最初から何やら危機が迫っているようです
「じゃあ、しっかりやるのよ、ジュニアス」
「……すぐ戻る」
本当に仲がいいんだなぁ、この兄弟は。見た目がスーパーモデル級に整っているから、至近距離で頬を撫で合うその姿はなんだか見ちゃいけないような雰囲気が漂っているけど。
「はい、ドア出したよー」
カノアは相変わらず仕事が早い。でも、今は少しでも早く残りの二人を解放したいものね! こっちも早速オウに向かいましょう!
「では、行ってきます!」
「ああ、頼んだ。……気をつけて、エマ」
「はい!」
気合いを入れるためにもいつもより大きめに声を出すと、アンドリューがふわりと微笑んだ。慈愛に満ちた目というか……完全に保護者と子どもの図って感じがします。
アンドリューとマティアスの二人が見送る中、私たちはドアを開けてオウに足を踏み出す。
ギディオンですか? すでに姿が見えなかったので部屋に戻ったんじゃないかな……。安定のマイペースぶりです。
まぁ、彼が一緒になって見送っていたら逆にビックリしちゃうけれど。
扉を抜けた先は黄色い世界になっていました。ここは、砂漠地帯? 水の気配がなくて乾いた世界という感じ。それでいて風が強いから、砂が巻き上がって視界も悪い。オアシスとかはあったりするのかな?
というか私、まずこの場所を無事に歩けるのだろうか。砂に足を取られて迷惑をかけそう……。
「相変わらず砂だらけですね……風も強いのでオレとジーノで風除けになりますよ」
「それがいいな。エマの弱さを考えるといつ吹き飛んでしまうかわからない」
そ、そんなにか弱くはないのですが? さすがにこの程度の風では吹き飛びません。幻獣人を解放する時の風は飛んじゃうけれど。
それよりもうまく歩けるかの方が不安です。すみません。
「必要であれば俺がまた抱えて移動する。その方が速度も出て安全に目的地まで行けるだろう。そう考えると今から抱えた方がいいのではないか?」
なんだかジーノにとっては私、実際よりもかなり弱い生き物として認識されている気がする……? 過保護がすぎません?
「ちょっと待ってください。その役目はオレがします。オレの目が届く範囲においてエマ様に触れる役目は他の者には絶対に譲りませんよ!」
あ、ありがたい話ではあるんだけど、シルヴィオといいこの前の旅とは扱いが正反対すぎて脳がパニックを起こしそう。荷物扱いの前回は、それはそれで心臓に悪かったけれども。
というわけで、今の私は右にシルヴィオ、左にジーノを侍らせて移動している状況です。二人とも距離が近い。
両手にイケメンさんだなんて状況、自分には一生縁がないと思っていたのに人生ってわからない。
さっ、さすがに最初から抱えられるのはちょっと、と遠慮させてもらいましたよ! 自分の足で移動出来るならそれが一番だし! シルヴィオだっていざという時に両手が空いていた方がいいでしょう?
まぁ、今も何度か転びそうになっているので時間の問題だとは思うのだけれど、足掻くくらいはさせてください……。なけなしのプライドが仕事をしているのです。
「ところでさぁ、僕は二人の封印場所までは知らないよ? 魔力で感知するのもお任せしていーでしょー? 面倒くさいもん」
カノアはちいさく欠伸をしながら気怠そうに最後尾からついて来ている。自分の仕事はドアの出し入れだけ、と思っていそうだ。
もちろん、それでいいし文句はない。自分の身くらいは守れるだろうしね。
「おう、オレっちに任せといてー! ちょっち先行して空から見てくるからー、三人はオレっちが飛んでいった方に向かって進んでてー」
カノアの言葉に返事をしたのは先頭を意気揚々と歩いていたリーアンだ。楽しそうにそう告げると、彼はすぐに腕を羽に変えて空へと飛び立っていく。
相変わらずリーアンの纏う炎は美しいな。水色の炎はやっぱり神秘的。久しぶりに見たよ。
「エマ様、そろそろ抱えさせてくださいね。リーアンが偵察に行ってしまいましたから、少しスピードを上げないと。ジュニアス、先頭を歩いてもらえませんか? ジーノはオレとエマ様のやや前を。カノアは後ろから異変があれば知らせてください」
シルヴィオが流れるような手つきで私を抱えながら的確に指示を出してくれる。大変助かります! ジュニアスが嫌そうに顔を顰めたけれど、みんなそれぞれがちゃんと指示に従ってくれるようだ。
まぁ、ジュニアスが嫌そうなのは、マティアス以外に指示されたという一点のみだと思うけどね。揉めずに従ってくれているので何も言いませんとも!
そうこうしている間に空からリーアンが戻ってきた。……けど、何かを叫んでる? 私には聞き取れないや。何を言っているんだろう。
「っ! 全員、東へ! ジーノはオレとエマ様から離れないように! なんとしてもエマ様を守り抜きますよ!」
「言われるまでもない」
他のみんなにはちゃんと聞こえたみたいだ。シルヴィオの声を聞くよりも早く、あれよあれよという間にそれぞれが動き始めて、なんだかものすごい緊迫感がっ!
あのカノアでさえ真面目な顔をしてる。珍しいものを見た……!
ちなみに私はひたすらシルヴィオにしがみ付くことしか出来ない。彼の抱え方は安定感抜群で、かなりのスピードなのにちっとも怖くないのはすごく助かる。助かるんだけど!
「ちょ、何が起きたのか、説明だけでもお願いしますぅぅぅっ!!」
空からリーアンが、そして地上ではジュニアスが戦闘態勢に入っており、彼らを背にシルヴィオ、ジーノ、カノアが東へと向かって走っている、らしいことしかわからない!
たぶん敵が来たのだろうけど、それは禍獣なの? 国王軍なの?
「えっとねー、あっちに石碑の並ぶ神殿があるらしいよー」
「か、カノア、説明はありがたいのですがたぶんそういうことじゃないですぅ!」
ええい、もういいや! たぶんそっちに封印されてるってことだもんね! 私は私の仕事に集中しますよーっ!




