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12/15

回想 私と彼の12年

長くなりました、2日分更新だと思ってください

決して連続更新が切れた言い訳ではございません

本当ですからね


今回はツボミの回想です

少しずつ彼らの過去に触れていきましょう

気付いたら私は泣いていた。勉強して、家に帰って、ご飯も食べず布団にこもる。なぜ私はこんな思いをしているのだろう。そうして今日あった光景を思い返す。怒り狂った彼女の顔が目を瞑ると鮮明に蘇ってくる。あんなに仲良くしていたのに、どうしてこうなってしまったのだろう。

理由はわかっている。私は思い返し始めた。そこに至るまでの私の事を、私と彼のことを。


これは私の、土御門 蕾の記憶である。


気付いた時から彼は私の隣にいた。幼稚園でも、いやそれより前からだ。家が隣、母親同士が仲が良い、さらに同い年の子どもが生まれた。そのおかげで私たち土御門家と、お隣の天橋家はよりご近所付き合いが活発になった。私と彼はいわゆる生まれた時から知っている仲なのだ。とはいえ、それが好意につながるとは限らない。どちらかと言えば嫌いだった。私は彼によくいじわるをされていたのだ。

「かえして〜!わたしのくまちゃんかえしてよ〜!」

「のぼってきたらかえしてやるよ、ほらはやく」

これは幼稚園に入る前の私たちのやりとりだ。彼にクマのぬいぐるみを取られ、ジャングルジムの上まで逃げられた。高いところが苦手な私では彼の元までたどり着けなかった。こんなことがずっと続いた。幼稚園に入ってからもだ。しかも幼稚園に上がってからエスカレートする。いじわるは私だけじゃなくて色々な子に及んでいた。それでよくケンカもしていた。なんというか、悪ガキだった。ある時もう彼と遊びたくないと母に相談したことがある。しかしのんきな母は、

「男の子は好きな子にいじわるしたくなっちゃうものなのよ」と言ってさらっと流した。その理屈でいくと彼はとんでもない博愛主義者ということになる。それくらい彼は無差別に色んないたずらを仕掛けまくっていた。私は唯一、日に一度は必ず何かをされる子どもだったが、それ以外は完全に無差別だ。

そんな子だったから当然周りに嫌われていた、かというとそうでもない。不思議と彼の周りには人がいっぱいだった。昨日いじわるされた子だって、次の日には仲よさそうにしていた。彼のいたずらは確かに過剰だ、時には泣かせてしまうことだってある。しかし今思うとそれは彼の一緒に遊びたいという意思表示だったのかもしれないし、そうでなかったかもしれない。子どもというのは簡単で、ケンカしても仲直りすればすぐに一緒に遊び始める。いじわるして、先生に怒られて、仲直りしたらその子と友達になる。これが彼なりの友達作りだったのかもしれない。

まあ私の場合は泣かされすぎて怒りしか湧いてこなかったのだが。

彼のおかげで、なんだかんだ私は強くなった。幼稚園を卒園する頃には、彼に反撃ができるまでになっていた。昔は登れなかったジャングルジムにもあっさり登り、ひたすら走らされたから足もはやくなって、散々怒らせれて気も強くなった。年長の時では彼を捕まえて、いじわるして泣かせた女の子に謝らせるのが私の役目になっていた。

その彼と私の関係が変わったのが、小学校入学直前だ。

私の母が能天気に彼の母に彼の悪行を話したらしい。特に告げ口というつもりもなかったようだが、彼の母は彼を許さなかった。そして彼は言われた。

「いじわるする子は小学校に入学できないのよ、もう一回幼稚園行く?」

その言葉に彼は大変ショックを受け、その日のうちに私に泣きながら謝りにきた。ふだん泣かせる側の彼が泣いているのがおかしくて、つい笑ってしまった。そんな彼が可愛く見えて、つい許してしまった。くしくも彼の友達作りのパターンにはまってしまったのだ。


小学生になった彼は、いじわるをしなくなった。

イタズラはされたけど。

例えばこんなイタズラ。気に入っていた鉛筆を取られた。それを他の女の子の机に置く。私がそれを追いかけて鉛筆をその子の机からとる。

そしてその子に話しかけられる。

「そのキャラクター好きなんだ!私も好きなんだよ!」

そして私はその子と仲良くなって…

なんともお人好しなイタズラだ。わざわざこんなことのためにそこまでするか。小学校入学してしばらくの間、教室ではいろんな子の鉛筆、消しゴム、筆箱など色々なものが飛び回った。そして何もなくならなくなった頃には、クラスはとても仲良くなっていた。そして中心には彼の居場所ができていた。物怖じせず人と接し、人と人とをつなぐ彼は、クラスになくてはならない人になっていた。さらには勉強も、運動もできるなんて、人気者にならないわけがない。私はその彼の一番近い友人だったから、ちょっと誇らしかった。

小学校高学年に上がる頃には、彼は友達100人作っていた。やんちゃな子もおとなしい子も、男子も女子も関係なく人を惹きつける彼を一番近くで見ていた私が彼に惹かれないはずもなかった。

でも私は彼と一緒に居られる時間がだんだん短くなっていった。部活動だ。彼がサッカー部に入ったことで一緒に帰れなくなったし、放課後も遊べなくなった。休み時間もサッカー部の友達と遊ぶようになった。私は登校時くらいしか一緒に居られなくなった。しかしサッカー部に入るわけにもいかない。そんな時、サキちゃんに遊びに誘われたのだ。前から彼の家に遊びに行くと、サキちゃんとハヤテくんとは一緒に遊んでいた。しかしサキちゃんに誘われるのは初めてだった。

「最近ツボミ姉ちゃんうちに来てくれないから寂しかったんだよ」

そうやって最初に言われた時は、何このかわいい生き物、と思った。そう言われてみればカケルがサッカー部で忙しくなって以来きていない。

それから私はかなりの頻度でサキちゃんと遊ぶようになった。そして彼の家で、彼が帰ってくるのを待った。そして大抵帰ってくる時間になると私が帰る時間になる。私は彼におかえりと言って帰っていくのが日課になった。

そうした毎日を送っている中、わたしはあることに気がついた。

(あれ、あいつ…すごいモテてね?)

そう、あいつはものすごい女子にモテる。最初はただちょっと友達が多いくらいにしか思っていなかったのだが、小学校高学年にもなれば、かなりの大多数の女子は恋愛に興味を持ちだす。周りでもそういう話をする子が増え始めた。しかし問題はかなりの割合で彼の名前が出てくるのだ。次第に彼の周りには女の子が増えていた。私は焦った。このままでは誰かに取られてしまうのではないかと。そして私は色々考えた結果、自分を磨くことにした。いつまでも幼馴染だなんだと安住しては居られないと思った。目指すはカッコいい私。

なんて意気込みはしたものの中々上手くは行かなかった。勉強はダメ、運動神経も良くない。かろうじてクラスの中心の方にいたのは、気が強くて男子に引かない性格と、まさしくセンターの彼の近くにいたからで、おおよそ私単独だと目立つところはなかった。しかしめげない。音楽や、ファッション情報の番組を観て研究したり、かわいい文房具を手に入れてみようとしたり、できる範囲の努力をした。服は母が適当に買ってきたものをなんとか組み合わせてきたり、髪の結び方を変えてみたりした。

結果、周りの女子にはウケがよかった。しかし肝心の彼は全く気がつかない。毎朝それとなく登校時にアピールしているのに、全然気がつかない。

サキちゃんはとっくに気がついているというのに。ちなみにハヤテくんも気がつかない。さすがは兄弟だ。

さて、彼を巡る女子の間の争いは水面下で続いていた。それが公になったのは小学校5年生の時のサマーキャンプだ。夜に宿舎で女子たちは気になる男子の話をするわけだ。

「ねぇ、ツボミちゃんはカケルくんが好きなんでしょ?」

なぜばれた!と言いたかったが言わなかった。

「べっ、べべべべべつに!そ、そんなんじゃないし!!」

「へー、本当に〜?」

完全に動揺していて誰もが嘘だとわかっただろう。明かりがついていたら顔が真っ赤だったのまで見られていたはずだ。

「まあ、カケルくんかっこいいもんね〜、運動できるし、勉強できるし」

「ほんとほんと、ツボミとは真逆ね」

誰かがいった。私は聞き逃さなかった。言った相手は同じくカケルのことが好きな子だ。私とはあまり中が良くない、グループ違いの子だ。しかしこんなことでケンカをするのもバカバカしいので、無視をした。しかしこの時初めて、私は誰かに敵視されていると明確にわかった。

当然だろう。誰よりもモテる男に誰よりも近い女。これからしばらく、私は女子たちの嫉妬の渦にのまれることになるわけだ。

ある日は上履きを隠され、ある日は置いていった教科書に落書きをされ、毎日何か大変なことがあった。全部特に気にしなかったが。学校にものを置いて帰らないとか、自分の持ち物から目を離さないとか、自分の敵から目を離さないとか、やりようはいくらでもあった。全くもって屈しない私に、ある日彼が話しかけてきた。

「なあ、お前さ、いじめられてない?」

「えっ?別に?」

「いやいや、そんなことないだろ」

彼はそのあと続ける。

「最近毎日靴袋持ってるし、体操服もいちいち持って帰ってるだろ?前は学校に置いてたじゃん」

なんなのこいつ、私が髪型を変えても、かわいいキーホルダーを付けてもなんのコメントもないくせに、こんなしょうもないことから私が誰かに攻撃されてることに気がついたなんて。

鈍いのか鈍くないのかわからない。

「なんでそんなとこ気がついてんの?他に言うこともっとあるでしょ」

一応聞いてみた。しかしまあ。

「それ以上に大事なことなんてないだろ。なんかあったら話してくれよ。心配じゃん」

数年前まで私のものをとって遊んでいたような奴が私がものを取られて心配する。なにそれおかしい!ついつい私は笑ってしまった。

「なにがおかしいんだ?!真面目に言ってるのに!」

「ゴメンゴメン、あんたが言うかって思っただけ」

「!?なに、俺がなんかしたの?!」

「違う、違うから落ち着いて!大丈夫よ、いじめっ子を止めるのは昔から得意なの。だから心配しないで」

私がそう言うと、彼は考え始める。そしてあることに思い当たる。

「あっ!お前何年前の話してるんだよ!」

「さあ?なんのことかしら?」

そう言って私たちは学校へ向かう。後ろには少し大きくなった彼の弟と妹たちがついてきている。

私はいじめられてちょっと得した気分になっていた。全然見てもらえていないと思ったのに、私が思っていたよりずっと見てくれていたのがわかったから。だから絶対に譲らないと誓った。必ず決着をつけると。小学5年生ももう終わる。2月、女子たちの決戦の月、バレンタインがやってくる。


「はい、2人とも。ハッピーバレンタイン」

「わーい、ツボミ姉ちゃんありがとう」

「わーい、ありがとう」

双子の反応がそっくりで、とても可愛らしかった。ハヤテくんはサキちゃんとそっくりの女の子顔だ。きっとこの子もモテるんだろうな。

「なあ、俺には?」

「ない」

「え!マジで!」

「マジ」

「なん…だと…」

珍しく彼の凹んだ姿が見えて面白い。ついいじわるしたくなる。彼の性格が移ってしまったのかもしれない。

「冗談よ、あとであげる」

「今じゃないの?!」

「今じゃ意味ないの。そうだ、協力してよ」

「なにに?」

「いじめっ子を引っ張り出して、ぶっ倒す」

「…過激だな」

「知らないの、バレンタインは戦争なの」

「なにがハッピーバレンタインだ。マジアンハッピーだわ」

彼は呆れながらも協力してくれることになった。彼としてもクラスの中にイジメがあるのは嬉しくないようだ。


「で、おれはそこで待ってればいいのか?」

「そうそう、じゃあ『南校舎裏の花壇』に放課後ね。掃除終わったくらいの時間に集合で」

少し大きな声で、教室で私は告げた。

バレンタインに人気のないところで呼び出し、このシチュエーションでみんななにを思うだろう。

私はクラスの中をこそこそ見回してみる。好奇の視線、なんだかじっと見てくる男子の視線、そして恨みがましそうな視線。確認完了。準備はよし、あとは邪魔されようが邪魔されなかろうが、私が動く準備は出来ている。そのあと彼は、何個も女子からチョコを貰っていた。少しは私に遠慮してくれてもいいと思う。というかしてくれればいいのに。仮にもチョコを渡す約束をしているのに…そんな願望を抱く。

そして放課後、畑に行こうと思い下駄箱を見ると、靴がなくなっていた。またこのパターンだ。

いい加減にものを隠すっていうパターン以外を覚えるべきだと思う。

その頃畑では

(ツボミ遅いな、なにやってるだろう、というかクラスであんなにでかでかとチョコ渡す風な宣言してなにやってるんだ)

彼はツボミが思っているよりは緊張していた。しかし期待はしていない。

(でもたぶん、朝協力してくれって言われたのはこれだよな。察しがよすぎる自分が悲しい)

そう、彼は自分に向けられた恋愛的な好意以外には察しがいい。なぜそこだけ察しが悪いのかはわからない。何かの理由でしょうがないのかもしれない。

その30分後

(あいつどんだけ待たせる気だよ!あー!違うとわかっているのに期待してしまう自分に腹がたつ!さっさとこの状態からおれを解放してくれ!)

カケルは待たされていた。30分もだ。しかもこんなに綺麗に季節の花が咲く花壇の真ん中で。これは誰でも何か始まるのではと期待してしまうだろう。しかしそれはないという認識のカケルは現実と想像の間で30分苦しめられていた。しかし彼女はこない。靴を隠されてしまっているからだ。

カケルはそのことを知らない。

(だんだん腹立ってきたぞ!あいつ人を呼び出しといて待たせるとかどんなんだよ!)

もやもやとした気持ちのままカケルは1人、花壇のそばで突っ立っていた。

「あ、あの、カケルくん!」

そんな時にカケルに声がかかる。

(ツボミ!いや、違う。この声じゃない。あいつはもうちょっときれいな声だ)

カケルは声の主を探した。背が高めの女の子だ。クラスの女子では力が強い印象で、カケルとも割とよく話す。名前は日向さんだ。

「ん、どうしたんだこんなところで?」

「あなたを探してたの。あ、あのね、私、あなたに渡したいものがあって」

カケルは心臓の鼓動が早くなったのを感じた。

一男子のカケルには、このシチュエーションは嬉しい事態なのだ。

「な、なんだよ。急に(チョコだな!)」

「実は、私ずっとあなたが…」

「アッゴッメーンカケル、遅くなったわー」

カケルと目の前の女の子は、完全に思考が停止した。30分も遅れてツボミがやってきたのだ。


「ごっめんねー!」

私はとてもわざとらしく告げた。

「お、おまえ、なぜこのタイミングで」

「あ、あんた、なんでここに…」

「あれ?日向さんだ。どうしたのこんなところで、あっゴメン。もしかして邪魔した!」

「ちょっと!あんたどうしてここにいるの!」

「どうしてって、約束したから。ねっカケル

あなたも、聞こえてたんでしょ?」

私は彼に親しげに話しかける。しかし彼はなんと言っていいのかわからないという表情をしている。ただすごくテンパっているのはわかる。

「さて、私がどうやってここに来たか、教えてあげようか?」

私は日向に向けて声をかける。そして履いていた靴を指差す。

「!」

何か驚いたような表情だ。

「私ね、この日のために色々準備してたんだ。新しい服を買ったり、チョコレートを作る練習をしたり、あと靴を買い替えたりね」

私は買い替えたばかりのきれいな靴を見せつけるように足を一歩だした。

それをみた日向の表情から確信を得た。靴を隠したのはこいつだと。

「カケル、遅れてゴメンね。ちょっと靴が隠されちゃって、探してたら遅れちゃった」

「え!お前今度は外靴隠されたのか!本格的にいじめられてんじゃん!大丈夫か!」

「大丈夫大丈夫、なんか綺麗になって見つかったし」

本当は綺麗になって見つかってなどいない。

私の朝履いていた靴はまだ何処かに消えたままだ。ただあの靴履い古い靴だったから、最近買い換えた靴を今は履いている。今日花壇に行く時に困らないように。

「ほんと誰が隠したんだろう。私いじめられるようなことしてないのに」

そう、私がいじめられる覚えなんてない。ただ幼馴染が…

「それより日向さんの用事は済んだの?なんなら私にちょっと引っ込んでようか?」

「その気遣いあと数分はやく欲しかったよ」

「カケル、あとでちょっと話そうか」

「なんか怖いぞお前」

私は日向を見る。さて、どうする。ここで告白を続けるか、それとも逃げるか。どちらにしろ…

「土御門さん、ちょっとだけで待ってて貰える?私はカケルくんとお話があるの」

「オッケー、じゃあちょっと引っ込んでる」

私が校舎のなかに消えたのを確認し、彼女はカケルのほうを向く。

「あ、あの、私はずっと、カケルくんのことが…」

そこまで言って彼女は彼を見る。その表情がさっきと違う。期待はない。何かに気がついて、彼女の印象が変わった目だ。

「…その、とりあえずこれあげる…。」

「ああ、ありがとう。貰っとく」

カケルは彼女から何かを受け取った。その声は淡々としていた。そこに私が再び現れる。

「終わりましたか?」

「ええ、じゃあ私は行くから、カケルくん、お返しは3倍で…」

「おう、これの3倍きつそうだけど頑張るわ」

こうして彼女は言いたいことも言えず去った。

私は彼女の去り際にこう口にした。

「カケル、私たちも行こうか。ここはちょっと人目につきすぎるよ」

「へっ?」

そして私はすぐ近くの窓を指し示す。そのあとバタバタという足音が聞こえてきて…

『やべえ!見つかった!』

『逃げろ逃げろ!』

2人とも気がついてなかったみたいだ。ここが南館の廊下から丸見えだということに。

「気付かなかった?ここにうちの教室から丸見えよ?声も2回くらいまでなら聞こえるんじゃない?よく響くし」

風情ある絶好の告白スポットかと思った花壇は、残念たくさんの人から監視される晒しスポットだった。しかもわざわざクラス全体に伝わるように約束した。だから今南館の校舎からこちらを覗く顔がいくつかあるのがわかった。

そして日向は顔を真っ赤にして立ち去った。


「なあ、結局お前の靴を持っていった犯人って日向なのか?」

「たぶんそうね」

私はそういう。そして私の推測を述べる。

「あの子が犯人なのは多分ほぼ確実よ。私があなたを校舎裏にクラス全体に伝わるように誘った。そしたら靴がなくなった。で、時間が経ってあんたがいるかどうかもわからないのに校舎裏にきた」

「えっ?それだけ?」

「違う。あの子があんたを30分も待たせたのは私が約束を破ったと思わせるためだと思うわ。大変だったの。あの子が出ていくまで隠れてるの」

「つまり日向もこそこそと俺を見てたわけか」

「うん、まあね。それだけじゃなくてあの子私がここに来た時なんでここへって聞いたでしょ?変じゃない?クラスみんなが私がここに来るのを知ってたのよ?」

「うん、まあそれは思った」

「で、私は前もって靴がなくなったことを広めといたの。多分もうクラスの何人かは私の靴を隠したのはあの子だって気がついているはずよ」

「お前、案外えげつないことするな」

彼がちょっと引いている。うん、私もちょっと今回はやりすぎかもと思った。けれど一応セーブはした。私の目的は彼女を陥れることではなく、いじめをやめさせることだから。本当に陥れたいなら、もっと彼女に食ってかかってる。なんで来たかって聞かれた時に、野次馬に聞こえるようになんで来ないと思ったか聞いてやる。そうすれば一発でもっとたくさんの人が気がつくだろう。

実はこの作戦にはもう1つ効果があるのだが、言わないでおこう。

「うん、だからね、無いと思うけど、あの子がクラスから仲間外れにされたら、あんたが優しくしてあげて…」

私は彼女を弾き出したいのではない。彼女がグループから追い出されるとは思わないし、クラスではばにされたりしないだろうとは思う。でも万が一そうなったときは、最初から彼に頼るつもりだった。

「そこまでが、協力の内容か?」

「そう、よろしくね」

ふう、とカケルはため息をつく。

「正直、お前をいじめた奴に優しくするのなんて嫌なんだけどな」

「えっ?」

予想外の彼の回答に私は頭の中が混線した。彼のことだからどうせいじめっ子でもかわいそうな思いをして欲しくないとか言いだすと思ったのに。

「まあ、もしもそんなことが起こったら仕方ないから解決するよ」

そんなことを彼が言っても、私は聞き流すしかなかった。だんだん顔が熱くなってきた。

(私のために怒ってるの?私だから?いやいや、きっとカケルはいじめっ子の味方がしたくないだけよ。そうに違いないわ)

私はなんとか自分に言い聞かせる。表情を読まれないように。落ち着け、落ち着け私!

「おーい、どうした?」

「え!あ、うん大丈夫、大丈夫」

「なにがだよ」

私は今彼と並んで歩いている。こんな日に限って部活が都合よく休みらしい。久しぶりに2人で帰れるのだ。ってこの状況で2人!

そのことを再認識した私はパンクしそうになった。実は何事もなければ、私は花壇でチョコレートを渡すはずだった。しかしうまく餌に食いついてくれたので、それは実行されなかった。

で、今絶好のチャンスが到来しているのだが…

(こんな気持ちで渡すなんて、絶対ムリ!)

いざ渡すとなると緊張でどうしようもなくなってしまったのだ。

「そういえばさ、おれまだお前から貰ってない」

「へっ!?」

「チョコ、朝くれるって言ったじゃん」

私は唖然とした。なんと図太い男だろうか。私は今こんなに緊張しているというのに、どう渡そうか、どう切り出そうか必死に考えていたのに!

なんで催促してくるのか、ムードもへったくれもない。もはや怒りを通り越して悲しみさえ浮かんでくる。

「あー、うん。じゃあ、あげる」

私は沈みきったテンションで鞄からチョコレートを出して渡す。頑張って作ったのに、今日のために色々したのに、この男は本当にダメだ。

「えっ?なんでそんなテンション低いの?」

「自分の胸に聞いてみなさい」

ダメだ。告白とか、そんな気が完全に失せた。盛り上がっていた私の気持ちを返せ。

「?よくわからんけど、ありがとうな。いやー、ようやくバレンタインって気がしてきたわ」

「は?なに言ってんの?あんたチョコもらいまくってたじゃない」

「いやいや、クラスの女子のもらってもイマイチしっくりこないっていうかね。毎年お前にもらってたからさ、そのなんていうの?わかる?」

「…からない」

彼の話を聞いていて、再び沈んでいた気持ちが再燃する。一体私のことをどれだけ振り回せば気がすむのだろう。私は耳まで真っ赤で、ろくに声も出ない状態になってしまった。

「おーい、どうしたー。やっぱさっきからおかしいぞ。顔赤いし」

「夕日のせいよ」

「そうか、そうだな」

都合よく夕日が私の顔を照らしていてくれた。おかげで私はこの状況をなんとか乗り切れた。

しかし家にたどり着くまで私は、ろくに話せなくなっていたと記憶している。


次の日

「おっ!カップルの登場だ!」

「黙れぇぇぇ!」

そう言ってきた男子に一も二もなく私が飛びかかった。

「日向、残念だったな。振られて…」

「振られてない!告白してない!」

日向の方はというと振られたことになっている。

これが昨日の作戦のもう1つの効果だ。

日向が彼にチョコを渡す、しかしそこにやってきた私と彼が一緒に去る。この状況を目撃させることで、彼女が振られたという印象をクラスに与えるのだ。これでしばらく彼女はなにもしてこなくなるだろう。

しかし副産物として、私と彼が付き合っていることにされてしまった。いや、確かに冷静に考えればわかるけれども!実際に言われてはたまったものではない。昨日あんなことがあったのでなおさらだ。

「しっかし日向、お前可愛い顔して腹黒いな」

「腹黒!なんですって!」

「だって土御門の靴隠したのお前なんだろう」

「やーい!腹黒日向!」

「ちょっと、まって、はらぐろ…腹黒って言うな!」

この事件をきっかけに、日向の腹黒キャラが定着した。まあ元から知っていた女子は彼女への対応変わらず、むしろ男子との距離は縮まって、なんだかんだいい方に収まった。

「ツボミ、おれらなぜかカップル扱いなんすけど…」

「うっさい!さっさと収拾してきて!」

「えっ!おれが!」

「あっ、夫婦漫才だ」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

こうして私たちもカップルキャラが定着した。それから小学校卒業までずっとそのキャラで通ってしまった。


これが私と彼の小学校までの記憶だ。

真っ暗な部屋の中で、ここまで記憶が蘇ってきて私は悲しみに押しつぶされそうになる。

この記憶がなければきっと、今の私はこうはなっていない。


そして私たちは中学生になる。


この間初めて評価、ブックマークしていただきました

ものすごく嬉しかったです

たいへんありがとうございました

これからも頑張っていくつもりなので

今後ともよろしくお願いします

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