次の目的地は人数多めで行くようです
「ああ、エマ。……顔が赤いな? 熱でもあるのか?」
「い、いえ。これは少し湯船に浸かり過ぎてのぼせただけですね……」
なんだかんだと言っていても臆病な私がそう簡単に消えるわけでもない。おかげで、気合いを入れるために何度も顔にお湯をかけることになってしまった。
結果、これですよ。ええ、のぼせました。あ、暑いー。
「エマは本当に身体が弱いのだな。いくらゆっくりしてもらいたいとはいえ限度は考えた方がいい」
そんな私を見てジーノに真顔でそんなことを言われてしまった。ごもっともです。本当にすみません。手のかかる人間で……。居た堪れないのであんまり心配しすぎないでください。
「色々とお考えだったのでしょう? お悩みは尽きないでしょうし、仕方のないことです。エマ様、さぁ、お水ですよ」
「うぅ、ありがとうございます、シルヴィオ……」
シルヴィオの気遣いも染みる! いやはや情けない。
でも実際、シルヴィオの言う通りだった。悩みは本当に尽きない。いくら新しく出来ることが増えたからって、ほんの少し聖女っぽくなったからといって、私じゃなくなるわけじゃないんだもの。
正気を失いつつある国王軍や、強くなってきた禍獣の群れ、そしていよいよ迫っている禍獣の王との戦い。
怖いに決まってる! 私は本当に心も身体も弱い、ただの小娘なんだから! 勇気なんて出ないよー! ごめんなさーい!
「エマ、早速だが話を進めても構わないか? 楽にしていて構わない。耳だけ貸してくれ」
「も、もちろんです! すみません、ご迷惑ばかりおかけして」
と、現実逃避している暇なんてない。アンドリューの声にハッとなって姿勢を正す。しっかりしなきゃ。マリエちゃんにもエマは相変わらずだね、って笑われちゃう。
「知っての通り、残る封印された幻獣人はあと二人だ。場所はオウ。そこにはペガサスのエトワルとグリフォンのガウナがいる」
ペガサスとグリフォン……! この二種類は私にもわかる。翼の生えた馬と、鷲の上半身とライオンの下半身を持った幻獣だよね。
そういえば、シルヴィオはエトワルなら無害みたいなことを言っていたっけ。同じ馬の幻獣だから少し親しみがあるのかな?
ガウナは確か、悪戯好きって聞いたような気がする。リーアンが一緒になって遊びたいって言っていたよね。
どんな人たちだろう。幻獣人なんだから色々と変わっている部分はあるんだろうけど、ちょっと楽しみかも。
「コクでも国王軍が待ち伏せしていたのだろう? 最後の封印地であるオウには、さらなる軍勢が待ち受けている可能性が高い」
それは、確かに。今度は絶対にオウに現れるってわかっているわけだし。国王軍がこちらの動きを簡単に予想が出来る状況っていうのは、改めて考えるときついよね。すごく今更だけど。
「だから次は少し人数を増やして向かってもらいたい。まず、カノアは必ずついていってくれ」
「えー。なんでさー」
「コクの時は扉の下に戻らなければならず、危険な目に遭ったと言っていただろう。カノアが一緒なら、場所を選ばずにこの館に戻って来られる」
あれは、今考えると本当に危険だったよね。すぐに扉が出せるというのはとても助かるよ。いつでもセーフティーゾーンに向かえるってことだもの。
最悪、足手纏いな私をポイッと出来るものね。そうならないように頑張りはしたいけど、安心感が段違いだ。
「チョコケーキ二つ」
「……用意しよう」
「よーし、それなら行ってもいいよ」
渋っていたカノアだったけど、意外と簡単だった。いや、この世界でチョコケーキを用意する大変さを知らないからなんとも言えないけれど……。
甘いものにつられるカノアはちょっと可愛く見えるなぁ。
「ねーねー! エマチャンは人型でも幻獣の力を解放してくれるんでしょ? オレっちもやりたい! 暴れたい! いーでしょー? オレっちがいれば空から偵察も出来るしー!」
そこへ、リーアンがハイハイ! と手を上げて立候補してくれた。まぁ、理由が解放した状態で戦いたいだけっていうのはらしいよね。
私としてはそれでも構わない。心強いし、やる気があるのはいいこと!
「俺もついて行こう。いざという時はエマを連れて戦場も駆け抜けられる」
「今回はオレも絶対に行きますからね。異論は認めません!!」
続いてもはや私の保護者のような存在となっているジーノとシルヴィオが立候補してくれた。なんだかすごく頼もしい反面、あんまり心配されすぎるのも困るという微妙な心境です。いえ、すごくありがたいのですが!!
「それならアタシは留守番でも問題ないわよね」
「マティアス行かない。ボクも行かない」
マティアスはリーアンがいるなら自分が行く必要はないだろう、とのこと。そして兄至上主義のジュニアスもそれに追従する形だ。
ギディオンも自分はパス、と手をヒラヒラ振っている。ってことは、今回は四人で向かう形になるのかな?
「出来ればジュニアスにも行ってもらいたいんだが。エマの守りは固いが、戦闘力がもう少しあった方がいい。オウは乾燥地帯だからマティアスには辛いが、ジュニアスは力を発揮出来る場所だろう?」
「やだ。残る。マティアス、一緒」
アンドリュー的にはジュニアスにも行ってほしいみたいだけど……当の本人は取り付く島もないといった様子だなぁ。即答だし、マティアスの腕にしがみ付いているし。
「ジュニアス? あまりワガママを言ってはダメよ。実際アンドリューの言う通りなんだから。封印の時のように、もうずっと会えないわけではないんだし」
「……」
「オウという貴方にとって有利な土地で、思う存分力を発揮してもらいたいわ」
あ、マティアスが説得してくれてる……! これなら一緒に行ってくれるかな? ドキドキしながら成り行きを見守っていると、二人の間にヒョコッとリーアンが割って入ってきた。えっ、な、何をする気なの!
「そうだぞ、ジュニー! オレっちたちと一緒に楽しもうぜー!」
「うるさい! 黙れ! あっちいけ! 呼んでない!」
「わははーっ! それが聞きたかったんだよーっ! 久しぶりに聞いたなぁ、ジュニーの罵倒!」
び、ビックリしたぁ!? 急に叫ぶから耳がキーンってなったよ! ジュニアスってあんな大声も出せるんだ? そういえばカノアの評価は面倒くさくてうるさい、だったっけ。
なるほど、ずっと喋るリーアンのようなタイプではなくてこういうタイプのうるささだったんだね。はぁ、驚いた。
というか、それを聞きたいがためにわざと間に入ったの? せっかくマティアスが説得してくれていたのにジュニアスが殺気を放ってますますマティアスにくっついちゃったよ!?
もう、どうしてくれよう、この状態。ま、マティアスー! 頼みますーっ!!




