って感じー! かわいいねー!」

「話を聞け、ガウナ。このままでは瓦礫に埋もれてエマが死ぬ」


 あれっ、思っていたより危機的状況だった? ジーノがいるから大丈夫、なんて信じ切っていたけど……確かに、瓦礫に埋もれたらジーノが一緒でも死にかける気はする。


「えー、そのくらい避けてよ」

「エマは恐ろしく弱い。小石が当たっただけで死ぬ」

「うわ、それ本当!? やばいじゃん。わかった、まっかせてー!」


 言い過ぎですが彼らの言う「小石」がどの程度の石なのか判断も出来ないので黙ります。それにしても、ジーノの中で私の弱さに拍車がかかっているよね……? 複雑です。


 さて、そうこうしている間にもジーノは落下している瓦礫を飛び石にしてピョンピョンと出口に向かって移動を続けています。わかってはいたけれど、やはり恐ろしい運動能力……! ガウナと話もしながらだというのに!

 気付けばいつの間にか、神殿の外へと出ていました。は、速い。


 それからほんの数秒後、急に下から突き上げてくるような風が巻き起こった。うわ、何あれっ!? 竜巻!? あと少し遅かったら巻き込まれていたかも。


「あっははははは!! 吹き飛べぇぇぇぇっ!!」


 加えてものすごい叫び声。え、あ、え? あれって、さっきまで無邪気にキャッキャと喜んでいた人と同じ人、だよね? なんか顔変わってません!? なんという豹変ぶり……!

 明るくて無邪気だから意外と普通だな、可愛らしいな、なんて一瞬でも思った私が馬鹿でした! やっぱり癖が強いっ!


 愕然としながら見守る中、数十秒後にはそこに神殿があったなんて思えないほど真っ新な、ただの砂漠になっておりました。

 ゆ、夢でも見ていたのかぁ……? いやいや、現実逃避をしていちゃダメ。


 いや、なんというか、あの神殿って世界遺産的な、こう、大事な建造物とかじゃなかったのかな……? 今更だけど、吹き飛ばしちゃって大丈夫だったのだろうか。

 呆然と見ている私に気付いたのか、ジーノがあまりフォローになってないフォローをしてくれた。


「ああやってガウナはここら一帯を砂漠化したんだ。別に驚くほどのことではない」


 驚くほどのことですよっ! えっ、ここが何もない砂漠地帯なのはガウナのせいだったってこと? な、なんでそんなことを……。


「まぁ、管理する者がいない建物を放置すると禍獣が巣くうからな。間違いではないんだが、本人はそんな意図なく楽しいからやっているだけだろう」


 そ、それは結果オーライというヤツ、ですかね? は、ははは……。こ、これ、リーアンとタッグを組んだらどんなことになっちゃうんだろう? あ、考えたくないや。


 新たな幻獣人は、無邪気でかわいい系の破壊グリフォンでした。え、ええ……?


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