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この度、獣人世界に転移した普通の人間である私が、幻獣人を束ねる「鍵の聖女」に任命されました。  作者: 阿井りいあ
幻獣人が全員揃う日はあと少しのようです

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私は生まれ変わったのだと思います


 とんでもないことを思い出してしまった。


 そうだ、私は義母に首を絞められて……たぶん、そのまま死んだんだと思う。それはこの世界に来る直前のことだ。


 ……たぶん? だって、よくわからないんだもの。今、私はこの世界でこうして生きているし、あの後どうなったのかなんて知る由もない。

 もしかしたら死ぬ直前にこの世界に身体ごと転移したのかもしれない。だとしたら、義母はどれほど驚いたかな。もしそうなら、やっぱり悪魔だったとか騒いでいたかもしれない。


 今となってはあの家が、義母がどうなっているのかを確かめる術はない。ただわかるのは、私もマリエちゃんも向こうの世界にはおらず、今はこちらで生きているってこと。


 私たちは、死んだことになっているのかなぁ。マリエちゃんがそうだったし、たぶんそうだよね。


「……妙に、スッキリした、かも?」


 とても恐ろしい夢だった。かなり苦しかったし、魘されていたかもしれない。だけど、怖いとはこれっぽっちも思わない。殺されたあの瞬間のことはまぁ、そりゃあ怖いけど……。


 全てを思い出したことで、過去を清算出来たの、かなぁ? 結局、義母にも誰にも教えてもらえなかったから、マリエちゃんがどうして亡くなったのかはわからないけど。


 あの日、どうしてマリエちゃんは帰ってこなかったんだろう。お葬式はしたみたいだけど、私は参加させてもらえなかったから棺の中がどうなっていたのかも知らない。

 ただ、マリエはお前のせいで死んだんだって……そればっかり言われていたから。


 ずっと、何が何だかわからないまま、私は義母に責められ続けていたのだ。


 ……ううん。もう、いいや。あの時なにがあったかなんて、知らなくてもいい。

 大切なのは今、マリエちゃんを助ける手段があるということだもの。


 私は、前を向くって決めたんだから。


「スッキリしたということはよく眠れたということだろうか。それは何よりだが、かなり魘されていたように見受けられる。一度汗を流してくるのが良いのではないか」

「わぁっ!? えっ、あれっ!? ジーノ!? い、いつの間に……!」


 一通り考えがまとまったところで上半身を起こした時、急に声が聞こえたから飛び上がって驚いた。し、心臓に悪いっ!


「昨晩からずっといた。もちろん部屋の外だったが、エマが起きた気配がしたため様子を見にきた」


 どうやら、部屋に入ってきたのはたった今みたいだけど、ドアの向こう側からでも私の様子は筒抜けだった模様。それはそれで、ものすごく恥ずかしい!

 ま、まぁ、心配しての行動なのだろうからあまり強くは言えないけど、私はこれでも年頃の女性なのですが……!


「湯は沸いている。汗を流し、今後について皆で話し合おう。事情を聞いたが、出来るだけ迅速にあと二人の幻獣人の解放をするべきだ。貴女の身の安全のためにも。禍獣の王からこの世界を守るためにも」

「そ、そうですね。わかりました。出来るだけ急ぎますから、ジーノも戻っていいですよ?」

「急ぐことはない。多少のんびりしてきても問題はないと愚考する。まずはエマの体調を万全にすることが何より優先すべきこと。心身の健康を疎かにすべきではない。有事の際に適切な行動をするためにも貴女の完全回復は急務だ」

「わ、わかりました!」


 ここで素直に返事をしないと説得が続くとみた! こういう勘は結構当たるものである。

 私はサッと着替えを袋に入れて、浴室へと向かった。


 朝露の館の浴室はマティアスのこだわりによってシャワールームと浴槽に分けられている。幻獣人たちが使う男性用と女性用に分けられているのもありがたいよね。おかげで手足を伸ばしてゆったりできる。

 肩まで湯船に浸かりながら、私はホゥッと息を吐いた。


 それにしてもジーノの淡々とした早口の喋り方は独特だなぁ。見た目が執事で丁寧に喋りそうなのがまたギャップで……。

 感情が見えにくいけれど、身を案じてくれているのは素直にありがたい。ここ最近、割と雑な扱いをされてきていたから特に。


 い、いや別に、マティアスやギディオン、ジュニアスが悪いってわけじゃないよ! それが幻獣人であり、彼らなんだもの。私も彼らの態度をそのまま受け入れていたし。

 というか、シルヴィオやジーノのように甲斐甲斐しくされすぎるのも落ち着かないけれど。なんだろう、この両極端な感じ……。そろそろ慣れてはきたけどね。


 両手でお湯を掬ってぼんやり眺める。

 なんだろうな、自分が一度死んでいるっていうのに妙に冷静だよね、私。正確には死んではいないのかもしれないけど、殺されかけたのは事実だというのに。


 だけど、私はやっぱりあの時に死んだのだと思う。あの世界で生きてきたエマは死んだのだ。

 そう考えるのが一番しっくりくる気がするから。あの世界に未練はない。あったとしても戻れるとも限らないし。


 私はこの世界で生きていく。幻獣人ばかりの世界でただ一人の人間だし、私の常識はあまり通用しないし、なんだか振り回されてばかりだけど。

 少なくとも、この世界には居場所がある。私を受け入れてくれる人がいる。そして何よりマリエちゃんがいるから。


「あと、二人か……」


 開放すべき幻獣人はあと二人。みんなが揃ったら禍獣の王との戦いになるんだよね。

 全てが終わった時、みんながちゃんと揃っているといい。教会のみんなやこの世界の人たちが安心して過ごせるような世界になってほしい。国王様も正気に戻ってくれたらいいな。そして、アンドリューと力を合わせて一緒に国を立て直してほしい。


 そんな平和な世界で、私は今度こそマリエちゃんと暮らすんだ。


「あの約束は、まだ叶えられるよ。マリエちゃん」


 とにもかくにも、まずはあと二人の解放だよね。私に出来ることも増えたし、今後はもう少し役に立てるように頑張らないと。

 本当はすごく怖いけど。で、でも! 今まで見ないふりして、逃げてばかりだったんだから。頑張らないと、エマっ!


 バシャッと思い切り顔にお湯をかける。もう二度と、逃げたりなんてしないんだから!


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― 新着の感想 ―
[一言] 『エマは長湯…適切な温度を保つようにしなければ…』 『分かっていませんね』 『む?何がだ?』 『エマ「様」です。エマ・様ですよ?』 『エマ…様…。ふむ。妙にしっくりくるな』 『ああ、あとです…
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