だいぶ肝が据わってきたような気がします
神殿の周辺が大混乱になっている。気配でそう感じるだけだけど。
だって落ち着いて見る暇もない! ジーノが正面突破していくんだもの!!
シルヴィオとカノアが向かって行ったのと同じ方向に走り出した時はものすごく焦ったよ。かく乱の意味!? って思って。
でも、たぶんジーノは最短距離を行っているのだ。どうせ気配を察知されにくいのだから遠回りするだけ時間の無駄ってことなんだと思う。
察しはしたけど、無茶苦茶だなって感想は拭えません。
まぁね? 実際、こんなに堂々と正面から向かっているのに誰にも目を向けられないしね?
それほどシルヴィオとカノアの襲撃で混乱しているっていうのもあるけど、ジーノの能力によるところが大きいのだろう。執事風忍者、恐るべし……!
「封印はあの上にありそうだ。気配でわかる。少し跳ぶが落とさないから安心してくれ」
「えっ、うっ……!!」
ものすごいスピードで人の間を駆け抜けながらジーノが早口でそう言った。私がその言葉の意味を理解する前に、急に浮遊感を覚えて息が止まる。
あっ、少し跳ぶって言ったのねぇぇぇぇっ! いやぁぁぁぁっ! 少しなんかじゃなぁぁぁい!!
体感で十メートルくらいは跳んだ気がする。もはやジャンプの域を超えてません?
実際はそんなに高くはないかもしれないけど突然だったこともあってすごく高かった気がします。今更ですけどね! もう、幻獣人っていうのは本当にっ!!
「叫ばないのだな。見直した。おかげで誰にも気付かれなかった」
「は、はは……」
数十秒後、いや本当はほんの数秒だったかも。スタンと音もたてずに着地を決めたジーノがフッと笑いながら私を褒めた。
いや、突然すぎて声も出せないほど驚いただけです。ある意味、叫ばずにすんでよかったとも言えるけど。はぁ、心臓に悪い。
「このまま神殿内へ向かう。封印場所はこの奥だ」
「わかるんですね」
「さすがにここまで近付けば察知する。恐らく、封印されている者も俺たちが近付いていることに気付いているだろう。外で起きている騒ぎにも。そこはかとなく急かされている気もする」
急かされている? それは早く解放してほしいって思っているってことかな。すごい、そんなことまでわかるんだ。
というか、封印された状態なのにある程度の状況を把握しているっていうのもすごいけど。
「もしかすると、戦闘の雰囲気を察して参加したいと思っているのかもしれない。そうなるとここに封印されているのはガウナだろうな」
なるほど。確かグリフォンの幻獣人で、リーアンと一緒に戦うのが好きなんだっけ? 今この状況でそういった存在はこちらとしても助かります!
「じゃあ、すぐ解放しないとですね! 向かってもらえますか?」
「無論そのつもりだ。ただ、神殿は脆くなっている。突然、足場が崩れる可能性もあるだろうから先ほどのようにしっかりと俺にしがみついているといい」
「わ、わかりました」
それは急に跳んだり、ものすごい動きをする場合があるってことですね!
言われてすぐ、私はジーノの首に腕を回してしっかりと掴まった。ジェットコースターにでも乗ったと思えば怖くない! 乗ったことはありませんが。
そんな私の想像通り、そこからのジーノに遠慮はなかった。同じ場所に二秒も留まらないといった感じでピョンピョンと飛び石でも渡るかのように移動していく。私は呼吸を止め、舌を噛まないようにするので精一杯だ。
時々、乗った瞬間に足場がガラガラと音を立てて崩れていくのを見た時には肝が冷えましたが、一切動揺した様子のないジーノのおかげで笑顔が引きつる程度で済んでいます。
これはアトラクション、これはアトラクション。
「あそこだ」
「!」
移動すること数十秒、ついに目的地へと辿り着いたらしい。
祭壇……? その部分だけ光が射しこんでいてなんとも神秘的な場所に見える。
「今からあの場所に跳ぶ。だがすぐに足場が崩れるだろう。着いた瞬間に封印解除出来るか?」
「ええっ、崩れちゃうんですか!? え、えっと、そうですね……封印を解除する数秒ほどは手が祭壇にくっ付いたまま離れないので、落ちることはないと思います」
「では、手が離れるまでには再びエマの下へ辿り着く。場合によっては落下中に拾うことになるがケガはさせないと約束する。すまない、俺が空を飛ぶ種族なら空中で待機出来るのだが」
今、サラッととんでもないことを聞いた気がしますね……! もう今回の解放はこいのぼり確定じゃないですか?
出来れば手が離れる前に来てもらいたいところですが、こいのぼり状態もそれはそれでかなりキツイので、落下中に拾われるのも怖さレベルではそう変わらない、かな?
え、ええい! 覚悟を決めるのよエマ! 申し訳なさそうに言ってくれるだけ他の幻獣人たちよりも遥かに親切! ここで引き返すという選択肢はないんだからっ!
「し、信じてますからね、ジーノ!」
「ああ、その信頼には応える。信じてもらえて嬉しい、エマ」
短いやり取りを終え、すぐにジーノは祭壇に向かって跳んだ。覚悟はまだ決まっていなかったけど、時間があれば決まるというものでもないので今はそれがありがたい。
やるしか、ないっ!!
目の前に祭壇が迫り、私は迷わず手を伸ばす。目覚めてください、ここに封印されている幻獣人さんっ!!




