苦肉の策を提案されました
さて、今何が起きているのかを知ることを諦めた私はシルヴィオに抱えられながらグングンと砂漠を進んでおります。
目的地である神殿がまだ見えないけれど、この人たちにはわかるみたい。どうなってるの、視力。
「今は戦闘特化タイプが近くにいませんから、早急に封印を解除しに行きましょう」
「ガウナだったらいいねー? リーアンと一緒に戦うの大好きだからさー」
「エトワルならエマの守りが万全になる。いずれにせよ助かるのだからどちらでもあまり変わらない」
シルヴィオ、カノア、ジーノの三人はものすごいスピードで走りながらも、普段通りのテンションで会話を続けている。舌、噛まないのかなぁ。
そうこうしている間に神殿が私の目でも確認できるようになってきた。ものすごく遠くに小さく何かがある、くらいしかわからないけど。一般的な人間の視力なんてこんなものです。
「っ、囲まれていますね……」
「あーあ、あの状態じゃ近付けないねー」
急に移動の足が止まる。シルヴィオが舌打ちをせんばかりに苦々し気に呟いた。一方、カノアは相変わらずの軽い調子だ。
「国王軍、ですか?」
囲まれている、というのなら統率されているのだろう。禍獣ではなく国王軍である可能性が高い。私が訊ねるとシルヴィオは神妙な面持ちで頷いた。
「数がかなり多いな。このまま突き進むのは危険だが、一刻も早く封印から解放もしなければならない。安全をとるべきか、使命をとるべきか」
ジーノも顎に手を当てて考え込んでいる。そ、それはもちろん……使命、だよね。とるべきは。
ただ私の場合、足手纏いになるんじゃないかっていうその点が一番心配だ。
「蹴散らすのは簡単だけどー、殺しちゃうもんね」
か、カノアはのほほんとしながら物騒なことを言わないでもらいたいです……!
でも事実、問題はそこだ。取り囲んでいるのが禍獣であったなら遠慮なく退治出来るんだもの。
相手が禍獣の王の影響を受けている国王軍だからこそ、下手に攻撃することが出来ないのだ。本当なら国を思う良い人たちなんだものね。た、たぶん。
「……いえ、方法はあります。カノア、少しの間だけ戦闘力を貸してください。オレも微力ながら戦いますので」
「えー、加減出来ないよー?」
一方、シルヴィオには案があるようだった。でも、ものすごく難しい顔になってる……。それほど危険なのかな。カノアを戦闘力として数えなければならないほどに。
ドキドキと緊張していると、ジーノにはすぐその作戦がわかったようで、得心がいったように一つ頷いてから口を開いた。
「ああ、なるほど。シルヴィオとカノアが引き付けている間に、俺がエマを連れて神殿に潜り込めばいいのだな?」
あ、そういうこと? 確か、ジーノは隠密的な動きが得意なんだもんね。確かに彼ならあまり気付かれずにあの包囲を搔い潜れるのかもしれない。
でも、相変わらずシルヴィオは険しい表情。心配、してくれているのかな……?
「その通りです。あれだけの包囲網を潜り抜けられるのはジーノだけですから。エマ様、絶対にジーノから離れてはいけませんからね! とにかくしがみついて……くっ、他の男に密着などと本来許し難いのですが命には代えられません……!」
あ、そっち!? 安定のシルヴィオだった!!
もう、心配して損したよ。でも、危険なことに変わりはないものね。気を引き締めなくちゃ。
「案ずるな。決してエマに怪我などさせない」
「ジーノの返事は求めていませんし、そもそも当然のことなんですよ、それは」
態度の差が酷い。誰も気にしていないみたいなのが余計に気まずいんですが!? 私だけヒヤヒヤしてます! 思わず口元が引きつっちゃうよ……!
「シルヴィオー。それなら相手を攻撃しなくてもいいってこと? じゃあ気にせず暴れてオッケー?」
「少しは気にしてください。貴方が幻獣型になった時の狙いを定める能力はゴミなんですから」
「は? その通りだけど言い方がムカつくー」
シルヴィオはあとほんの少しでいいから私に向けてくれる気遣いを他の人にも向けてあげてもらえませんかね!?
で、でも確かに気にせず暴れられたら被害がとんでもないことになりそうだよね。言い方はアレだけど、注意をしてもらえたのは助かります……。
「カノアは攻撃するなら軽く、本っ当ーに軽く物理的なものだけにしてください。オレは場をかく乱させつつ、不本意ですが危険な時は国王軍を守りますから。ただ、攻撃する意思がないということはすぐにバレてしまうでしょう。解放を急いでもらえると助かります」
「わ、わかりました!」
的確な指示に頭が上がりません! それなら私は自分の仕事を迅速に行うのみ! 移動も全てジーノ頼りだけれど。
シルヴィオの腕からジーノに受け渡される私。今日はあまり地面を踏んでないなぁ……。
「では、後は頼みます! エマ様、どうかお気をつけて。行きますよ、カノア」
「はいはーい」
二人はそれだけを言い残し、あっという間に駆け出した。国王軍のいる神殿へと走りながらその姿を幻獣型に変えて。
シルヴィオのユニコーン姿は美しいし、カノアのドラゴン姿は本当に大迫力だ。
普段の二人に慣れてしまっているから、やっぱりあの姿には圧倒されちゃうな。どうしても委縮してしまう。神に近い幻獣種なんだって改めて実感しますね……!
「では俺たちも行こう。離すつもりはないがエマもしっかりと掴まっていてくれ」
「は、はいっ」
そうだ、今はこっちに集中。残る二人の幻獣人を一刻も早く解放しなきゃ!




