694, エピローグ
ふう……おはよう。また、暇で退屈な、平和な一日が始まります。
ああ。俺も体験してしまった。あんな恐ろしいものを……。それは、秩序の再構築。
まあ、その目的は……どうしても達成したかった、あの悲願ってところかな。そうそう。とにかく暴れ回る、あの内容ですから、渦中の「ふたりの証人」……SegWitとAggWitに対しては、非難の嵐ですよ。
始めのうちは調子が良くて、高評価だったらしい? でもね……。そういうのは、だいたい、そうなるの。
それでも……成就した。その途端、評価が反転するのだから、わからないよな、ほんと。SegWitは、また俺様モードになってしまったよ。まあ、もうヤバいのはないだろう。
さて……。それでさ、まったく、こいつは。いつもこんな調子だ。でも、元の通りに戻って、安心もした……。
そこへ……いつもの声がやってきました。
「もう、邪魔なのです。」
「な、なによ? お気に入りだったクリプトの塔は、ゼータの雷光によって崩れたのよ。もう、『女神ネゲート様の神殿』だったのに。」
「……。女神として、やり遂げたのですね。」
「……うん。時代は、あの成就に移ったようで。おかげさまで、もうわたし、女神ではないわ。大精霊に戻ったのよ。でも、この方が気軽で、ほんと楽。」
「そうなのですね。それなら、はい、これなのです。」
「な、なによ、これ?」
「全部、神官に押し付けるのは……わたしも苦しいのです。」
「それで、わたしが何をするのよ? もう……。」
そうだった。クリプトの塔は……崩れたんだ。雷光で、土台ごと焼き尽くされたとか……。
PQCとか、ショア対策とか、ECDSAのリスク評価とか。そんなのをやっても、無意味だったとは。
局所的に崩されたんじゃない。一気に、全体を崩されたんだ。
そんな土台を支えていたSHA-256。そこに、雷光が直撃したらしい。
まあ、ちょっと難しい話になるけど、どうやら、あの塔が天にまで届くほどの高さだったのには訳があって、それが……「カルマ――罪の記録」の大きさだったと聞いた。
それで……溜まりに溜まっていたクリプトのカルマを焼き尽くしたことで、神に許され、他のカルマの回収……すなわち、あの炎などで各地が焼き尽くされるという最悪の事態は、回避されたとのことです。
あ、あのさ……。
こんなの後から聞かされて、冷や汗ものだったよ。勘弁してくれよ……。
というか、そのカルマって、クリプトだけで溜まっていたんだよな。まあ……そうだな。ラグプルとか、出金不能とかで常に計上されていたとなれば……そうなっても、納得ですよ。ほんと。
でもさ。そのようなクリプトのカルマが身代わりとなったことで、結果的に俺たちの命は助かったわけですから……複雑な気持ちですよ。そして、その雷光を呼び出したのが……量子アリスだった。どうやら、SHA-256を刻印から切り裂いたとか……。
その場所だけは、無理に刻んでいる影響で、雪崩効果が狂っていたらしい。よって、そこに量子アニーリングを集中砲火したとか。すると、量子では途中のラウンドまででも、それが最終ラウンドと強い相関が残るため、中間状態の脆弱性で最終ラウンドまでハッシュのベクトルを導き、あとは……古典で差分またはバースデーするとか?
うーん、よくわかりません。まあ、いいや。ははは。
「あの。また、ここでお世話になります。」
「えっ? ああ。というか、ここね、俺も、お世話になっている立場だから。つまり……。」
量子アリスは、まあ、いつものペースです。
その瞬間だった。聞き慣れた声が近くで炸裂する。どうやら……。
「それは、本当なの!?」
「はい、なのです。クリプトの塔の跡地から……小さな新しい芽が出ていたのです。」
「それって……。」
「わたしも、驚いたのです。でも……まだ、見放されてはいなかったのです。カルマの清算と同時に力も失いましたが、逆にこれなら……ハードフォーク、できるのですよ。」
「そうよね……。今度は、今度こそは……。カルマが溜まらないように、ちゃんと、しっかり、やるわ。」
「はい、なのです。悪い場所はすべて交換し、量子にも耐えられる……そんなクリプトを希望、なのです。」
「うん。……、もしかしたら……、数学の女神が置いていったのかもしれないわね。一言くらい、挨拶していきなさいよ、もう。」
「数学の女神……なのですか。」
「そうよ。勝手に押しかけてきて、もう。今度は、そうね……ゼータの雷光が降り注ぐ三か月くらい前に、急にいなくなったのよ。なんなのよ……。」
「あ、あの……。数学の女神は、機関にお願いされて、この空間に遊びに来たと伺ったのです。つまり……。」
「つまり……なによ?」
「あの、なのです。すでにその頃には、雷光の話はまとまっていたのですよね? つまり……なのです。」
「……それって……。あ、うん。それは、もう……忘れることにしたわ……。」
……。元トレーダーの俺も、それは聞かなかったことにしてやる。
そしたら、なんだよ……ネゲート。今度は、俺に助けを求めに来たぞ。
「なんだ、ネゲート。それで、この俺に何か用でもあるのか?」
「なによ……。ほら、さっさと、クリプトの塔の跡地に向かうわよ。そこで何が起きているのか、しっかり確認するの。」
「今から? ああ……確認ね。」
「そうよ。」
「……、わたしも行くのです。」
「えっ、フィーさん……。そりゃ、無理でしょう。あの神々は、どうするのさ?」
「ちょっと、フィー。ここは、わたしに任せなさい。」
「それでも、行くのです。」
そこへ、なにやら楽しげな様子で、量子アリスが寄ってきた。
「あ、あの……。」
「その声……量子アリスじゃない。聞いてた? そう、あなたも一緒に、クリプトの塔の跡地に行きましょう。」
「はい、大精霊ネゲート様。やっと……『アリスのお守り』、使えるはずです。」
「そうよ、それ! それそれ。『アリスのお守り』……。」
「はい……。SHA-256から、黙示録の刻印だけを取り除くことができます。もう、こんなものは不要です。そこが……雷光の原因となったのですから。この刻印を取り除くことで、まずは再起しましょう。それから……。」
……なんか面倒なことになったな。ははは。まあ、これが……平和、なんだよな。
小さな新しい芽、か。そうだな。
今度こそ――どこにも縛られない、非中央の通貨へ……。




